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死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス
3章:沖縄ダンジョン編

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3章31節

毎日17:30投稿

セーフハウスの夜は、沖縄にしては静かだった。


遠くで走る車の音と、空調の低い唸りだけが、時間の経過を教えている。

窓の外には、街灯に照らされた何でもない路地。

昼間の騒ぎが嘘のようだった。


ヤヒロは、盾を膝に置いたまま、しばらく動かなかった。


磨いているわけでもない。

構えているわけでもない。

ただ、そこに置いているだけだ。


盾は、静かだった。


吸収を重ね、以前よりも重く、分厚くなっている。

防御値は上がっている。

数字としては、確実に。


――だが。


「……なあ」


ヤヒロが口を開く。


声は低く、掠れていた。


「さっきの件」


ユイも、ヤチヨも、何も言わない。

二人とも分かっている。


話題は、あの“失敗”だ。


「俺は、守ろうとした」


それだけを、まず口にした。


「間に合わなかったけど。でも、あのとき……俺は、あいつを守るべきだって思った」


盾に視線を落とす。


「それが、正しいって」


ユイが、ゆっくりと顔を上げる。


「……正しい、の?」


問いは短い。

責める響きはない。


ただ、確認するような声だった。


ヤヒロは答えに詰まる。


正しい。

正しかったはずだ。


敵であっても、生きたまま捕らえなければならない。

それが今回の作戦だった。


でも――


「……分からない」


そう言うしかなかった。


「分からなくなった」


沈黙。


ヤチヨが、壁にもたれたまま腕を組む。


「守ろうとして、結果として取り逃がしたよね」


口調は、いつもより抑えられている。

だが、苛立ちは隠れていない。


「そのせいで、もっと酷いことが起きる可能性があるわ」


視線が、ヤヒロを刺す。


「それでも?」


ヤヒロは、即答できなかった。


盾が、わずかに軋む。

錯覚かもしれない。

だが、確かに――応えている気がした。


「俺は」


ゆっくりと、言葉を選ぶ。


「殺すことで、問題が終わるなら……中層では、そうしてきた」


声が震える。


「でも、今回は違う。違うはずだった」


ユイが、静かに言う。


「……殺さない前提で、戦う」


「ああ……」


「……それは、守ること?」


問いが、核心を突く。


ヤヒロは息を呑む。


守る。

何を。

誰を。


敵を?

仲間を?

秩序を?


「全部だ」


そう言った瞬間、自分でも無理だと分かった。


全部を守るなんて、できるはずがない。


ヤチヨが、鼻で笑う。


「欲張りだね」


短く、吐き捨てる。


「それは、“守る”じゃないわ。優柔不断よ」


言葉は鋭い。


「私は、あの場で終わらせるべきだと思った」


「だから、殺したのか」


ヤヒロの声が、低くなる。


ヤチヨは一瞬だけ視線を逸らし、すぐに戻す。


「だからじゃない」


「じゃあ、なんだ」


「力があったからよ」


その一言が、空気を凍らせた。


「私なら、できると思った」


拳を握る。


「止められる。制圧できる。誇示もさせない」


唇を噛む。


「……でも、違ったわ」


その声には、自己嫌悪が滲んでいた。


「結局、力で押し潰しただけ」


ユイが、ぽつりと呟く。


「……それは……いつもの戦い方」


ヤチヨは黙る。


それが、何よりの肯定だった。


ヤヒロは、盾を見つめる。


「俺の盾は……守れる」


呟くように。


「攻撃を止める。逸らす。引き受ける」


顔を上げる。


「でも、“選ぶ”ことができてない」


ユイが、静かに頷く。


「……全部受ける盾は……もう限界」


「ああ」


「……だから、破綻しかけてる」


その言葉が、胸に突き刺さる。


ヤヒロは、何も言えなくなる。


そのとき、扉が開いた。


「――まだ起きてるとはな」


ツダだった。


顔には疲労が滲んでいる。

だが、目だけは冴えている。


いつもより、少しだけ。


「報告は、明日でいい」


そう言いながら、部屋を見渡す。


「……重たい空気だ」


ヤチヨが鼻を鳴らす。


「原因は、あんたが持ってきた仕事だろ」


ツダは苦笑する。


「否定はしない」


そして、ヤヒロを見る。


盾を見る。


一瞬、モノクル越しに何かを測るような視線。


「……変わり始めてるな」


ヤヒロが顔を上げる。


「盾が?」


「お前が、だ」


ツダの声は淡々としている。


「守りたいものが増えた」


一歩、近づく。


「その結果、何を捨てるか決められなくなってる」


痛いほど、正確だった。


「いいことだ」


そう言ってから、続ける。


「だが、戦場では致命的でもある」


ユイが口を開く。


「どうすれば、いい」


ツダは少し考え、答える。


「“守る”を再定義しろ」


短く。


「全部は無理だ。だから、選べ」


ヤヒロの胸が、ざわつく。


「選ぶ……?」


「誰を、何を、いつ守るか」


ツダは盾を見る。


「盾は、使うものじゃない」


一拍。


「判断を映すものだ」


沈黙。


ヤヒロは、ゆっくりと盾を抱え直す。


重い。

だが、今までとは違う重さだ。


「……俺は」


小さく、しかしはっきりと。


「仲間を、最優先で守る」


ユイを見る。

ヤチヨを見る。


「敵は……必要なら、守る。でも、それで仲間が死ぬなら、違う」


ヤチヨが目を細める。


「甘いな」


「それでも、だ」


ヤヒロは引かない。


ツダが、僅かに笑う。


「いい」


「……いいのか」


「盾としては、正しい方向だ」


そう言って、モノクルを外す。


「次は、行動で示せ」


それが、次の戦いを示していた。


静かな夜は、終わりを告げていた。


盾は、まだ黙っている。


だが――

確実に、次の形を欲していた。


いつもありがとうございます。


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