DAY68 広がる変化と混沌
吹き抜ける風の冷たさも忘れ、
2人は運動場中央で立ち止まっている。
黒羽「殺される?俺が…おい!それより葵が殺されるだと?ふざけるなよ、誰にだ!先に俺が…」
一馬「お前にだよ…お前が葵ちゃんを殺すんだよ…」
黒羽の形相が強張り、
再び一馬を睨みつける。
黒羽「はあ?葵を?俺が…馬鹿な事言うんじゃねえぞ!?いい加減我慢の限界…」
一馬「誤射だよ…お前が隼人さんや他の人間に向ける度に弾は、葵ちゃんに当たってしまう。黒羽…これが世界線でのルールなんだ。」
黒羽「世界線?…ルール?」
黒羽は半信半疑で話を聞いてはいるが、
完全否定するには、材料が足りない。
黒羽の頭には、
ゲーム、リポイス、世界線、ルールの単語が堂々巡りする。
一馬「何度やり直しても、葵ちゃんが死ぬ世界線から抜けれない。しかもお前が原因で必ず死んでしまう。」
黒羽「何度…も、だと?お前…今、何回目だ…?」
一馬が空を見上げる。
短く呼吸を整え、黒羽に視線を合わせる。
一馬「今回のルートで10回目…今回のガレッジ攻略で10回目だ!」
黒羽が首をひねり思考を整理する。
・ゲームの世界
・リポイス
・世界線のループと攻略
・喋った記憶の無い情報の開示
黒羽「チッ、なんでもありかよ…」
下を向き小声で黒羽が呟く。
そして、一馬顔に視線を戻す。
黒羽「説明してみろ…そうだな質問していく。まず、ゲームのように死に戻る事が出来るんだな。お前は…。」
一馬「ああ。でも、他の人間が死に戻る話は聞いた事は無い。」
黒羽「…毎回、同じ世界で同じ結果なのか?」
一馬「ん~?厳密には違う。違う事もあるし同じ結果を招く事もある。」
黒羽「なんで今回は俺を止める…葵を殺させない為か?」
一馬「…それもあるけど、お前も殺させない為だ。」
黒羽「なぜ?放置すれば、殺す気の人間が減って好都合では?」
一馬は何をどう伝えるべきか、思考を整理する。
一馬「少なくとも、お前達のチームの誰が死んでもヨルガンドは倒せない。
それに……お前達の救済そのものが、この世界線の解放条件なんだよ。」
黒羽は聞けば聞く程困惑を隠せない。
しかし真剣に説明する一馬の表情は、
とても冗談を言っているようには見えない。
ふと黒羽の記憶に単語が浮かび上がってくる。
黒羽「”|Butterfly Effect”…カオス理論…」
SF小説やゲームなどでも、
度々出てくるカオス理論の”|Butterfly Effect”。
小さな変化が巡り、まったく別の結果を導き出す。
羽の模様のように、
複雑に広がっていく連鎖を表現した言葉。
一馬「ああ、それだよ、それ!”|Butterfly Effect”。小さな選択一つ、また違った結果が生み出される。」
黒羽「だが、待て。必ず同じ結果になるのは、おかしくないか?」
一馬「同じとは説明していない。必ず死ぬと説明しただけだ。そして選択した行動が正解なら、別の展開が待っている。」
黒羽「別の以外…だと?」
一馬は大きく頷く。
隼人の事を1から説明する。
・元々は仲間として行動していた事。
・狂乱の血死潮生き抜く為の条件。
・変電所での仲間の死。
・条件を満たさないと生き残れない事。
・朱華と黒羽達の事。
黒羽「朱華…お前BOSSを知ってるのか?」
一馬「ああ、何回会っている。違う世界線だけど…俺がここまで来るのに合計で20回以上は死んでいる。」
黒羽は考え込む。
黒羽「わかった。何かしらの条件で俺達が生きていないと駄目なんだよな…ヨルガンド…なぜ、倒せないと断言する。」
一馬「隼人さんとお前が、戦闘には欠かせないからだよ。」
黒羽「???説明になっていない。」
一馬「正確には、クラフトアプリだよ。」
この世界で唯一、
チートな機能を持つ、クラフトアプリ。
クラフトアプリは現実世界で培った、
経験と本人の特性に沿って作れる物が違う。
その機能は、持ち主が死ぬと使用不可能になる。
黒羽「……俺が死ぬ事によって、作れない物があるから?的を得ないな。」
一馬「この後の狂乱の血死潮で必ず全滅して死ぬ。お前の”焼夷弾”と隼人さんのクラフトが必須。」
黒羽「必須…アイツの作れる物は?」
一馬「あの人は電子に関わる物と、爆弾、後は大量クラフト…」
黒羽「大量…例えば?」
一馬「弾丸を一回のクラフトで100個作れる。クラフトコストも低い…シンプルだけどかなり強い。あとは…投げ・設置・遠隔の爆弾も…。」
黒羽「それでヨルガンドを見た事は?」
一馬「…………ない!」
一馬の返答に拍子抜けするが、
黒羽は更に考え込む。
黒羽(一馬の言う事にも一理ある。しかも”王”が生まれて統制があるゾンビ共がこれまでと一緒だとは考えにくい。いや、しかし…)
黒羽の頭の中には、
隼人への怒りの色は既に消え去っていた。
何より葵が死ぬ事の方が遥かに重い。
黒羽「それで狂乱の血死潮は以前とは比較にならないと?」
一馬は大きく頷く。
少なくとも、根拠のない嘘を、
並べているようには見えなかった。
黒羽「(大きくため息をつく)…わかった。とりあえず保留だ。で、どうする?」
一馬の笑顔が黒羽に向けられる。
一馬「取り合えず隼人さんと合流する。噛みつこうとするなよ?いいな?おい、いいよな?」
黒羽「わかった、わかった。それより”さん”を付けろ”さん”を。」
一馬がきょとんとした顔で、
黒羽をマジマジと見つめる。
黒羽「(間抜け顔しやがって…殺してやろうか?)ふっ」
思わず一馬の表情に笑いそうになる。
一馬「んっ?」
黒羽「黙れ、行くぞ。」
一馬「えっ?何も言ってないんですが?」
2人の男は隼人に追いつく為、走り出す。
月が二人の男を真上から照らし、追い続ける。




