(24) ピルケール王は焦っている
大変遅くなって申し訳ありません。
別のコンテストの小説が書き上がらず、終わった後も、カミーユの世界に戻るのに少し時間がかかってしまいました。
ピルケール王はカミーユを一目見て、自分が探し求めていた相手を見つけたと思った。
新しい国の王となったばかりで、国内に結婚相手を求めるのは危険すぎる。できれば国外でとは思うのだが、できたばかりの国に親族を娶せてくれるような国はどこにもない。
嵐の中、小舟で飛び出したような自分と共に、嵐を乗り越えられるだけの知識、カリスマ性、外交力。それを全て持ち合わせている。王太子の元婚約者という肩書きも自分にとっては都合が良い。
それに加えてあの美しさだ。ピルケール国は南国のため、髪を短くしている女性も多い。短髪であるが故に女性の価値が落ちると思っている貴族達の、なんと馬鹿らしいことか。褐色の肌に黒い髪の女性ばかり見慣れていた国王にとって、白い肌に銀の糸が光り輝いているような髪は宝石のように輝いて見えた。
それから熱烈にアプローチを続けたが、どうにも色よい返事がもらえない。今後のことを考えると、あまり強くは出られない。時間をおいて欲しいと頼まれたので、他の国への挨拶にも行ったが、頭の片隅にはカミーユのことがこびりついていた。
戻ってきた途端、舞踏会を開くという。皇太后が身罷られたと言っていたのに、舞踏会は行うのか。出席してみて分かったのは、どうやら自分に他の女をあてがおうとしていることだった。美しければ良いというものではないのに。
「カミーユはどうした。我はカミーユに会いたい。」
ピルケール王の言葉に、王妃が静かに答える。この女も嵐を乗り越えるにはふさわしい女性だ。ただし、自分の寝首を掻き切られないよう注意が必要だが。
「カミーユ様は父親の病床に付き添っております。」
王妃の言葉にピルケール王は本気で眉を顰めた。
「なんと。宰相殿は具合が悪いのか。皇太后殿下も身罷られたと聞いたぞ。それなのにこの舞踏会とは。」
さっさと帰ってしまおうか。そう思った矢先、訪れを告げる声が響いた。
「アルデルタ・シンクレア様。カミーユ・シンクレア様。ご到着にございます!」
その高らかな声を合図に、華やかなワルツの旋律がぴたりと止んだ。重厚な扉が左右に開かれ、父である宰相にエスコートされ、カミーユが入場してくる。見たことのない形のドレス。パンツを履いた足首はきゅっと引き締まっていて美しい。
「なんと、足首を見せるとは……。恥ずかしくはないのか。」
「はしたないこと……。」
ヒソヒソと声が上がるが、カミーユはそれらを春風に流すかのように、凛として前を見据えている。そのあまりの美しさに、彼女から目を離すことはできなかった。
「おお、カミーユ殿。会いたかったぞ!宰相も息災のようだ。」
倒れたと言われていた宰相とカミーユの登場。自分の隣では王妃が必死に動揺を押し殺している。
歌劇などより刺激的なものが見られそうだと、ピルケール王は興奮を隠しながら高みの見物と洒落込むことにした。
それにしても驚きだ。この国を牛耳るために王妃がそこまでしているとは思わなかった。帝国との外交は慎重に行う必要がある。初めて見る王太子も、噂とは違い、修羅場をくぐり抜けてきたような静かなな迫力がある。私の挑発にも乗ってこなかった。まだ若いが、王になる頃には更に化けているかもしれない。
カミーユが王太子の願いを断るだろうとは予測していたが、まさか、フレランジュ国の王女を王太子妃にしようとするとは思わなかった。この二国が強いきずなで結ばれれば、帝国もおいそれと手出しはできなくなる。そこまで考えての話なのか。その才覚に背中がゾクゾクするのを覚えた。
ミュゼラ姫は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに楽しそうな顔に戻った。
「なるほどのう。当然妾は今まで通りあちこちの国を飛び回るぞ。その時はカミーユ。お前を供にするぞ。」
「王太子妃の命とあれば従いましょう。」
即答したカミーユに、ミュゼラ姫はご機嫌だ。扇を広げて楽しげに瞳を細め、隣のシャールをチラリと盗み見る。その視線は獲物を追い詰めた虎のような鋭さを帯びていた。
「はははは!妾としてはぜひ受けたい話だな。さりとて妾の一存では決められぬ。」
「もちろんでございます。後ほどフレランジュ王への親書も作成させていただきます。」
このままでは自分抜きでカミーユの将来が決まってしまう。焦ったピルケール王は、喉の奥で苦い笑いを噛み締め、指先で顎をなぞった。しかし、二国を相手取るのは、どう考えても分が悪い。
考えているうちにカミーユが自分の前にやってきて、淑女の礼をする。その顔には、静かな湖面のような凪いだ微笑みが浮かんでいた。
「私は妃にはなれませんが、ピルケール国と末長く友好を保てる関係を築きたいと願っております。まずは『友人』としておつきあいいただけませんか?」
「なるほど、『友人』と。では友人を助けるために食糧を送るが、その代わり、我が国に遊びに来て欲しいと言ったら叶うのか?」
我ながら未練がましいと思うが、食い下がらずにはいられなかった。カミーユは見惚れるような笑顔で頷く。
「ええ。その時は私の有能な部下を連れて訪れさせていただきます。」
どこまでも仕事として捉えているカミーユに、ピルケール王は白旗を上げざるを得なかった。
「仕方ないな。それで手を打つとしよう。友人として、一曲踊ってはもらえぬか。」
ピルケール王の出した手に、カミーユは微笑んで自分の手をのせた。
「喜んで。」
止んでいた音楽が鳴り出し、大きく開いた広間の真ん中に二人が進み出る。王の大きな掌がカミーユの腰を抱き寄せ、もう一方の手が彼女の指先を優しく、しかし離すまいとする強さで包み込んだ。力強いピルケール王の動きと優雅なカミーユの動きは絵画のように美しかった。
背中に回した手に力を入れながら、ピルケール王はカミーユの耳元で熱く囁く。
「そなたを諦めたわけではないからな。」
カミーユの長いまつ毛が一瞬だけ震えたが、彼女はその挑発を交わすように、さらに深く、優雅にステップを刻んだ。
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