DAY82 赤く照らされた2羽の鳥
狂気の波が速度を上げていく。
鮮血を連想させるような赤い月の光。
一馬と隼人は、
合流地点目指して足早に進んで行く。
隼人「見えてきた」
高い位置からみんなの姿が見える。
まだ距離はあるが、
みんなの生きている姿は確認できる。
一馬が突然足を止める。
ライフルに装着する為のスコープを、
ポケットから取り出す。
片膝を着き、体を固定する。
隼人「一馬くん?」
一馬は隼人の声に、反応を示さない。
鳥の群れの時同様、今度はスコープを使い
合流地点を観察する。
素早く、細かく、
スコープで確認していく。
一馬「隼人さん」
隼人「ん?」
一馬「隼人さんはココから援護に徹して下さい。」
一馬はスコープから
目を離さず、隼人に語り掛ける。
隼人は何となく一馬の意図を感じつつ、
合流地点をゆっくり見渡す。
隼人「その心は?」
一馬はスコープを下ろし、
ポケットにしまいながら隼人の目を見つめる。
一馬「あと、1時間もしたら、狂乱の血死潮は終わります。でも…」
隼人「でも?」
一馬「クライヤーです。あいつがいる以上狂乱の血死潮は終わりません。」
隼人「なるほど」
隼人は現在の場所から合流地点を、確認する。
合流地点のゾンビ侵入ポイントは、
大きく分けて3つある。
どのポイントも現在位置からは扇状に見渡せる。
一馬「クライヤーは一度に複数は来ません。クライヤーとデトネーターだけに集中して、援護して下さい。」
隼人は一馬の状況把握の速さに感心する。
実際、隼人のライフルの弾丸数は多くは無い。
隼人は手袋を外し、指を舐め空に指しだす。
高低差のある現在地からでも風の強さは感じない。
直線距離にして、500m弱。
少し遠くに、
対象ゾンビが現れたとしても、800m弱。
隼人「わかったよ。みんなの事、頼んだよ。」
一馬「はい、任せて下さい。」
一馬は笑顔を見せ、踵を返し走り出す。
隼人は切迫した状況にも関わらず、
笑みがこぼれる。
隼人は空を見渡す。
空の脅威に晒される心配は無いか確認する。
背負っていたライフルを下ろす。
鞄から、
ライフル用のパーツを取り出す。
隼人が取り出したのは”レミントン M40A3”
海兵隊が主に使用する、スナイパーライフル。
連射性を切り捨て、
一発を確実に当てる為の、
精度重視の精密ライフル。
膝を着き、重心を上に向ける。
光学サイトを取り付け、
銃を構え覗き込む。
銃を固定し、
安定した射撃の再現性を上げる為、
バイポットを取り出し立てる。
レミントン M40A3とバイポットを組み合わせ、
腹ばいに伏せた体勢から高さを調節する。
隼人は銃の真後ろに体を丁寧に置き直す。
取り出しやすい様に、弾丸ポーチを付け替える。
数発分の弾丸をあらかじめ取り出し、
綺麗に立てて並べる。
レミントン M40A3は、
ボルトアクション式スナイパーライフル。
ハンドルを上げてボルトを開く。
開いた薬室に弾を丁寧に装填する。
ボルトを前に押し、ハンドルを下げロックする。
隼人「はああああああああああ」
ゆっくりとゆっくりと息を吐く。
深呼吸を何度も繰り返し。
スコープをそっと覗き込む。
各侵入ポイントを丁寧に確認していく。
レンズがクライヤーの姿を捕える。
隼人の集中力は絞り込まれ、
隼人の耳に周囲の音が静かになっていく。
トリガーに腹の指を軽く乗せる。
隼人はゆっくり息を吐き、軽く吸って息を止める。
トリガーに乗せた指に、
まっすぐ圧を掛けていく。
ズドン………
銃声が大きな空に響き、溶け消えていく。
レミントン M40A3の反動を、
まっすぐ受け止め包み込むように体が揺れる。
弾道は高低差のある空間を、
切り裂きながらクライヤーの元へ走り抜けていく。
ボンッ
クライヤーの頭が、
破裂するスイカのように砕け散る。
ひと足早く黒羽が、
その状況に気が付く。
隼人は特殊部隊時代に、
FOXのあだ名がついた。
理由は、
ステルス性の高い戦術を得意とし、好んでいた。
殺気の匂いを消し、空気の流れを読み攻撃する。
しかし、隼人ももう一つの顔がある。
遠くの距離から獲物を仕留める、
まさにハヤブサの様な狙撃技術。
相手が動いてかく乱しても、
高低差があっても確実に仕留める精度。
黒羽が出会った時は、
狙撃手としては現役を退いていた。。
しかし、何度か模倣として、
狙撃の手本を黒羽は見ていた。
狙った獲物を、ライフルの衝撃で、
一直線に仕留める姿に魅せられ、
黒羽は狙撃手を目指した。
黒羽も見た事の無い、
現役時代の隼人が同じ戦場にいる。
黒羽の全身に鳥肌が立つ。
自分でも気づかず、黒羽は笑みを浮かべていた。
黒羽「おおおおおおおおお」
黒羽が声を上げる。
六花は驚いて、黒羽を横目で見る。
葵は身を伏せながら黒羽を見つめる。
ドオオオオオオーン
大きな爆発音に合わせ、
ゾンビの肉片が飛び散っていく。
侵入経路に現れたドミネーターを、
隼人が正確に打ち抜いていく。
距離があればドミネーターも、
立派な武器になる。
隼人は再びボルトを上げ後ろに引く。
薬莢が排出しされ、新しい弾丸を装填する。
遠距離からの援護に呼応するように、
黒羽の集中力も絞り込まれる。
混戦の中、黒羽は、
周囲の速度が落ちていく感覚に襲われる。
黒羽は侵入しようとするポルータを見つけ、
大きな腹に、ライフルの弾丸を打ち込む。
ポルータは大きく爆発し、
近くにクライヤーごと吹き飛ばす。
隼人は笑みを浮かべ、獲物を探す。
2羽の鳥が飛び回り、戦況をひっくり返す。




