DAY76 狂気の夜に登る狼煙
闇を裂く銃声が響く。
乾いた連射音が、夜を切り裂いた。
一馬「はぁ…はぁ…」
だが群れは止まらない。
腐臭を放つ影が波のように押し寄せる。
銃口から吐き出される火花は、
夜に溺れる命の灯火にすぎなかった。
一馬「はぁ…はぁ…くそっ……弾が減ってく!」
心臓が喉までせり上がる。
内心では怯えを噛み殺しながら、
俺は冷静に弾倉を抜く。
カチリ。
数えるまでもない。足りないッ。
弾倉を銃に戻し、
腰のポーチに手を伸ばす。
だが、そこも空。
薬莢も火薬も、今は残されていない。
一馬「やべぇ……残弾ゼロ。
これで詰んだら笑えねぇぞ」
ほんの一瞬、頭に冷たい汗が流れる。
理屈で考えれば、ここで詰み。
けれど、体はまだ諦めない。
壁を背に、身を隠しながら目を閉じる。
(まだ備蓄はある。まだ終わりじゃない。)
俺は歯を食いしばる。
だが、目の前の現実は残酷だ。
一馬「しかしどうするよっ? この数っ!?
……しかも“ポルータ”まで混じって来やがる」
吐き捨てるような声。
掠れた声が、闇に溶けた。
ポルータ……奴らは群れの中でも最悪だ。
赤黒い膿をまき散らし、
近寄った者を汚染ごと呑み込む。
一体混ざるだけで、戦況は地獄に変わる。
赤黒い月が街を照らす。
血と鉄と腐肉の匂い。
それがこの世界の“夜”だった。
一馬「……クソ……どう切り抜ける」
「考えろ…考えろ…考えろ…」
疲労と緊張で、声が震える。
冗談半分で軽口を叩く余裕も、
もう削ぎ落とされていた。
大きく、ゆっくりと…深呼吸する
息が荒れた喉を通り、
肺を焼くように満たしていく。
**(狂乱の血死潮数時間前…)**
朱華「おい、ブタ共ぉおお、気合い入れろ」
傭兵一同「は、はい!女王様ッ」
朱華は傭兵達に叱咤激励の怒声を浴びせ、一馬に微笑む。
一馬は首を傾げつつも、
我関せずといった様子で軽く頭を振る。
瑠奈は一馬を冷ややかに見つめ、
六花は一馬に殺気をあからさまにぶつけてくる。
誠と葵は、
互いのチーム物資を確認する。
隼人と黒羽は武器の準備をしている。
元軍人で同じ部隊の仲間なだけに、
手際のよい段取りで進んでいく。
錬次と武臣はそれぞれ、
黙々とガレッジを補強している。
一馬は隼人と黒羽達に合流する。
一馬「どうですか?」
隼人「んーあんまりいい傾向ではないかも…」
一馬は隼人の意外な反応に困惑する。
一馬の表情を読み取り黒羽が補足する。
黒羽「人数に対して圧倒的に弾薬が足りない。」
一馬「な、なるほど。でも、ガレッジは要塞みたいなもんだろ?何が問題なんだ…。隼人さん、何か懸念点でも?」
隼人は頭で話す内容を整理するように上を向く。
隼人は現状の分析をする。
人数が増えた事により単純な戦力は上がった。
しかし、その分必要な弾薬が必要になる。
銃火器に関する物は、
単純に多く所持してるが弾が無いと使えない。
では、近接での戦闘で対応するのか?
答えは「NO」である。
近接戦のデメリットは戦闘範囲の集中である。
一馬「戦闘…範囲」
隼人は頷く。
基本少数精鋭での戦闘においては問題は無い。
遠方からの援護範囲が狭くて援護がやり易い。
一馬「要するに、大型なチーム編成になったからこそ自然と援護の範囲も大きくなったと?」
隼人「そうだね。戦力は集中させる方が良いけど、人数に比例して範囲は大きくなるよね。」
実際、一馬のチームは、
瑠奈・誠・錬次・隼人の5人。
対して、朱華のチームは
リーダーの朱華を始め、
黒羽・武臣・六花・葵、さらに傭兵が15人。
黒羽「ここで出てくる問題が役割分担だ。」
一馬「役割分担」
隼人「そう、銃は全員に持たせるとしても弾だけは配分が必要…」
一馬「でも、今までも同じだったんじゃ…」
黒羽「ガレッジの規模だよ…大きすぎるんだよ。」
要塞の様なガレッジも、よく観察すると
脆弱な箇所がいくつもあった。
作戦はポイントを絞って、防衛するが基本。
しかし今回は規模が大きすぎて絞る事が出来ない。
隼人「電子柵やバリケートはあったけど、溶けた跡や壊れた壁や建物もあったしね。狂乱の血死潮の回避の仕方は知ってるかな?一馬君は…」
一馬「はい、熱と匂いの遮断ですよね。」
隼人「そうだね。こんだけの人数が集まった場所で狂乱の血死潮を迎えるからには厳しい想定してしまうよね」
一馬は大きく頷く。
闘う場所を決めても、
大きく広大なガレッジに、
どの方向から攻めてきても不思議では無い。
だからと言って、
閉鎖的に守りに入れば逃げ道もなくなる。
黒羽「十分な弾薬は用意はできないし、今回は”焼夷弾”は用意できない。」
隼人「不幸中の幸い、火炎瓶は意外に用意出来たかな。」
一馬「わかりました。1時間後配分と役割分担に入りましょう。」
隼人と黒羽は頷き、
一馬は部屋を後にした。
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赤い月の光が建物を赤く染める。
今日は雲が無く、とても明るい夜。
狂乱の血死潮の幕が開けた。
脆弱な運動場の方向へ向けそれぞれが待機していた。
しかし、想定を覆す状況に陥る。
六花「……こない?」
六花はスコープを覗きながら
周囲を警戒するも、ゾンビ達の姿が見えない。
ぎゃぁああああああああああ
突然の悲鳴に六花が反応する。
ドン
ドン
ドン…
銃声が鳴り
空気が一気に張り詰める。
周囲の音が一瞬消えてなくなった…その瞬間。
ドォン!
キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン
耳を突く音に、大量の煙が立ち上がる。
煙の影から、ゾンビの大群が押し寄せてくる。
葵は爆風に弾かれ頭を打ち付け気絶する。
爆発音を聞いた一馬達は待機ポイントで煙の方を確認する。
一馬「な、何が起こってるんだ。」
意外な幕開けで、混乱と狂気の夜が始まる。




