DAY96 無機質な冷たい森
赤く染まった雲が消え、
見慣れた朝を迎える。
一馬「終わったああああ」
一馬は歓喜を叫ぶ。
朱華は空を見上げ、ゆっくり目を閉じ深呼吸する。
噛み合った作戦が、
狂乱の血死潮を快勝へと導く。
錬次は一馬に手を振り、
武臣は遠くを見つめる。
瑠奈は朱華の動きを思い出しながら、
一馬の無事に安堵する。
葵と誠はハイタッチして勝利を分かち合う。
六花は建物から飛び出し、
朱華の元へ向かって行く。
隼人は黒羽へ近づいていき、
肩に手に置いて労いのしぐさをする。
朝日が少しずつ存在感を主張し始める。
水平線を分けるように光の筋が走る。
隼人「さて、準備しよう」
黒羽は静かに頷き、
ライフルをバラし片付ける。
隼人はクラフトで再利用する為、
薬莢を拾い集める。
地味な作業だが、
今回の様な戦い方では必要な行動である。
誠も葵も拠点を出る準備をする。
瑠奈「誠、葵さん・・・この荷物は?」
瑠奈も合流し支度を手伝う。
今回は籠城後、
出来るだけ早く出発する作戦を遂行する。
理由は備蓄の枯渇である。
ガレッジからここまで、
殆ど休みなく戦いが続いていた。
そしてチームが拡大したことにより、
必要なものも同時に右肩上がりになる。
計算を狂わした要因のひとつは、
”折り畳み式マウンテンバイク”を手放した事である。
ふたつ目の要因は、
工場までの道中で、
想像以上に戦闘が多く、武器の消費した事。
ここまで来るのに、
想定の倍の時間と浪費がかかっている。
なにより荒廃した壊れた世界で、
水と食料問題は死と直結する。
皆の協議の上、
狂乱の血死潮を無事乗り越えられれば、
迷わず出発する事に決めた。
一馬と朱華が合流する。
朱華「武臣!」
武臣「はい、ルートは”あの”ポイントが良いと思います。」
武臣が地図を指さし、
ルートの方向へ目を向ける。
狂乱の血死潮で一か所だけ、
大量にゾンビが流れてきた工場があった。
狂気の夜は大量のゾンビが襲ってくるが、
ゾンビは自然に湧いて出てくるものでもない。
人の多い所から、匂いを嗅ぎつけ流れ込んでくる。
隼人「OK・・・武臣さんには事前に周辺の調査もしてもらったし間違いないね」
一馬「よし、最速で住宅エリアへ向かう。誠、葵ちゃん、トーマス・・・キツいけどついてきて!」
一馬は声をかけ、みんなと目を合わせる。
一同は深く頷き、それぞれ荷物を担ぎ始める。
黒羽「一馬」
一馬「ああ、目的はショッピングマート!食料確保を優先する。」
隼人「ペースメーカーに、一馬くんと朱華さん。後方支援は僕と黒羽・・・いいね」
一同「おう!」
一馬が錬次の肩に手を置く。
一馬「頼むぞ!」
錬次「おうよ」
錬次の顔が引き締まり、
武臣と目を合わせる。
武臣は錬次に向かい頷く。
瑠奈は朱華を見つめ、
リュックのベルトを引き絞る。
朱華「一馬行こうか」
一馬「ああ、しっかりついて来いよ」
朱華「ああ、ゾクゾクさせるな!一馬」
一馬「うっせ!行くぞ!」
軽口を叩きながらも、
緊張の糸は張り詰めたままである。
冷たく大きく広がる鉄筋コンクリートの森。
陽の光すら届かない暗い空間が広がる。
誠は思わず生唾を飲み込む。
いつもなら、
お約束のゾンビがお茶目に登場するが、
狂乱の血死潮後は、ゾンビの数は極端に少ない。
警戒心を解くわけにはいかない。
しかしこの状況の利が、
出発動機の後押しをした。
固く無機質な空間で、
息遣いと足音だけが響く。
ガサッ
カチ
一斉に銃を構え警戒する。
「チ・・チチ、チ」
ネズミが餌を求め徘徊している。
一馬「(ネズミ????)・・・・・・まずい!警戒しろ」
一馬の声が響き渡る。
声に反応し、物陰からゾンビネズミ共が姿を現す。
朱華「チッ」
朱華はネズミの動きに反応しナイフを突き刺す。
ドンドンドン
錬次は器用にハンドガンを使い、
ネズミを正確に撃ち抜いていく。
隼人・黒羽・六花は、
誠・葵・トーマスを中心に、
ネズミから3人を守る。
瑠奈は一馬や朱華の動きに合わせ、
取りこぼしたネズミを仕留めていく。
一馬「(埒が明かない・・)走れーーーーーー」
皆一斉に走り出す。
走りながら隼人と黒羽は、
正確にネズミを撃ち殺す。
葵「あっ」
葵は乱雑にばら撒かれた何かに躓く。
黒羽「・・・・」
ドンドンッ
黒羽はネズミから葵を守り、
手を引き立ち上がらせる。
葵も黒羽も言葉を交わさず、前に走り出す。
瑠奈のペースが上がっていく。
瑠奈が一馬を追い越し、先に進む。
その時、死角からネズミが飛び掛かる。
瑠奈「!!!!」
一馬「痛ッ」
瑠奈をかばい一馬が割り込んでくる。
ザクッ
朱華が一馬を襲ったネズミを刺し殺す。
朱華「お前、なに勝手な事してやがる」
朱華が瑠奈を突然怒鳴り始める。
一瞬固まるが、一馬が朱華を止める。
一馬「後だ!行くぞ。瑠奈・・気にするな」
瑠奈は唇を嚙みしめるが、
深く頷き走り出す。
朱華は一馬を睨みつけるが、
一馬が走り出したので、渋々走り始める。
入り組む無機質な冷たい森で、
感情の根が複雑に絡まり始める。




