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死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス
3章:沖縄ダンジョン編

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3章40節

毎日17:30投稿

拳。


音が遅れて聞こえた。


刺剣の所有者の身体が、横殴りに吹き飛ぶ。

地面に叩きつけられ、二度、三度、転がった。


それでも。


彼は、剣を手放さなかった。


血に濡れた指で、

必死に、必死に柄を掴む。


「……っは……」


笑っている。


肺に空気が入らないはずなのに、

口元だけが歪む。


「……すげぇ……」


「……なぁ……」


「……もっと……」


立ち上がろうとして、崩れ落ちる。


ジップは、止まらない。


一歩。

また一歩。


圧倒的な圧力。


だが――


最後の一線だけは、越えない。


殺せない。


ここはダンジョンではない。

世界が、見ている。

国が、国と向き合っている。


(……クソが)


歯を食いしばる。


憤怒が、行き場を失う。


殺したい。

粉々にしたい。

今すぐ、この場で終わらせたい。


それでも――できない。


だから。


拳ではなく、蹴り。


急所を外し、

しかし確実に身体を壊す一撃。


ジップの足が、振り上がった。


それは蹴りというより、踏み潰すための動作だった。

急所を外すとか、制圧するとか、そういう判断の領域をとうに越えている。


――次で、壊れる。


誰の目にも、それが分かった。


その瞬間。


金属音が、炸裂した。


ヤヒロの盾が、再び割り込む。


横合いから叩き込まれた蹴りを、

真正面から受け止める形ではない。

進路をずらすための、斜めの受け。


それでも、衝撃は凄まじかった。


盾越しに、骨が軋む。

腕が、肩が、内側から引き裂かれそうになる。


「――ッ!」


ヤヒロは、歯を食いしばって踏ん張った。


ジップの足が、地面を抉る。

コンクリートに亀裂が走る。


止めた。


――止めてしまった。


「……どけ」


低い声。


抑えている。

だが、抑え切れていない。


「そいつは――」


「殺させません」


ヤヒロは、盾を下げない。


声が震えているのは、恐怖のせいだけじゃない。

覚悟が、追いついていない。


「ここはダンジョンじゃない」


「市民がいる」


「世界が見てる」


一つ一つ、言葉を選ぶ。


間違えれば、

ジップの怒りに火を注ぐだけだと分かっている。


それでも、言うしかなかった。


刺剣の所有者は、地面に転がったまま、

血を吐きながら、二人を見上げている。


笑っていた。


「……はは……」


「いいね……」


「最高だ……」


「そうやって……」


「守ろうとする顔……」


刺剣が、微かに鳴いた。


ジップの視線が、

一瞬だけ、所有者に戻る。


――殺せない。


その現実が、

再び、胸に叩きつけられる。


「……クソが」


吐き捨てるように呟く。


ヤヒロは、盾を構えたまま、一歩前に出た。


所有者と、ジップの間に、完全に立つ。


「ここで終わらせます」


「でも――」


「殺させない」


その言葉に、

所有者の笑みが、歪む。


「……あぁ……」


「そうか……」


「それが……お前の“守る”か……」


ジップが呟いた。


所有者は刺剣を、ゆっくりと持ち上げる。


立ち上がろうとして、膝をつく。

身体は、もう限界だ。


それでも、刃先は、こちらを向く。


「だったら……」


「ここで……」


「全部、見せてやるよ……!」


次の瞬間。


ジップが、動いた。


蹴りではない。

拳でもない。


盾ごと、押し潰すような体当たり。


ヤヒロは弾き飛ばされ、

地面に叩きつけられる。


肺の空気が、すべて押し出される。

背中から伝わる衝撃が、遅れて全身を殴った。


(――っ、まだ……)


起き上がろうとして、指が痙攣する。

盾は、数メートル先に転がっていた。


その瞬間。


風が、逆流した。


「――そこまで」


低く、鋭い声。


ヤチヨだった。


音もなく、

ジップと所有者の間に割って入る。


立ち方が違う。

重心が、完全に“戦闘用”へ切り替わっている。


「……ヤチヨ、だったか」


ジップが、名を呼ぶ。


抑えていた憤怒が、

その一言で、はっきりとした敵意に変わる。


「どきなさい」


ヤチヨは、所有者を一瞥すらしない。


視線は、最初から最後まで、

ジップだけを見ている。


「これ以上は、私がやる」


「――勝てる気か」


「違うわ」


一歩、踏み出す。


地面が、沈む。


「止めるだけよ」


次の瞬間。


ジップが、動いた。


拳が、一直線に飛ぶ。

殺さない。

だが、壊すには十分な速度と質量。


ヤチヨは、避けない。


正面から、受け流す。


拳と前腕がぶつかり、

衝撃波のような音が、周囲に響く。


続けざまの膝蹴り。


ヤチヨは半身になり、

肘で受け、距離を詰める。


「……っ」


ジップの表情が、僅かに歪む。


――強い。


ダンジョン外。

魔素は薄い。

それでも、純粋な肉体操作と殺意の圧縮で、押し返してくる。


「あなた、抑えが効かない」


「今の戦場に、一番向いてない」


ヤチヨの言葉に、

ジップの怒りが、さらに燃え上がる。


「――黙れ!」


二人の衝突が、

周囲の空気を完全に遮断する。



いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。

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