DAY84 長い1日の終わり
赤い月の灯火は消え、
空は普段の色を取り戻しつつあった。
そのせいで、かえって周囲の視界は悪い。
ゾンビの動きも確認しづらくなっている。
一馬は合流地点までたどり着いた。
状況を確認しながら走り出す。
視界の先に狂気を帯びたゾンビが、
全力疾走している。
ゾンビは2人の男に向かい、
襲いかかろうとしている。
武臣が錬次を守る姿が見える。
一馬(錬次?)
錬次は四つん這いになり、
武臣は錬次をゾンビから隠す様に立ちすくんでいる。
一馬はゾンビの動きを目で追いかけながら、
一直線に錬次の方へ走って行く。
走りながら、錬次の姿になぜか怒りが込み上げる。
死に戻りを繰り返すたび、
仲間を失った記憶や、
錬次の死の記憶が刻まれていく。
今、錬次が限界なのは、一馬も十分理解をしている。
一馬(やっとここまで来たんだぞ……)
一馬はゾンビに駆け寄り、
ボウイナイフを斬りつける。
ゾンビの頭は勢いよく切り離され、
錬次との視線が重なる。
一馬「(情け無い面しやがって…)錬次ッ‼︎」
一馬は思わず、怒声を上げた。
守れなかった過去の記憶と、
死ぬなと伝えるために。
一馬は足を止めない決断をする。
錬次は必ず立ち上がり反旗を翻すと…。
周囲を注意深く見渡す。
黒い影にライフル音と火花が散る。
黒羽達が応戦している。
一馬(瑠奈が居ない…朱華は?)
駆けながら、ゾンビを狩りながら瑠奈を探す。
一馬「(いたっ!)黒羽ッ!」
走る一馬に黒羽が気がつく。
一馬は残り僅かの予備のマガジンを放り投げる。
短い言葉で黒羽は、理解する。
黒羽「一馬、頼んだっ」
一馬は振り返らず、握りこぶしを突き上げる。
視界を動かし、出来る限り状況を確認する。
立体的に大きく動く影が見える。
一馬「はあはあはあはあ」
一馬の心臓が今にも爆発しそうになる。
身体の酸素が失われ、意識が飛びそうになる。
しかし一馬は不思議な感覚に襲われる。
まだ朝日も差し込まない薄暗さの中で、
なぜか2人の姿とゾンビの姿が鮮明に見える。
意識がふわふわとし、現実との境界線が消える。
あれほど感じていた重力さえも今は感じない。
|Transient Hypofrontality
一馬は自然と超集中状態に入る。
一馬自身には記憶がない。
だからこの超集中も、初めて味わう感覚だった。
一馬(なんだ‥足が軽い?止まっている?)
視界に入る者たちが、ゆっくり動いている。
瑠奈も朱華もゾンビ共も‥。
一馬(夢なのか?いや違う‥わからない。わからないけど‥‥イケる!!)
瑠奈と朱華の視界に、一馬が飛び込んでくる。
朱華「なっ何?」
瑠奈「かず・・」
一、二、三‥一気にゾンビを三体切り倒す。
一馬は方向を変え振り向き、
朱華に襲い掛かるゾンビに、
ボウイナイフを投げつける。
投げると同時に、
近くのゾンビへ向かい、
ゾンビの関節を極め、へし折る。
立ち尽くす瑠奈に、ゾンビが襲いかかる。
一馬は瑠奈の腰に手をまわし、身体を引き寄せる。
ドンドンドンッ
瑠奈の拳銃をホルダーから抜き取り、
ゾンビの頭に弾丸を撃ちこむ。
ホルダーに拳銃を戻し、瑠奈から離れる一馬。
朱華の折れた鎖骨が悲鳴をあげる。
激痛を堪えながら、戦い続け朱華も限界を迎える。
ゾンビの頭に、長い脚を叩き込もうとするが、
膝から力が抜け、足元が崩れる。
一馬は朱華と入れ替わる様に、
ゾンビの頭に蹴りを叩き込む。
蹴りを振り抜き、朱華と向かい合う。
一馬は体勢を崩した朱華を抱き支え、引き寄せる。
一馬「あと、少し」
朱華の覚悟を試す様に、目を真っ直ぐ見つめる。
朱華は頷き、一馬から離れる。
瑠奈も朱華も、一馬の勢いに動きが引き上げられる。
周りの薄暗さが和らぎ、
みんなの輪郭が、よく見える様になる。
一馬の視界にポルータが映りこむ。
まだ、接近していないが確実にこちらに向かってきている。
一馬はボウイナイフを回収して、
両手でボウイナイフを持ち、大きく振りかぶる。
オーバーハンドの動きから全身を使い、
ボウイナイフを、ポルータに投げつける。
大きな鉄の刃が、ゆっくり回転しながら、
ポルータ目掛け緩やかな弧を描く。
遠心力と刃の重みが、
ポルータの頭蓋骨に食い込む。
ポルータは走る勢いのまま、
前のめりに倒れ、大地に沈む。
一馬「かはあー」
一馬は空を見上げる。
心臓の鼓動が激しく動く。
震える体を必死に抑えながら、周囲を確認する。
辺り一面にゾンビの屍が転がり、
もはや狂気に駆られた影は見えない。
大地の境目から光が覗き込む。
周囲を少しずつ照らし、普段の色を取り戻す。
一馬の膝は崩れ、後ろに倒れる。
瑠奈「一馬!」
朱華「一馬!」
2人は一馬に駆け寄ろうとする。
一馬「あはははっはっははっはははははは」
一馬が突然笑い出す。
黒羽が朱華に近づく。
黒羽「頭‥イカれたか?」
朱華「はは、最高にイイ男だろ?」
黒羽「はっ、BOSSも趣味が悪い」
朱華と黒羽は頬を緩める。
瑠奈の心配とはよそに、一馬は笑い続ける。
肌寒い空気を朝日がゆっくりと温める。
狂乱の血死潮は終わり、36日目を迎える。




