DAY97 晴れない雲と一筋の光
「はあ・・はあ・・はあ・・はあ・・」
光が遮られた鉄筋の森を潜り抜け、
歩き続ける一馬達。
誠「はあ・・はあ・・はあ・・はあ・・」
葵「大丈夫?・・一馬、少し止まれない?」
誠「はあ・・あ、葵さん。だ、大丈夫だよ。もう少し、はあ・・はあ・・あっ」
誠の緊張の切れ、足腰の力が抜ける。
誠は申し訳なさそうな顔を一馬に見せる。
一馬「・・・・工場も抜けたし、少し休もう」
一馬達は適当な建物に入り、
荷物を広げないまま休息をとる。
2時間後には出発する予定なので、
みんな荷物を抱え、座り目を瞑る。
トーマス「一馬、ちょっとこい」
一馬「ん?どうした」
トーマスに言われるまま、
一馬とトーマスは場所を移動する。
トーマス「傷は?」
一馬「えっ、なんだ唐突に?なんの?」
トーマス「ゾンビネズミにやられた傷だよ」
一馬「何怒ってんだよ・・・」
一馬は瑠奈を守った時、傷を負っていた。
深く鋭い爪が肉に食い込み、血がはじけ飛んだ。
一馬(そういえば・・・どこだっけ?)
一馬は傷のついた部分を探す。
トーマス「見せろ!」
トーマスは服に染み付いた血を探す。
腕の裾を強引にまくり上げる。
トーマス「・・・・いつからだ?」
一馬「あ?何のことだ?」
トーマスの質問の意味がわからず、
一馬も苛立ちが隠せなくなってくる。
黒羽「傷だな・・傷の治り・・・だろ?」
黒羽が聞き耳を立てていたが、
痺れを切らし、話に割って入ってくる。
トーマスは黒羽の顔を見て頷く。
一馬「黒羽・・・な、治り?」
一馬は腕の傷を確認する。
一馬自身気にもしていなかった。
一馬(治り?血が止まってる?)
よく見ると、血が止まっているどころか
”傷口”に薄い皮膚の膜が張り始めている。
その時一馬は全身を触り始める。
ゾンビとの戦闘に慣れたとはいえ、
生傷は絶えることはない。
ゾンビ共の攻撃はもちろん、
移動や戦闘時に負う、裂傷や打撲など。
一馬(いつから?いつから気にしなくなった・・・)
トーマス「そうか・・・気づいてないんだな」
一馬「勿体つけるなよ」
トーマス「一馬、お前・・感染してる可能性がある・・」
一馬・黒羽「!!!」
一馬「冗談はよせよ!感染してる?一馬様の脳みそは理性的で知的な高速回転中だぞ!肉体的に強くなって回復力が上がってるだけだろ?以前、高熱を出した事があったけど・・今回は大丈夫だぞ?」
黒羽が慌てふためく一馬を見て、
突然服を脱ぎ出す。
一馬の目に飛び込んできた、
均等で無駄がない、
鍛え上げられた黒羽の肉体だった。
そして、無数の古傷と生々しい傷。
何より目を引いたのは、血が滲み続ける無数の傷。
トーマス「すまん黒羽さん。一馬、回復力があろうが、身体を鍛えようが、個人差はあってもこんな感じだ。しかもお前の傷・・数時間前の傷だぞ?」
一馬「(確かに・・・)でも、だからってどうしろって?」
3人の沈黙が続く。
トーマスの問いに対しての一馬の返事に、
適当な答えが見つかるはずもない。
一馬「とりあえず3人の話でとどめておこう」
トーマス「しかし・・いや、んー」
黒羽が脱いだ服を整える。
黒羽「一馬に賛成だ!それより、転化の危険性は?」
トーマス「んー正直わからんが、ここ数日一緒に居ても傷口の完治以外、変わっていないし・・・」
黒羽「確かに、馬鹿面に変化はない」
一馬「おい」
トーマス「確かに、馬鹿面だな」
一馬「おい」
トーマス「とにかくだ!何か違和感があったら報告しろ!抗生物質、必ず毎日取れ!いいな?」
一馬「おーい、ディスっていきなりまとめるな」
トーマスと黒羽は納得するかのように、
一馬の元を離れていく。
一馬「おい、おーい・・・・もしもし?もしもーし?おい!!」
「キャッ」
一馬が振り向くと瑠奈が近くいた。
瑠奈「びっくりした。ど、どうしたの?」
一馬「る、瑠奈!い、いつから居たんだ?」
瑠奈「い、今だけど・・・」
一馬「どうしたんだ?」
瑠奈はバツの悪そうな顔を見せる。
一馬は瑠奈の表情を見て察する。
一馬「怪我のことは気にするな!」
瑠奈「でも・・・」
一馬「凹む暇があるなら今は休め!いいな?」
瑠奈は俯きながら沈黙する。
一馬は瑠奈の肩を軽く叩きその場を離れていく。
一馬は角を曲がり死角に入り、
壁に背中を強く叩きつける。
ドキドキドキドキ
一馬(あー聞かれてなくてよかったぁ。大丈夫?大丈夫だったよね?バレなくてよかったー)
瑠奈に聞かれてなかったのが、不幸中の幸いであった。
瑠奈は責任感が強いゆえ、罪悪感を抱く恐れがある。
一馬(でも隼人さんには伝えておこう)
一馬「瑠奈、とりあえずもう少ししたら出発する。」
一馬「気にしないのは無理かもしれないが、みんなで守り合う!」
一馬「だから一人で守ろうなんて考えるな。まずは自身の命を最優先に動け。いいな」
一馬は以前の隼人に言われた事を瑠奈にも告げる。
”生き残る為に必要な心構え。”
自分の命を粗末に扱う者に誰も救えない。
一馬「いいな」
一馬は瑠奈に微笑みかけ、拳を突き出す。
瑠奈「・・・・うん」
瑠奈が一馬の拳に拳をぶつける。
迷いの雲が晴れ、一筋の光が差し込んでくる。




