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死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス
3章:沖縄ダンジョン編

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3章30節

毎日17:30投稿

所有者が消えた。


光がほどけ、空間が元に戻っていく。

刺剣も、血も、狂気も――まとめて、奪われたように。


沈黙を破ったのは、ツダだった。


「……何を、見ていた」


声は低い。

だが、冷え切っている。


ジップが振り返るより早く、ツダは距離を詰めた。

軍人同士の間合いではない。

失態を突きつける距離だ。


「拘束は成立していた」

「四肢は制圧下、逃走経路なし」

「自害の兆候は、三秒前から出ていた」


一つひとつ、淡々と並べる。


「止められた」

「奪取できた」

「――それでも、逃がした」


ツダの目が、鋭く細まる。


「これは判断じゃない」

「ミスだ」


ジップの表情が硬直する。

反論が来る前に、ツダは続けた。


「お前は“怒り”に気を取られた」

「武器じゃない」

「相手でもない」

「自分の感情だ」


その言葉が、深く突き刺さる。


「現場の主導権は、完全にお前にあった」

「なのに、最後の一手で目を離した」

「結果は何だ?」


ツダは、消えた地点を一瞥する。


「刺剣は外に出た」

「次はダンジョン外だ」

「犠牲者は、確実に増える」


一拍置き、さらに冷たく。


「お前一人のミスで、だ」


周囲の米兵たちが、息を潜める。

これは上官への報告でも、外交的なやり取りでもない。


現場責任者同士の、断罪だった。


ジップは、拳を握る。

だが、言い返さない。


「……否定しない」


低い声。


「俺の落ち度だ」


ツダは容赦しない。


「なら、覚えておけ」

「次は“ミス”じゃ済まない」

「お前が見逃したのは、武器じゃない」


視線が、ジップを貫く。


「人間だ」


それ以上、言葉は続かなかった。

必要なことは、すべて言った。


その少し離れた場所で、ヤヒロは立ち尽くしていた。


――止められなかった。


違う。

止めるという発想すら、通用しなかった。


自分が割って入った瞬間、

盾を前に出し、守る意思を示した瞬間。


あの戦場では、それが――

ただの隙だった。


守ろうとした。

間違いなく。


だが、守るという前提自体が、

この戦場では成立していなかった。


ヤヒロは、自分の盾を見る。


重い。

確かに、守れる力はある。


それでも――


「……俺は」


声にならない。


ジップのミス。

ツダの叱責。

そして、自分の無力。


すべてが噛み合って、

一つの結論だけが胸に沈んだ。


――この戦場では、

守るだけでは、足りない。


そして次は、

それを否定してくる相手が、

ダンジョンの外から来る。


確実に。



ユイは、その場から一歩も動けなかった。


弓を構えたまま、

弦は引き絞られ、矢は番えられ、

それでも――放てなかった。


放つ理由は、あった。

放たなければならない理由も、あった。


それでも、指が動かなかった。


(……違う)


自分に言い聞かせる。


(撃てなかった、じゃない)


視界の端で、ヤヒロが割って入ったのが見えた。

盾を前に出し、声を張り上げ、

それでも吹き飛ばされる姿。


(……私は)


その瞬間、考えてしまった。


――今じゃない。

――もう少し様子を見てから。

――誰かが、止めるかもしれない。


それは、恐怖ではなかった。

判断でもなかった。


委ねたのだ。


誰かに。

状況に。

流れに。


(……それが、私の癖)


ユイは、唇を噛む。


怠惰。

動かないことを選ぶ罪。


動けなかったのではない。

動かない理由を探してしまった。


ヤヒロは、動いた。

無茶でも、無謀でも。


それができたのに、

自分は――弓を持ったまま、見ていた。


「……ごめん」


誰にともなく、零れる。


その謝罪が、

一番届いてほしい相手には、

きっと届かないと分かっていながら。



ヤチヨは、奥歯を強く噛みしめていた。


――まただ。


また、自分だ。


一歩、踏み出すタイミングはあった。

二歩目も、あった。


だが、踏み込まなかった。


いや――

踏み込む必要がないと思った。


(……どうせ、終わる)


(あれは、もう――)


最後まで言語化する前に、

現実がそれを叩き潰した。


所有者は死に戻り、

刺剣は消え、

すべては、最悪の形で「続行」になった。


(……私が)


拳が、震える。


自分なら、止められた。

自分なら、終わらせられた。

そう思っていた。


それ自体が、傲慢だった。


(力があるから、選べる)

(正しいから、最後に出ればいい)


その思考が――判断を遅らせた。


ヤヒロが前に出たとき、

ヤチヨは一瞬、考えた。


――任せても、いい。


その一瞬が、すべてを壊した。


(……私が、やるべきだった)


怒りが、内側で渦を巻く。

だがそれは、敵ではない。


自分自身への怒りだ。


誇り。

自信。

実力。


それらが、「最後に立っていればいい」という錯覚を生んだ。


「……クソ」


吐き捨てる。


自分は、強い。

それは事実だ。


だからこそ、先に動かなければならなかった。


強さを、切り札として温存したこと。


それが、傲慢の正体だった。



三人は、それぞれ違う形で立ち尽くしている。


ヤヒロは、

「守れなかった」ことに傷つき。


ユイは、

「動かなかった」自分を責め。


ヤチヨは、

「動かなくてもいいと思った」自分を呪う。


同じ失敗。

同じ結果。


だが、背負った罪は違う。


そして、三人とも理解している。


――次は、同じでは済まない。


次に同じ過ちを犯せば、

それはもう「失敗」ではなく、

選択になる。


戦闘の終わったダンジョンの中は、静かだった。


だがその静けさは、

それぞれの胸の中で、

確実に、別の形の嵐を育てていた。



いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。

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