3章34節
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転移ゲート前。
普天間基地跡地に設けられた、仮設ダンジョン入口は、今日も騒がしかった。
市民団体の抗議声。
ギルド職員による規制線。
そして、それらを遠巻きに見る観光客のスマートフォン。
「……相変わらずだな」
ヤヒロは、盾を背負いながら呟いた。
前夜の“静寂”が、まだ体に残っている。
眠ったはずなのに、頭が冴えすぎている感覚。
ヤチヨは、大曲剣を持ち直しながら言った。
「今日は、深入りしないって話だったわよね?」
「その予定だ」
ツダが答える。
いつもより短い言葉。
だが、その目は鋭い。
ヤチヨが、口角を上げた。
「予定通りにいった試しがないんだけど」
「今回は、意図的だ」
ツダは言った。
「“価値あるレア”を狙う」
ヤヒロが、盾を叩く。
「……俺のせい、だな」
「違う」
ツダは即座に否定した。
「これは、必要な工程だ」
「盾が“選ぶ”段階に入った以上、こちらが選別しなければ制御不能になる」
ヤチヨが、低く笑う。
「要するに、餌付けだろ」
「言い方はどうでもいい」
ツダは、ゲートを見据える。
「エピックに至る瞬間を、観測する」
その言葉に、ユイが一瞬だけ身震いした。
「……楽しそう」
ツダは、否定しなかった。
ダンジョン中層。
沖縄の市街地を模した廃墟は、さらに深く侵食されていた。
アスファルトを割る巨大なシダ。
信号機に絡みつく蔦。
倒壊した商業ビルの内部には、濃い湿気と甘い腐臭が溜まっている。
「来るぞ」
ヤチヨが言う。
音がした。
金属を引きずるような、低い摩擦音。
現れたのは――
人型。
だが、全身が鎧。
いや、鎧“そのもの”が生きている。
「装備型モンスター……」
ツダが、即座に記録を取る。
「レア等級以上、確定だ」
鎧の隙間から、赤い光が漏れている。
内部に、核がある。
「……盾」
ヤヒロは、無意識に前に出た。
その瞬間。
盾が、震えた。
明確な意思。
――欲している。
「ヤヒロ!」
ユイが叫ぶ。
鎧が、突進する。
重い一撃。
ヤヒロは、正面から受けた。
――反転。
衝撃が、歪む。
鎧の動きが、一瞬止まった。
「今!」
ヤチヨが、横から斬り込む。
だが――
鎧が、向きを変えた。
攻撃対象が、ヤチヨから――ユイへ。
「っ!」
ユイが、跳ぶ。
矢を放つ。
だが、間に合わない。
その瞬間。
盾が、強く光った。
空間が、歪む。
攻撃対象が再選択された。
鎧の一撃は、再びヤヒロへ向かう。
「……俺を、選んだ」
ヤヒロは、歯を食いしばる。
受ける。
受け切る。
盾が、唸る。
そして――
鎧が、崩れ落ちた。
核が、露出する。
「止めだ!」
ヤチヨが、叩き割る。
光が、爆ぜた。
吸収。
盾が、ドロップした装備を“飲み込む”。
今までとは、明らかに違う反応。
熱。
重さ。
そして――
「……来るぞ」
ツダの声が、震える。
数値が、跳ね上がる。
装置が、警告音を連打する。
「等級変動……確定!」
ユイが、息を呑む。
「エピック……?」
ツダは、ゆっくり頷いた。
「到達した」
ヤヒロは、盾を見る。
表面に、新しい紋様が浮かび上がっている。
だが、スキル表示は――
「……ない?」
ユイが言う。
「特性も、スキルも、増えてないよ?」
ツダは、目を細める。
「違う」
「“下地”が完成した」
ヤチヨが、興味深そうに言う。
「つまり?」
ツダは、言葉を選びながら告げた。
「これからは、レア等級すら拒否する」
「エピック装備を欲するようになるぞ」
ヤヒロが、盾を握る。
「……それって」
「簡単には、力を得ない盾になった」
ツダは、静かに言った。
「どう強くなっていくのか、選ぶ先の器だ」
「そして守る対象を、選ぶための盾だ」
ユイが、小さく笑う。
「わがまま」
ヤチヨが、肩をすくめる。
「だが、強い」
ツダは、盾から目を離さない。
その瞳に、微かな高揚が宿っていた。
――制御できる。
――まだ。
そう、信じている。
だが。
ツダ自身が気づいていない。
今の彼は、
“盾を見る目”で、
“人間”を見始めていることに。
価値。
取捨。
測定。
静かに、異常は進行していた。
そして、ヤヒロは――
盾を通して、
“守るとは選ぶことだ”という現実を、否応なく突きつけられていた。
この先、
選ばなかったものを、
本当に守れるのか。
答えは、まだない。
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