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DAY89 朝霧に消える記憶

雨音は時間と共に強くリズムを刻む。


「か…」

「かず…」

「おい、一馬っ!」


一馬「えっ?」


一馬は黒羽(クロウ)の呼びかけに反応する。

目を開けた視界の先に、

少しだけモヤがかかっている。


モヤも次第に消えていく。


トーマス「一馬、聞いてるのか?」

一馬「あ?ああ、少しボーとした悪い。もう一度いいか?」   


トーマスは不安気な表情を浮かべるが、

姿勢を正し、要求を述べる。


トーマス「俺を死の大地まで連れて行ってくれ」

一馬「えっ?」


一馬の心臓の鼓動が跳ねあがる。

脳裏に浮かぶ「デジャヴ」の言葉。

「なぜか?」とトーマスに語りかけようとするが、

一馬の記憶にその「なぜか?」が理解できる。


一馬・トーマス「ワクチン」

トーマス「えっ⁉︎」


トーマスが驚く姿をみんなは静観している。

黒羽(クロウ)だけは一馬を怪訝な表情で睨む。

一馬が取り繕うように、愛想笑いを浮かべる。


トーマス「な、なんでわかった?」

一馬「え?んーギバーを出てくる理由としては…それぐらいしか思いつかないかな」


嘘である。

一馬は咄嗟に嘘をついた。

トーマスの頼み事をわかった理由は単純に、

一馬は今回の記憶が鮮明にあるから。


トーマス「ま、まぁいい。理解が早いのはいつもの事だな。一馬にアリーの話しもしてあったし」


一馬「だろ?そうだと思ったよ!はは」


一馬の乾いた笑いでその場をやり過ごす。

トーマスは不安気な表情を崩し、

目的の経緯を説明し始める。


隼人「トーマスさんが今回作るワクチンは、抵抗力を持たせる為のワクチンじゃ無くて、死滅させるためのワクチンなんだね?」


トーマス「あ、ああ!そうだ」


葵「質問です。死滅と言いましたが、インフルエンザですら無効化するワクチンはありませんよ?」


トーマスは葵の疑問に納得する様に頷く。


トーマス「あんたの言う事はごもっともだ!異論はない。しかし今回のワクチンは性質が違う」


黒羽(クロウ)「性質…どう言う事だ?」


トーマスは補足する。


ゾンビを研究していてわかった事は、

必ず適合し適応する肉体が不可欠である事。


ウイルスの広がるスピードは早いが、

ウイルス単体だと脆弱であること。


より強い変異したウイルスが現れると、

オリジナルは死滅する「可能性」がある事。


黒羽(クロウ)は納得するように押し黙る。

一馬は正直トーマスの説明でも理解はできなかった。


それよりもトーマスの説明が、

話し始める前から知っていた事が衝撃的だった。


妻アリーの残した最後の希望を、

トーマスは無駄にしたく無いと考えている。


一馬「わかった!いいですか?隼人さん」


大所帯になり、

一馬がリーダーで隼人がサブリーダーで構成された。

一馬の決定に隼人が賛成すれば、

基本的な方針が決まる。


隼人「同意するものは挙手して…」


一馬は今回の結果を理解していた。

満場一致かと思いきや、六花だけが苦言を呈する事を。


六花「今回は理解しますが…しかし彼は戦えるのですか?現状でも非戦闘員で2名います」


隼人「理解している。朝までに隊列などは考えておくよ」


朱華「おい、六花…一馬をあまり困らせるな」

六花「しかし…すいません。では、よろしくお願いします。」


隼人「任せておいて」


方向性は決まり、女性陣は詰所。

男性陣は各配置に移動し、

ゾンビに備えて待機する。


しかし雨が強い日は、

ゾンビの動きがほとんど無い。


匂いが消え、音も届かないので

当然と言えば当然である。

足止めされてしまうが、

ゆっくり休むには適した日でもある。


一馬は壁に寄りかかり考え込む。

一馬の頭の中で、

「なぜ?どうして?今は?」っと

自問自答がぐるぐる回っている。


黒羽(クロウ)「一馬…」

一馬「…なんだよ」


黒羽(クロウ)は眉間に皺を寄せ一馬を見下ろす。


一馬「わかった!わかった!そんなに睨むなよ。話す、話すよ…」


一馬は黒羽(クロウ)に違和感の経緯を話す。


黒羽(クロウ)「記憶がある?」

一馬「ああ、一言一句。最初はデジャヴかと思ったけど」

黒羽(クロウ)「リポイスはしていないんだな?」

一馬「あっいや…うーん」

黒羽(クロウ)「チッ!はっきりしねーな」

一馬「多分、リポイスではある?」


黒羽(クロウ)は一馬の、

煮え切らない答えには不満気に睨みつける。


一馬「だから、いちいち睨むなよ!鮮明な記憶と展開はリポイスそのもので、前後の記憶もある」


黒羽(クロウ)「前後?この後の記憶も?」

一馬「ああ、もうすぐ雷が近くで落ちる」


ピカっと倉庫内に明るい光が差し込んでくる。

ドカッ


一馬の予言通り、近くで落雷する。


黒羽(クロウ)「・・・他には?」

一馬「えーと、朝には雨が止む・・・あっ!隼人さんの編成が…」


数時間経ち、辺りはまだ暗いが、

雨音も次第に小さくなっていく。

詰所に集合し、隼人が編成を決めていく。


隼人「編成、割り振りをするね」


前衛:一馬、瑠奈、隼人

中衛:朱華、六花、葵、武臣、誠

後衛:黒羽(クロウ)、鍊次、トーマス


黒羽(クロウ)が一馬と目を合わせる。

一馬は無言で頷き、軽くため息をつく。


これから自転車を背負い、

水没したコンクリートの建物を進む。


迷路のようなコンクリート瓦礫の間を進む。


しかし進んだ先で、

記憶が途切れている。


一馬は頭の中を整理する。


リポイスしていると仮定して、

今回は1日目に戻っていない。


・死んだ可能性は?

ガレッジ(軍用大学拠点)クリアで変化があったから?


一馬の警戒心が上がっていく。

朝霧と共に思考が白く染まる。

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