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死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス
3章:沖縄ダンジョン編

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3章46節

毎日17:30投稿

沖縄の夜は、その日も静かだった。


昼間の騒動が嘘のように、

風だけが街路樹を揺らし、

遠くで波の音が重なる。


セーフハウスの一室。

照明は落とされ、最低限の灯りだけが点いている。


誰も、すぐには口を開かなかった。


ヤヒロは、壁際に盾を立てかけたまま、床に座り込んでいた。

使い捨てる盾は、黙して語らない。


だが――

確実に、重くなっていた。


守った。

確かに守った。


それでも。


(……全部は、守れなかった)


あの場で、

守ると決めた優先順位。


市民。

仲間。

米軍。

所有者。


正しかったと、頭では理解している。

だが、胸の奥に、冷たい澱が残っていた。


「……ヤヒロ」


ユイが、静かに声をかける。


彼女の肩には、包帯。

ダンジョンの外で無理に弓を引き続けた弊害だった。


それでも――

生きている。


「……ありがとう」


短い言葉だった。


「……止めてくれなかったら……私、死んでた」


ヤヒロは、視線を上げる。


ユイは、いつものように笑おうとして、

やめた。


「……怖かった」


それだけ言って、

弓を膝に置く。


彼女にとって、

魔素の薄い世界で放ったあの一射は、

これまでとはまるで違う意味を持っていた。


守られる側になる不安。

守りが届かないかもしれない恐怖。


それを、

初めて知った夜だった。


少し離れたところで、

ヤチヨが壁にもたれて立っている。


腕には、まだ力が残っている。

だが、表情は硬い。


「……負けたわ」


誰にともなく、呟く。


「臨界まで踏み込んで……それでも、届かなかった」


傲慢の剣は、

彼女に力を与えた。


同時に、

届かない現実も、突きつけた。


「……あたし、あそこで止まれなかった」


以前の失敗が、脳裏をよぎる。


今回は、殺していない。

だが、「力で押し切ろうとした」という点では、同じだった。


「強くなっても……判断を間違えたら、意味ないのね」


珍しく、自嘲気味に笑う。


ツダは、窓際に立っていた。


外の光を背に、

モノクルが淡く光る。


彼の手には、

ケースに収められた刺剣。


厳重に、

しかし、どこか丁寧に。


「……記録は、すべて提出した」


淡々とした声。


「公安としての処理も、問題ない」


一拍。


「――だが」


その「だが」に、

三人の視線が集まる。


ツダは、

モノクルを外さずに続けた。


「私は……楽しかった」


空気が、わずかに凍る。


「理解できないだろうな」


自覚は、ある。


「暴動。武器。欲望。判断のズレ」


「人間が、どこで壊れるのか――」


「……とても、興味深かった」


沈黙。


ユイが、ぎゅっと弓を握る。


ヤチヨは、眉をひそめる。


ヤヒロだけが、

ツダを真っ直ぐ見ていた。


「……ツダ」


「なんだ」


「それは……危ない」


ツダは、一瞬だけ、目を細めた。


「分かっている」


分かっているからこそ、

止まらない。


「だからこそ――私は、まだ必要だ」


誰かが、

線を引かなければならない。


その役を、

自分が引き受けているつもりだ。


正しいかどうかは、

分からない。


だが。


「今回の件で、はっきりした」


ツダは、刺剣のケースに手を置く。


「七つの大罪は、装備ではない」


「――人間を映す、鏡だ」


ヤヒロは、盾を見る。


ユイは、弓を見る。


ヤチヨは、剣を見る。


それぞれが、

何を映しているのか。


答えは、

まだ出ていない。


夜は、深い。


だが――

朝は、必ず来る。


次に待つ戦いは、

もっと静かで、

もっと残酷かもしれない。


それでも。


彼らは、

同じ場所に立っている。


それが、

この戦いで得た、

唯一にして最大の成果だった。




事件は、“映像”として消費された。


夜のニュース。

速報テロップ。

ワイドショー。


『米軍基地周辺で発生した大規模騒乱――』


『刃物を持った人物が兵士を襲撃』


『混乱の中、一名死亡』


カメラが捉えたのは、

血。

怒号。

押し合う人々。


誰が、

なぜ、

どうして。


細部は、

切り落とされる。


代わりに残るのは、

分かりやすい構図だけだ。


「またかよ……」


「結局、暴れたもん勝ちじゃん」


「米軍が悪いんだろ」


「いや、刺した奴が狂ってる」


SNSでは、無数の意見が飛び交う。


正義。

悪。

被害者。

加害者。


どれも、誰かが決めたラベルだ。


「守ろうとした人間」の姿は、

どこにも映らない。


舌を噛み切った理由も、

恐怖も、

妬みも、

誰にも伝わらない。


市民団体は、

翌日も声を上げる。


「真相を明らかにしろ!」


「隠蔽するな!」


怒りは、

次の怒りを呼ぶ。


静かに、

だが確実に。


いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。

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