DAY74 笑劇の前夜
冷たい風が窓から迷い込む。
陽は傾き、夜がいそいそと支度を始めている。
パチ!
「んっ?」
一馬が起き上がり、周囲を見渡す。
よく眠ったせいか、現状の把握が出来ない。
誠「あっ、目を覚ましたよ。」
錬次「マジ?テンっちゃーん、錬次っ錬次っ錬次!わかる?久しぶりー本物だよな?」
瑠奈「もう大声出さないでよ馬鹿ッ!ご…ごめんなさい。カズマ…さん、うるさいですよね?」
一馬「えっ?」
瑠奈「はい?」
一馬「えつ?」
瑠奈「あ、あの…」
瑠奈は一馬の反応に困惑して、不安気に視線を合わせる。
そんな瑠奈を一馬は、表現しがたい表情で真直ぐ見つめる。
一馬(えぇぇぇええええええええええええええええ。瑠奈さんどうした瑠奈さん?その奥ゆかしい反応何ですか?何なんですか?トラップですか?ツンデレをどこに仕掛けてあるんですか?そんな不安気な表情して、あらまっなんて可愛いのなんのって…罠?罠?どっきり…)
瑠奈「あの!!」
一馬「おわぁ、何々ごめんごめん。まだ頭スッキリしなくて…はは。それで何?」
瑠奈「はい、私、瑠奈って言います。助けて頂いてありがとうございます。」
一馬「(なんだよぉおおおキュンとしちゃうよー新しい攻撃覚えたんですかぁ?)あっ、うん。いいよ、気にしないで。錬次の仲間は俺の仲間でもあるからね。」
一馬は気取った素振りを見せる。
精一杯決め顔を作り、瑠奈に語り掛ける。
この世界線では錬次以外、一馬の事は知らない。
誠「一馬君…僕、誠って言います。とても強くて驚きました。」
一馬「一馬でいいよ…」
一馬は何度もこのやり取りをしている。
寂しいような、
気恥ずかしいような複雑な想いになる。
誠「あっ、うん。僕のことも誠って呼んで。僕は戦えないけど、どうぞ宜しく。」
錬次「任せろよーマコちん!俺が全部ぶちのめしてやるから。」
一馬「ボコられてただろ!」
錬次「おい!」
一馬と錬次とのやり取りに笑いが起こる。
殺伐とした空間に一瞬、
明るい花が咲いたようだった。
そこに扉から武臣が入ってくる。
錬次は武臣を見るや否や、殺気を放つ。
武臣「起きたようだな…」
錬次「なんだ…」
一馬「錬次…落ち着け。何か用か?」
武臣は一馬に近づき一馬を見下ろす。
一馬は武臣が来た理由を理解している。
武臣「朱華嬢がお呼びだ。30分後、食堂室まで来い。」
錬次の筋肉が隆起し、飛び掛かる準備をする。
しかし一馬が錬次の腕を掴み、首を振り落ち着かせる。
一馬「わかった。30分後だな。」
武臣は頷き、背を向け部屋を後にする。
一馬はベットから降り、窓の外を眺める。
気づけば辺りは暗くなっており、冷たい風が流れ込む。
軽く身なりを整えて、食堂に向かう。
食堂には隼人と黒羽が会話をしている。
一馬は何となくうれしくなり笑みを浮かべた。
突然、人影が現れて一馬に抱き着く女。
葵「よかったよー!一馬?大丈夫だった?」
瑠奈と黒羽の目が殺気に満ちる。
黒羽「おい、何してやがる!葵、コラ!まだ、コイツ仲間じゃねーぞ!」
瑠奈「ちょ、ちょっと…あ、あなた誰なんですか?け、け、怪我してるんですよ!離れて下さい。」
葵の天然が暴発している。
隼人は瑠奈と黒羽の様子を見て、
クスクスと笑い出す。
朱華「楽しそうだな…」
和やかな雰囲気に、張り詰めた空気が走る。
朱華は左手を固定した姿で、
パイプ椅子に座っている。
朱華の横には六花と武臣が、直立で立っている。
一馬「(かぁーーー相変わらずの女王っぷりっスねぇ)……話があるんだろ?俺もだ!」
朱華は睨みつけながら立ち上がる。
朱華は一馬に歩み寄り、一馬も朱華に歩み寄る。
朱華「なぜだ?」
一馬「なぜ仲間に……か?」
朱華は無言で一馬を見つめる。
一馬は頭を掻きながら言葉を選んでいる。
朱華「お前の付き従う気は…」
一馬「お前が欲しい。」
六花「はっ?」
瑠奈「えっ?」
黒羽「はあ?」
葵「きゃあああああああ」
錬次「……」
武臣「……」
誠「え?え?え?」
隼人「あははははははははは」
一馬「あっ、いや違う。言い間違えた。朱華、お前の力が必要なんだ。従えなんて言わない。協力が条件だ。」
朱華は一馬の事を黙って見つめている。
一馬は不安に襲われ、朱華の顔色を覗う。
朱華「……そうか」
朱華が一馬に一歩近づき胸ぐらを強く掴む。
掴んだ瞬間、力強く一馬を引き付けると…
ぶっちゅううううう
六花「何やっとんじゃコラああああああああ。オイ、そこの男!朱華様から離れろ今すぐ離れろ殺すぞお前コラああああ聞いてんのか!ああ?」
隼人「あはははははははは」
瑠奈「は、は、は、離れて下さい。離れて!」
葵「きゃああああああああああ」
錬次「………ちゅう」
武臣「………」
誠「え?え?え?」
黒羽「チッ、やれやれ…」
隼人「あっははははははははは」
ちゅぽん!
朱華「お前の考えは理解した。」
一馬「おい、いきなり何しやがる?理解してねえよ!」
朱華「お前は今日から私の嫁だ!」
一馬「何の話だよ!しかも嫁かよ。嫁ぐかよ!戸籍に入りますか?婚姻届けは一緒にだそうね?うん!ってバカ!戦う仲間になろうって言ってんだよ。」
朱華「わかった。テレているんだな。初い奴め…」
一馬「初いとか言うな!」
瑠奈が一馬に一直線に近づいてくる。
一馬が瑠奈に気づき振り向く。
バチンッ!
一馬の顔面が頭一つ分横にズレる。
一馬は膝から崩れ落ち失神してしまう。
朱華「あーはっはっはっはっ」
六花「おっしゃ!ナイスぅううう」
葵「か、一馬ああ」
黒羽「ふぅぅぅぅうう」
隼人「あははははははひーひーひー」
錬次「怖っ!」
武臣「………」
誠「る、瑠奈ちゃん…」
明日は、一馬が初めて迎える、
35日目の狂乱の血死潮が始まる。




