DAY83 守る意思と光る原石(いし)
赤く染められた空間が少しずつ、
自然の色に近づいていく。
錬次はスレッジハンマーを振り続けていた。
スレッジハンマーは
柄の長さが約85㎝ の重さ5㎏程度。
数字だけで見ると重くは無いが、
スレッジハンマーとしては中程度の重さ。
柄の先についた5㎏の鋼鉄の塊は、
大人一人を弄ぶには十分な重さがある。
錬次は持ち前の怪力と体幹の強さで、
軽々とハンマーを振り続けた。
ゴトッ…ガラン
連戦からの狂乱の血死潮で、
錬次の意識とは裏腹に、
肉体の限界を突然迎える。
錬次「あっ?」
錬次も訳が分からず、
状況を把握しようと思考が停止する。
手元は震え、痙攣をおこし始める。
錬次はココで初めて
疲労感を、脳みそで認識した。
意識に叩き込まれた疲労感は、
自覚症状として全身を駆け巡る。
肉体を酷使しながら動き続けていた。
溜まり続けた乳酸が、毛細血管を走り、
全身に送られて行く。
同時に、乳酸が生じる過程で発生する
水素イオンが筋肉を酸性側へ傾け、
全身の筋肉を動かなくしていく。
膝が震え笑い出す。
錬次「くそっくそっ」
意識し、震えを抑えようとすればするほど、
全身が震え、体が言う事を聞かなくなる。
足元が軽くなり、膝から下の力が抜ける。
膝を大地に強く打ちつけるも、
錬次に衝撃の感覚すらない。
錬次「かはああああ」
心臓が激しく大きく暴れ出す。
全身から汗が吹き出し、
頭から首筋まで水を浴びたように汗が流れる。
視界に映るゾンビが自分に向かってくる。
地面についた両手が、
吸いつくように離してくれない。
錬次(・・・・・・!!)
襲い掛かるゾンビに、
武臣が飛び込んでくる。
武臣は左手でゾンビの噛みつきを抑え、
右手で頭を掴み、勢いよく頭をねじ切る。
錬次の顔に、何かが飛んでくる。
錬次は震える手で顔を拭うと、
着色された赤い液体が手に残る。
錬次は武臣を見上げると、
武臣の左腕から血が滴り落ちている。
よく見ると、
武臣の小指と薬指が欠けている。
ゾンビの噛みつきを制止した時、
小指と薬指を噛みちぎられていた。
血の粒がぷつぷつと現れ、
纏まり大量の血があふれ出す。
周囲のゾンビは血の匂いに興奮し始める。
武臣も連日の戦いに、
体力の限界を迎えている。
溢れる血と共に、酸素が失われていく。
思考が停止し、酸素を奪われ、
武臣巨漢もふらつき始める。
1体のゾンビが武臣に襲い掛かる。
錬次「お、オッサン!」
タタタタタッ・・・・・ザシュ
ゾンビの頭が空中に跳ね上がる。
一馬がボウイナイフの一撃が
ゾンビの頭と体を切り分ける。
地面に頭が転がり、
ゾンビの体はもがきながら
地面に叩きつけられる。
一馬「錬次!!!!」
たったの一言。
一馬は駆け抜けながら、
錬次に向かって怒声を発する。
全身の震えが止まる。
錬次の体に力が戻り立ち上がる。
ふらつき今にも倒れそうな武臣を支える。
錬次は立っていようとする武臣を、
強引に膝を着かせ座らせる。
隙を狙ったかのように、
ゾンビが錬次たちを襲う。
しかし錬次のバックハンドに、
ゾンビの頭蓋骨が歪み、回りながら崩れる。
錬次「来いよ・・・・」
ポケットからメリケンサックを取り出し、
何度も何度も握りこむ。
武臣の位置を確認しながら、
錬次はゾンビに殴り掛かる。
少し前とは違い、
冷静に淡々とゾンビを一掃していく。
荒々しい戦闘スタイルと、真逆の動きをする。
小さく早く鋭く、
ゾンビの頭や足元の関節を狙っていく。
錬次もこの世界で、生き抜いてきた強者。
錬次は武臣との敗北で、武臣にあって、
錬次には足りない何かを考えていた。
疲労困憊の中の、一馬の怒声に、
武臣が身を挺し守ってくれた事の事実。
「守る意思」
本人に自覚とは別に、
人を守り生き抜く志が、
錬次の全身を奮い立たせる。
錬次の格闘センスに磨きがかかる。
模写能力は一馬には及ばないものの、
フィジカルだけは一級品。
しなやかで強く強靭な肉体に、
技術が溶け込み融合していく。
スレッジハンマーを振るい続ける程の、
体幹の強さと連動性に重心移動。
ゾンビを殴れば殴るほど、
拳は鋭さを増し、速度を上げていく。
足幅を大きく開き、
ゾンビを掻い潜る様に懐に飛び込む。
大きく踏み込む、後ろ脚を寄せる。
遠い間合いが一瞬で潰される。
全身を振りながら拳をゾンビに叩きつける。
ゾンビは頭を中心に大きく一回転する。
傍にいたゾンビを強引に捕まえ、
頭を腕力でねじ切る。
ゾンビの距離を正確に把握し、
錬次に最も近いゾンビを破壊していく。
錬次のヒーローは戦隊ヒーローや、
漫画の主人公でもない。
子供の頃に孤独から救ってくれた一馬。
そして、混沌としたこの世界で
再会した、あの頃と変わらない一馬。
錬次「俺が、俺が、俺が死んだら、誰がテンちゃんを守るんだよお」
錬次のテンションが上がっていく。
アドレナリンのバルブが全開していく。
錬次の毛細血管に血が巡り、膨らんでいく。
ただの平手打ちがゾンビの首を噴き飛ばす。
錬次「おおおおおおおおおおおおおおお」
咆哮をしながら、錬次はゾンビをなぎ倒す。
武臣を中心に回りながら、
次々とゾンビを張り倒していく。
武臣は薄れる意識の中、
錬次を見つめながら、笑みを浮かべる。
気が付けば赤く照らされた空は、
元の色を取り戻していた。




