3章43節
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ヤチヨは、一歩踏み込んだ。
迷いのない踏み込み。
剣を振るための予備動作すら、もはや削ぎ落とされている。
閃光。
虎嘯大曲剣が、空気を裂く。
「――遅い」
ジップの低い声。
だが、その言葉とは裏腹に、
彼の反応は僅かに遅れた。
金属と金属が噛み合う音。
セスタスで受け止めきれず、
衝撃が腕を通して身体に流れ込む。
「……っ」
ジップの足が、半歩下がる。
その瞬間を、
ヤチヨは逃さない。
二撃目。
三撃目。
剣は、重い。
だが、その重さを速さで誤魔化さない。
一撃一撃が、
確実に殺すための軌道を描いている。
(――浅い)
(だが、十分)
剣圧が、ジップの防御を削る。
地面が抉れ、
砂埃が舞う。
周囲の米兵が、一斉に距離を取った。
「……信じられんな」
ジップが、息を吐く。
「この環境で……この精度か」
魔素の薄い、ダンジョン外。
本来なら、
彼女のような存在ですら、動きは鈍るはずだった。
それでも、ヤチヨの動きは落ちていない。
それどころか――
「……押している?」
誰かが、そう呟いた。
事実だった。
剣が、セスタスを上から叩き落とす。
防御。
回避。
反撃。
そのすべてが、ヤチヨの想定内。
(――これで、終わる)
そう、確信しかけた瞬間。
ジップが、笑った。
「……ああ」
「なるほど」
「我慢は、やめだ」
その声は、低く、熱を帯びていた。
次の瞬間。
――空気が、変わった。
ドン、と。
まるで、地面の奥で何かが爆ぜたような衝撃。
ジップの足元から、
見えない圧が広がる。
「……っ!?」
ヤチヨが、目を見開く。
剣を通して伝わる感触が、
さっきまでとは、まるで違う。
硬い。
重い。
――怒りそのもの。
「……憤怒の力」
ヤチヨが、低く呟く。
セスタスが、
赤黒く、脈打つように震えている。
憤怒。
抑え込んできた感情が、
堰を切ったように溢れ出す。
「……殺せない」
「壊せない」
「奪えない」
その一つ一つが、
燃料だった。
「だから――」
踏み込む。
今度は、
ジップの番だった。
一撃。
拳が、
空気ごと叩き潰す。
剣で受けたはずのヤチヨの身体が、
衝撃だけで吹き飛ばされる。
「――っ!」
空中で体勢を立て直すが、
追撃が、間に合う。
二撃目。
セスタスが、
剣の腹を真正面から叩く。
衝撃。
虎嘯大曲剣が、
悲鳴のような音を立てる。
(……重い)
(さっきまでとは……違う)
ヤチヨの表情から、初めて余裕が消える。
ジップは、止まらない。
「来い」
怒りを、
一歩も引かずに叩きつける。
その背後で、
米兵たちが息を呑む。
「……これが」
「本気の……」
誰かの声が、掠れる。
二人は、再び激突する。
剣と拳。
誇りと怒り。
――まだ、終わらない。
だが、
戦場は確実に、次の段階へ進んでいた。
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