3章37節
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最初に異変を捉えたのは、
ダンジョンでも冒険者でもなかった。
全国ネットの朝番組だった。
『――現在、沖縄・普天間基地周辺では、市民団体による大規模な抗議活動が行われており――』
画面の向こうで、
プラカードと怒号が揺れている。
基地正門前。
有刺鉄線。
盾を構えた米兵たち。
よくある光景だ。
少なくとも、日本に住む人間にとっては。
だが――
『……待ってください、今、前列が……!』
カメラが乱れる。
一人の男が、
群衆の中から、ふらりと前に出た。
ヘルメットもない。
旗も掲げていない。
叫びもしない。
ただ、歩く。
その手には、細身の剣。
異様なほど、場違いな武器。
「――あ」
現場の誰かが、声を漏らした。
次の瞬間。
男は、米兵の盾の隙間に滑り込み、
刺した。
深くはない。
致命傷でもない。
だが――
確かに、血が出た。
『――負傷者! 負傷者が出ました!』
『武器を持った人物が――!』
一瞬の沈黙。
そして。
爆発した。
怒号。
悲鳴。
石が飛ぶ。
催涙ガス。
閃光弾。
「下がれ!」
「撃つな!」
「医療班!」
秩序という言葉が、
音を立てて砕け散る。
刺した男――
嫉妬の刺剣の所有者は、
誰にも追われず、群衆に紛れた。
いや。
追われていないのではない。
追う余裕が、なかった。
同時刻。
都内のセーフハウス。
テレビに映る映像を見た瞬間、
ツダが、椅子を蹴って立ち上がった。
「……やりやがった」
ヤヒロは、言葉を失う。
「ダンジョン……外……?」
「選んだんだ」
ツダの声は、低い。
「最大の観測点を」
全国中継。
軍事施設。
政治。
感情。
「これはもう、冒険者案件じゃない」
ユイが呟く。
「テロ……」
ヤチヨは、静かに笑った。
「いい舞台じゃない」
その笑みは、冷たい。
「英雄にも、怪物にもなれる」
ヤヒロは、盾を掴んだ。
「行く」
迷いはない。
「守る対象が……多すぎる」
ツダが頷く。
「だからこそ、だ」
「“選ぶ”しかない」
時を同じくして、普天間基地、臨時指揮所。
ジップ・ブリージャーは、
モニターを睨みつけていた。
「……対象、確認」
刺剣の映像が、スローで再生される。
「間違いない」
副官が息を呑む。
「ダンジョン由来武器……」
ジップの拳が、机を叩く。
「クソが」
怒りが、増幅される。
「ここは戦場じゃない」
だが。
「だからって、見逃す理由にはならん」
彼は、立ち上がる。
「部隊を出す」
「市街地だぞ!」
「関係ない」
低く、鋭い声。
「もう始まった」
普天間基地周辺。
火が上がる。
車が横転し、
シャッターが叩き壊され、
叫び声が夜に溶ける。
カメラは回り続ける。
『――現在、現場は完全に制御不能――』
実況の声が、震えている。
その混乱の中心。
刺剣の所有者は、
血のついた刃を、愛おしそうに撫でていた。
「……見てる」
誰にともなく呟く。
「見てる、見てる」
胸が高鳴る。
ヤチヨの力。
米軍の暴力。
そして、自分。
「負けない」
嫉妬が、蠢く。
「負けてたまるか」
次は、誰を刺そうか。
――その前に。
風が変わった。
重い足音。
統制された動き。
「……来た」
刺剣の所有者が、笑う。
基地の反対側から、
盾を構えた男が走ってくる。
ヤヒロ。
その背後に、
矢を番えるユイ。
殺気を抑えきれないヤチヨ。
そして、全体を睨むツダ。
別方向からは、
装甲と銃を携えた米兵たち。
先頭に立つのは――
ジップ。
三つの視線が、
一点で交わる。
ダンジョンでもない。
戦場でもない。
日常の延長線。
だからこそ。
誰も、引けない。
三つ巴の戦いが、
今、始まった。
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