DAY62 死が運ぶ王の系譜
血を流しながら、
周囲を警戒し歩き続ける。
追手のゾンビ共は振り切ったみたいだった。
眠らず振り返らず
必死にマウンテンバイクを漕ぎ続けた。
途中、ゾンビの群れに
自転車は壊されてしまう。
左肩と右ふくらはぎを
鋭い爪で肉を削ぎ落される。
そして左の脇腹には
自電車で転倒した時に刺さった
鋭角で硬い木の枝が食い込んでいる。
ドンッ!
ドンッ!!
ドンッ!!!
ロイ「はぁはぁはぁうぐぅぅ」
ショットガンを撃ちこみ
群がるゾンビを一掃する。
ロイ「もう少し…はぁはぁ…
もう少し…ふっはっふっふーーー」
ロイは重くなっていく体を起こし
ギバーまでの道のりを歩きはじめる。
このまま日が落ち
暗くなってしまえば
この傷では生きてはいけない。
夕食時にダクトから漂う
家庭料理の香ばしい匂いと同じ。
30分…数時間歩き続ける。
血を流し続けているせいで、
何度も意識が飛びかける。
出血と脱水症状で
体の機能はどんどんと鈍く重さを増す。
膝が落ち崩れかかる…
傭兵「ロイ?ロイッ!やばいッ」
声が聞こえ視界にギバーの面影が映りこむ。
傭兵「おいッ!ロイ!しっかりしろ!
ストレッチャーを持ってこい!
医療テントに運ぶぞ!早くしろ!」
周りはあわただしくなるが、
ロイは傭兵の袖を強く掴み傭兵を引き寄せる。
ロイ「と、トーマス…トー…マスを呼べ…」
傭兵「喋るな!そんな事より今すぐ治療…」
ロイ「早くッ!いいから…」
ロイの決死の形相と威圧感に
傭兵は思わず口籠もる。
傭兵「わ、わかった…おいッ!
トーマスとジョーカーを呼んで来い早急にだッ!」
ストレッチャーにロイを乗せ
医療用テントに運ぶ。
ギバーの周りに
匂いにつられたゾンビの群れが押し寄せる。
高台で監視していた
傭兵の一人がそれに気づき、警笛用の鐘を鳴らす。
カンカンカンカンカン…
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______
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一馬「えっ?なんだ?”王:ヨルガンド”…」
トーマスが振り向き一馬を睨みつける。
トーマスは一馬に近づきスマホを奪い取る。
一馬「おい」
トーマス「まて…」
男「一馬?一馬は?」
一馬は声の方向に振り向く。
トーマスは
スマホを睨みながらぶつぶつ呟いている。
男「ゾンビの群れだッ!ジョーカーが呼んでいる。」
一馬「……わ、わかった!トーマス?スマホ!壊すなよ?いいなっ?」
トーマスは反応しない。
声が届いていない様子を横目に、
医療テントを飛び出す。
一馬はギバー入口まで走っていく。
ジョーカー達が、
敷地内の高台で銃を使い応戦している。
一馬は高台に駆け上がる。
一馬「おい、ロープを下ろせ。」
ジョーカー「………おい、ロープを固定しろッ!」
ジョーカーが男たちに指示をする。
ジョーカー「…一馬、すまん。たのむ」
一馬は軽く笑みを浮かべる。
一馬「まかされたッ!」
一馬がロープを使い
素早く降下し地上に降りる。
降りた先のウォーカーを踏みつけ弾みをつける。
G17を抜き
3体のウォーカーの頭蓋を撃ち抜く。
一馬(昼間で狂乱の血死潮も終わってるのに…動きが活発だな…汚染ゾンビ…いない。ポルータ…こんな時間に?)
一馬はウォーカーの襲撃を躱しながら
上下左右に激しく視線を動かしながら状況把握を始める。
高台に背を向けながら、
左方向へハンドサインをする。
ジョーカー「……左だ!左を中心に攻めろ。」
一馬まっすぐポルータまで駆け抜ける。
右から左から襲ってくるウォーカーを
受け流し流れるように進んで行く。
男「あいつ…何者なんだ…」
男の問いかけに、
ジョーカーの片方の眉が上がる。
一馬に視線を向け、ゾンビに視線を戻す。
ジョーカー「おい!集中しろっ!」
一馬はポルータと何度も戦っている。
ポルータの予備動作が
目や記憶に焼き付いている。
走りながらG17を
ポルータの腹部へ数発連続で撃ちこむ。
近づいてきたウォーカー1体の頭蓋を撃ち、
ウォーカーの衣類を引っ張り、
身体をウォーカーの影に隠す。
ポルータの腹にパンパンに詰まった
引火性のガスが
一気にエネルギの塊になり爆発する。
追従するポルータも巻き込まれ、
ポルータが連鎖爆発していく。
一馬が盾にしたウォーカーが
飛散したポルータの体液で溶解する。
一馬「うひょー怖っポルボム連弾、大・成・功!」
周囲のゾンビ共も
吹き飛び、溶け、燃える。
一馬は残党を排除し落ち着きを取り戻す。
一馬は高台に向かい大きく手を振っている。
男「本当に何者ですか?一馬って…」
ジョーカー「ん~?ハッ!まっただの馬鹿だろ(笑)
見ろ!間抜けに笑ってやがる」
一馬は廃棄物の街で
生き抜いた事により格段に強く変化している。
しかし当の本人に
自覚らしい自覚はあまりない。
廃棄物の街で生き延びた
狂乱の血死潮での
後半の記憶が殆ど無い…。
門の施錠が解除され、
ギバーの処理班が出てくる。
一馬が敷地内に入ると
目の前にトーマスが見える。
一馬「落ち着いたか?」
トーマス「ああ…取り乱して悪かった」
トーマスは目を伏せ、スマホを一馬に返す。
一馬「とりあえず中に入ろう…」
一馬とトーマスは店内に戻っていく。
トーマスは黙ったまま
椅子に腰かけ俯き考えこんでいる。
一馬はあえて何も語らず
用意してもらった食事に手を付けようとする。
一馬(さぁお待たせいたしました。お待たせしすぎたかもしれません。荒ぶる胃酸を鎮める最強で最高のこの1食…いただきまー)
トーマス「一馬…」
一馬「えっ?」
トーマス「おっおい!なんて顔してるんだ…」
食事を目の前に幸福と
それを止められた怒りで顔面が歪んでいる。
一馬「うっうるせーなんだよ早く話せよ!お腹すいてるんだよー切実なんだよ!昨日から動きっぱなしだよ。わかる?ねぇ?トーマスぅ俺殺す気なの?ねぇ?仮にも命の恩人なのよー頼むよぉ」
一馬の怒涛のうっぷんが吐き出される。
トーマスは一馬の勢いに
驚きを隠せず深刻で憂鬱だった思考が吹き飛ぶ。
ジョーカー「トーマス!
今は黙って食わしてやれ…
働いた者には報酬が必要だ。一馬…食え。」
トーマスは気まずそうに頭を掻く。
一馬は満面の笑みで食事を口にする。
ジョーカーは
トーマスの肩に手を置き笑みを浮かべる。
トーマスも納得し、
頷きながら黙って一馬を見つめる。
一馬が手を止める…
一馬「トーマス…ヨルガンドって?王てどんな化け物だ?BOSSキャラなのは間違いないんだろうけど…。」
一馬は食事を口に運びながら
トーマスとジョーカーに視線を向ける。
トーマス「わからない…」
一馬「ふえっ?ひゃん…
(ゴクンッ)何で?知ってる反応だったような…」
トーマス「正確には、想定…していたんだよ。」
トーマスは生物学者として
ゾンビの進化を
妻アリーと共に研究と分析をしていた。
そこで一つの推論がと結果が見つかった。
”ゾンビの適応と進化”の幅である。
スキャヴァーや巨体ゾンビを
観測する事は何も最近の話でな無い。
今回、力尽きた男ロイも
ゾンビを観測する為の調査班のメンバー。
その中心人物が妻アリーであり、
活動を支えていたのがトーマスである。
ポルータも元は人間だが
胃酸にはポルータ程の
強力な腐食性は備わってはいない。
トーマス「ポイントは
狂乱の血死潮の行動原理…
赤い月の日だけは
統率感がある事が不可解だった。」
一馬「統率感…」
一馬にはよくわからないが
改めて聞かされるとそのようにも思えてくる。
トーマス「昆虫…そうだな
”蟻”や綺麗な配列で飛ぶ鳥…狼群れとかのイメージ。」
一馬も何となく想像は出来てきた。
一馬「それで?」
トーマス「クライヤ―は
ゾンビ共を引き寄せるのは知っているな…」
一馬は頷く。
トーマス「どんなに声を大きく上げても
どこまでも声が届くわけではない…
クライヤ―は特定の周波数と
一種のホルモンを分泌してゾンビを呼び寄せている。」
一馬は黙って考え込む。
一馬の脳裏に1体の大型ゾンビが浮かび上がる。
一馬「ブルート…」
トーマス「ああ、そうだ。
”ブルート”はお前の話だと
人間の動き方…ソレに近いそうだな。
それと近しい個体が
意思とクライヤ―の特性を手に入れたら?」
一馬(確かに…どんな生き物にも生存戦略と生存本能がある。誰にも教わらず自然に適応している…一般的に認知されてる動物には意思も感情表現もある…見た目が違い、言葉がわからないだけで…)
一馬が食事をする事を忘れ
思考を回し始める。
思考を終え、
一馬の視線がトーマスに向けられる。
一馬「統率者…
文字通り”王”…
”ヨルガンド”が生まれたんだな」
トーマス「そうだ。
最狂最悪の適応生物が誕生した。」
ジョーカーは
酒をコップに注ぎ一気に飲み干す。
一馬とトーマスは
黙ったまま俯き考え込む。
一馬「トーマス」
トーマス「なんだ?」
一馬「ロイが見つけた…”王”の場所は?」
トーマスが驚いた表情を見せる。
しかし一馬の目には冗談の色は見えない。
トーマスは地図を広げ丸を付ける。
ジョーカーのギバーから北に向かい
左右に廃棄物の街とローザのギバーがある。
更に先に進んだ位置に
まるで囲まれた部分がある。
トントン
指で地図を叩く…
トーマス「死の大地…ここにいる」
一馬の動悸を打ち付ける。
終わるようで終わらない恐怖が時を刻む。




