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死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス
3章:沖縄ダンジョン編

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3章39節

毎日17:30投稿

怒号は、次第に「音」ではなく「圧力」へと変わっていた。


誰かが叫ぶ。

誰かが押す。

誰かが倒れ、踏まれる。


普天間基地正門前は、もはや抗議の場ではない。

爆発寸前の容器だった。


米軍兵たちは盾を前に出し、円陣を組んでいる。

銃は下げられたまま。

指は引き金から外れている。


撃てない。

使えない。

それでも、退くこともできない。


「隊形、維持しろ!」


英語の怒号が飛ぶ。


だが、隊列の端が揺らいだ。


市民が――

いや、もはや「市民」と呼ぶべきか分からない群れが、

盾を叩き、押し返してくる。


その中心。


刺剣の所有者は、まるで観客席の中に立つ役者のように、

一歩も動かず、すべてを見渡していた。


(いい……)


(もっと、だ)


彼の視界には、

恐怖、怒り、正義感、自己保身、

ありとあらゆる感情が、色として流れ込んでくる。


――妬みは、熟していた。


「……来るぞ」


ツダが、低く呟いた。


モノクル越しに見える情報が、

一つ、また一つと、危険域に達している。


精神負荷。

集団心理。

暴発確率。


どれも、赤に近い黄色。


(このままじゃ……)


ツダは、歯を食いしばる。


これは捜査ではない。

分析でもない。


――事故が起きる前の、最後の瞬間だ。


「ヤヒロ!」


ツダが叫ぶ。


「市民を後ろへ!一度、距離を――」


言葉は、途中で途切れた。


刺剣の所有者が、動いた。


ほんの一歩。

だが、それだけで、空気が変わる。


「ほら」


剣先を、軽く振る。


血は、もう出ていない。

だが、その動作だけで、人々が息を呑む。


「次は、誰だ?」


その瞬間。


――米軍側の一人が、前に出かけた。


若い兵士だ。

表情が、固まっている。


恐怖。

使命感。

そして、怒り。


それを見た瞬間、

ジップの眉が、明確に動いた。


「――下がれ」


低い声。


だが、届かなかった。


刺剣の所有者は、笑った。


(ああ……)


(来た)


次の瞬間。


ジップが、前に出た。


盾を持たず、武器も構えず。


だが、その存在感だけで、

周囲の空気が、殴られたように歪む。


「……お前か」


ジップの声は、静かだった。


怒鳴らない。

脅さない。


それが、逆に恐ろしい。


「俺たちの兵を刺したのは」


刺剣の所有者は、肩をすくめる。


「偶然だよ。ここにいたら、ぶつかっただけだ」


嘘ではない。

だが、真実でもない。


ジップは、一歩、前へ出る。


一歩。


それだけで、市民団体の前列が、無意識に後ずさる。


圧だ。


(まずい……)


ヤヒロは、直感した。


ここから先は、

守るための戦いではない。


ジップの判断は、

「止める」ためではなく「終わらせる」ためだ。


「待て!」


ヤヒロは、無理やり前に出た。


盾を、ジップと所有者の間に滑り込ませる。


「ここはダンジョン外だ!市民が――」


「分かっている」


ジップは、ヤヒロを見ない。


視線は、あくまで刺剣の所有者に固定されたままだ。


「だからこそ、だ」


その一言で、

ヤヒロは理解してしまった。


(……守る前提が、ない)


(この人は、被害を最小にするために――)


(誰かを切り捨てる覚悟で来ている)


刺剣の所有者は、愉快そうに息を吐く。


「はは……」


「いいね。君」


「分かってる顔だ」


ジップが、さらに一歩踏み出す。


圧が、暴力に変わる。


その瞬間。


ヤヒロの身体が、勝手に動いた。


盾を、強く突き出す。


「――止まれ!」


衝撃。


だが、それは、

衝撃と呼ぶには、あまりにも一方的だった。


盾ごと、弾かれる。


ヤヒロの身体が、宙に浮き、地面に叩きつけられる。


息が、抜けた。


(……届かない)


(守れない)


ジップは、視線すら向けなかった。


「排除する」


短い宣告。


その瞬間、

刺剣の所有者の顔から、笑みが消えた。


だが――

恐怖ではない。


興奮だ。


(ああ……)


(やっと、だ)


彼は、剣を逆手に持ち替えた。


逃げるためではない。

自害でもない。


――見せるための構え。


刺剣が、鈍く鳴いた。

歓喜とも悲鳴ともつかない、不快な反響。


「……ほらな」


荒い呼吸の合間に、言葉が漏れる。


「これが……俺だ……!」


一歩、踏み出す。


狙いは定まっていない。

誰でもいい。

見てほしい。

恐れてほしい。


その瞬間――


空気が、裂けた。


ジップが、前に出る。


盾も構えず、銃も抜かない。

ただ、怒りだけを叩きつけるように。



いつもありがとうございます。


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