DAY67 解放の条件
横風が強く打ち付ける。
視界の先に広がる景色はガレッジ内を一望できる。
遠巻きながらも
戦闘が始まった事が、手に取る様に理解できる。
傷の完治もイマイチなので、
ガレッジ内で唯一、
俯瞰しやすい運動場にある、
電光掲示盤の上からスコープを覗いている。
動かしづらい肩と、
傷で細胞が癒着して動かしづらい右手…。
黒羽は手を握っては開き、
感傷と共に手の動きを確認する。
響く銃撃音に破壊音が、
風に乗り微かに聞こえてくる。
黒羽「(まだ音が止まない…)
チッ!苦戦してやがるな…役に立たない奴らめ。」
スコープを覗き素早く、
左右に動かしながら状況を確認する。
黒羽「(図書棟………!?)なっ」
4階の図書館の窓に映る男の姿が、
黒羽の海馬を刺激する。
黒羽「アイツもこの世界に…チッ」
身の回りを整理して、
黒羽は電光掲示板から降りる準備をする。
遠距離が得意な黒羽が、
近づく為の選択をした理由は、大きく2つ。
・ひとつ…非常口を抜けてしまえば、
死角に入り狙い撃つ事が不可能になる。
・ふたつ…図書館の窓際に見えた男が、
”隼人”かどうかをこの目で確認する為。
かつて同じ特殊部隊で同じ釜の飯を食べ、
戦場で生死を分かち合った、
師であり兄の様な男…そしてもっとも憎い男。
運動場へ移動し、一直線に図書館へ走り出す。
「…ストープッ‼」
図書館へ向かう導線上に、
大きな声で呼び止める男の姿が見える。
黒羽「⁉…(一馬?)」
一馬「待て待て待て待て止まれ止まれストップだ!」
黒羽の表情が強張り、
一馬に怒声を浴びせる。
黒羽「なんだ!今は忙しいんだ後にしろ!構っている暇はないんだ。どけっ!」
黒羽が走り抜けようとした瞬間、
図書館に向かうのを防ぐように、
一馬が割り込んでくる。
一馬「ドウドウ…」
黒羽「てめぇ…殺すぞっ‼」
一馬「嫌です!殺されません!死にません!殺させません!」
黒羽が苛々しながら頭を掻きむしる。
黒羽「……チッ」
黒羽がナイフを抜こうとした瞬間…
一馬の手はナイフを握る腕を抑えている。
一馬「話を聞け!殺させない。」
黒羽「さっきから、訳が分らない事言ってんじゃねえぞ!誰をだ?お前やっぱりアイツの仲間…グルか?」
一馬「隼人なんて知らん!あっ」
黒羽「語るに落ちる…殺す」
黒羽が銃を抜こうと動こうとするが、
ひと足早く一馬が抑止する。
黒羽「顔なじみだから逃がしてやろうと思ったが、隼人より先に殺してやるよ。」
一馬「殺されません!隼人なんて知っているけど知りません。」
黒羽は、
一馬の変な返答に怒り心頭し怒声を浴びせる。
黒羽「今はお前に構っている暇はねーんだよ。逃げられる前に殺すんだよ!さっさと手を離せよ!」
一馬「お前ぉおおおお…殺させない。」
一馬が黒羽を、怒鳴る様に大声上げる。
黒羽が一瞬驚いた表情を見せる。
一馬「今行けば、殺される…」
黒羽「あっ?俺が?何でわかるんだよ…あぁっ⁉」
黒羽「知っているからだよ!お前が隼人さんを殺せない事を…今行けば葵ちゃんが死ぬ事を…」
黒羽は
訳が分らないと言わんばかりの表情を浮かべる。
しかし一馬の表情を見る限り、
冗談を言っているようにも思えない。
黒羽「なんでわかるっ!!!」
怒鳴る様に一馬に問いかける。
一馬「リポイスだよ!」
黒羽「あっ?」
一馬「リポイス…死に戻りしてるんだよ俺…」
運動場中央で立ち尽くす二人の男達…。
黒羽は一馬を睨みつけ、
一馬は黒羽の目を真直ぐ見つめる。
一馬「俺はー…何回もこの世界を繰り返している…」
黒羽は正直、
一馬の頭がおかしくなったと思っていた。
ゲームの様な残酷な世界で、
まともな人間なら正気ではいられないと。
黒羽(ゲームの世界…)
黒羽の思考に違和感が走り出す。
違和感の正体が何なのかはまだわからない。
黒羽「……証拠を見せろ。」
一馬「しょ…証拠…」
一馬は一瞬考え込み、
黒羽は、
一馬がやはり正気を失ったと納得しかけた瞬間。
一馬「お前の…ペンダント…お婆さん…育ての親の婆ちゃんの形見だろ…。」
黒羽「なっ…」
黒羽は意外な答えを、
一馬の口から出てきて驚きを隠せない。
黒羽(隼人…から聞いたのか?いや、除隊するまでは持っていなかったし…葵…か?)
一馬「葵ちゃんじゃない…隼人さんから聞いてもいない。」
黒羽は心を読まれたように感じ、
一馬を睨みつける。
一馬「黒羽…お前から聞いた!別ルートで出会ったお前から。」
一馬は黒羽に経緯を話し始める。
黒羽の攻撃態勢も解かれており、
運動場の中央で一馬は黒羽に説明する。
殺気は消え、
一馬が一通り説明すると、黒羽は考え込む。
**********
親を早くに亡くし黒羽は、
祖父母の家で育てられる。
黒羽が高校生の時に祖父が亡くなり、
祖母の手一つで家計を支えていた。
黒羽が大学を出るまでは、
アルバイトすら許さなかった祖母。
祖母の目を盗んでアルバイトをしては、
よく怒られた思い出がある。
大学で工学を学び卒業し、軍人の道に入る。
黒羽は、生真面目で任務に忠実な軍人であった。
その師であり兄の様な存在の隼人を尊敬していた。
知能と体力が必要な特殊部隊に配属され、
隼人は部隊の隊長を任されていた。
隼人は大雑把な性格を見せるも、
任務になると繊細で精密な思考と動きを見せる。
人格者である隼人は信頼も厚く、
口下手な黒羽には頼もしい人間だった。
順風満帆に見えた生活も、
事件ひとつで一変した。
ある任務で一般人の子供を、
誤射し殺してしまう。
息を引き取る瞬間、
震える手を握った感触が残る。
黒羽はしばらく、
毎晩のようにうなされるようになった。
懲戒の危機を迎えた直後、
気丈な祖母が倒れ寝たきりになる。
裕福でない家庭環境に、
膨大な金額の医療費の維持。
仕事を失いたくない黒羽へ、
悪魔のような勧誘が手招きする。
隼人の上司であり、
黒い噂の絶えない男が取引を持ち掛ける。
軍人は世界の戦地を渡る都合上、
国内では手の入らない品物が手に入る。
そして状況によっては、
殺しの許可書が与えられているような職業…。
黒羽は上司の命令に従い、
次第に汚れ仕事をするようになる。
しかし、隼人の目は誤魔化しきれなかった。
数年後、黒羽は懲戒解雇をされる。
時を同じくして、祖母が息を引き取った。
身から出た錆びではある物の、
息の根を止める原因になった、隼人が許せなかった。
**********
一馬「お前…逮捕されてないだろ?」
黒羽「???」
一馬「隼人さんが…隼人さんが…お前の代わりに逮捕されてたんだよ!」
黒羽「そんなわけ…」
一馬「お前のー…祖母ちゃんの葬儀…誰がしたと?お前か?隼人さんだよ。責任を被り上司を葬る代わりに、罪を被ってお前を、ただの懲戒解雇だけで収めたの。隼人さんなんだよ!」
黒羽は嘘だと考えようとするも、
捕まっていないという事実は動きはしない。
黒羽「お前…一馬…どこでそんな話を…」
一馬「違うルートで出会った、お前からだよ…そして隼人さんからだよ…」
運動場の大きな空間に、
強く冷たい風が吹き抜けてくる。




