DAY61 鎮座する王と沈黙の群れ
朽ち果てた高層鉄筋コンクリートの
固まりの高層階から男が双眼鏡を覗き込む。
「なんだアレは??」
男は警戒に警戒を重ねて
距離を保ち周辺の状況を慎重に観察する。
壁を失った高層ビルは
風を捻じり上げ、強く男に風を叩きつける。
男が覗く屈曲したレンズの先に
ゾンビ共の群れが映る。
普通のウォーカーからポルータ…
スキャヴァーにクライヤーにブルート。
様々なゾンビがひとつの場所で群れをなし、
その場から離れようとしない。
何より奇妙なのは扇状に広がり
不揃いではあるが規則性がある立ち位置。
「何なんだよ…こんなの見た事ねぇよ」
異様な光景に鳥肌が立ち
男の背中に冷たい汗が滲んでくる。
扇状に広がる中心に積み上がった車の残骸に
何者かが鎮座している。
「くそっ遠すぎてよく見えない!」
風に煽られなが下へ移動
覗くポイントを変える。
雲が太陽を隠し、
少し輪郭を濃く形取る。
「男…?ゾンビ…なのか?」
ゾンビの群れの中心で
鎮座する男の振る舞いは人間そのもの…
しかし、振る舞い以外は異形な見た目に見える。
雲に隠れた太陽が隙間から覗き込み
太陽光に双眼鏡のレンズが反射する。
鎮座する者は双眼鏡の方に反射し、
雄叫びを上げる動作をする。
鎮座する者の行動に
ゾンビの群れも一斉に双眼鏡の方に向きを変える。
「まずいまずいまずい」
男の全身から脂汗が吹き出してくる。
(明らかに統率された動きと行動…しかもこの距離で気がつくとかあり得ない…)
男は急いで逃げる準備をする。
欲張って高所に昇った事が
アダになるとは思ってもいなかった。
(間に合うのか?…⁉︎)
足を滑らせひとつ下の階へ身体を叩きつけられる。
「はぁはぁはぁはぁ」
幸運にも落ちた場所が良かった。
直ぐに立ち上がり階段を降りていく。
(そんなはずは無いと
冗談半分で聴いてたトーマスの予想が的中した…)
息は上がり肩が上下に激しく動く。
打撲の痛みを堪えながら、
やっとの事で地上まで辿り着くが…
ドドドドドドドド…
地響きが段々と大きくなっていく。
夜でも狂乱の血死潮でも無いのに、
狂気を帯びながらゾンビの群れが近寄って来る。
マウンテンバイクに跨り、
男は全力で漕ぎ出す。
(クソッ!でも捕まる訳には行かない…
絶対に伝え無いと…)
「…王」
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29日目の朝。
一馬はボロボロになりながら
ジョーカーのギバーに足を運ぶ。
門兵を務めている傭兵が
愛想よく手を挙げお互い挨拶をする。
ジョーカー「なんだ?その様子だと
結局ゾンビ共と遊んだ様だな。」
一馬は力無く手を挙げて、
店内のソファーに沈む様に腰を下す。
一馬は28日目の狂乱の血死潮を
ジョーカーのギバー近くで乗り越えた。
理由は瑠奈達と合流できると考え、
移動するより待機する事を選んだ。
結果、瑠奈達が現れる事は無かった。
トーマス「おっ!一馬無事だったんだな。」
話しは15日目に遡る。
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ドドドドドドドド
ドゥルン…
一馬が足でバイクのサイドスタンドを下す。
昼前にマリアのギバーを出発してから、
もう日が落ちかけている。
変電所までの距離は大して遠くはないのに、
下水道の爆発で
陥没した道路を越え通り抜けるのに苦労した。
自業自得だとも思いつつ、
一馬は変電所まで戻ってきた。
一馬「トーマス居るのか?一馬だ!無事か?おーいおいおいおい、おーいトーマスぅぅ?」
ウザい一馬の問いかけにトーマスの返事が無い。
一馬に緊張感が走り、警戒態勢に切り替わる。
変電所建物の2階に駆け上がり、
従業員休憩室へと移動する。
よく見ると床に筆で伸ばした様な
血の跡が残ってる…。
ドンドンドンッ!
ドンドンドンッ!
一馬「トーマス!トーマス!」
扉に耳を寄せる…「うぅぅぅ」
ドアノブに手をかけ鍵が掛かっていないか確認する。
一馬「(開いてる…)入るぞッ!」
扉にを開けた瞬間、
床に広がる血の広がりが目に入る。
トーマスが部屋の奥でうずくまり、
呻き声を上げている。
一馬が近づいて様子を確認する。
一馬(足のつま先が齧られて無くなっている…
確か初めて会った時と同じ状態だな。)
よく観察すると、
傷口が焼かれた様に硬化し爛れている。
一馬「焼灼…」
"焼灼"とは、
傷口に白熱した鉄や高温の油を患部に当て、
傷口や消毒を行う古代〜中世に使われてた治療方。
古い映画で観た記憶を一馬は思い出す。
一馬はトーマスの頬を叩き、
意識に現実を割り込ませる。
うなされていたトーマスの目に
一馬が映り込み意識が整って来る。
トーマス「か、かずま…どーしてここに…。」
一馬「…話はとりあえず後だ。
コレ飲めよ…解熱剤と鎮痛剤と抗生物質…ほら」
トーマスは震える手で錠剤を口に運び込み
水筒の水をで無理矢理流し込む。
トーマス「ゴホッゴホッゴホッ…」
数時間が経ち
眠りについていたトーマスの意識が戻る。
大量の汗が出ているが、
トーマスの熱は少しだけマシになった。
一馬「おっ、起きた。とりあえず水飲め…」
トーマス「すまん。」
水筒の水を飲み込みひと息つく…
トーマス「何で戻ってきた…」
一馬はトーマスの質問に答えて言葉を考える。
一馬「アンタをギバーまで連れて帰るのと…
子供…アンタの子供が気になって…」
トーマスは思わず下を向き、
給湯室へと視線を動かす。
トーマス「どうしてそう思った…」
まだ形を成したばかりで
生まれていない子供が、
変異し急成長と老化をしていく。
急激な変化による激痛と衰退…
トーマスは一馬が、
子供の死期が近い事を察していたのがわかった。
なぜかはわからないが
一馬もトーマスが理解した事を雰囲気で感じ取る。
一馬「これを…持ってきた。」
一馬の手には
ペン型のUVライトが握られている。
トーマス「UVライトか…紫外線…
そうか…そうだな…わかった。
一馬…感謝する。」
多くは語らないが、
UVライトの使い方を即座に理解する。
一馬も黙ったまま、
トーマスを見つめている。
一馬「花でも飾ってやろうぜ!」
トーマス「ああっああ、そうだな…」
一馬は天を仰ぎ涙を堪える。
紫外線にあてられた子供は
眠る様に最後を迎える。
気丈に涙を堪えるトーマスを見ると、
一馬の涙が溢れてくる。
トーマス「苦しまないで穏やかに送り出せた。
ありがとう。一馬…ギバーへ戻ろう。」
一馬「あい…グジュ」
一馬のボロボロで情けない泣き顔に、
トーマスは少し心が軽くなる。
一馬とトーマスは変電所を後にする。
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トーマス「どうだ?友人には会えたのか?」
一馬は黙ったまま首を振る。
トーマスも残念そうに静かにうなずく。
ジョーカー「一馬、メシでも食っていけっ」
一馬「マジっ!?」
ジョーカーは最初の印象とは違い、
トーマスを助けた恩人として手厚く歓迎してくれる。
一馬は手を揉みながら
食卓に着こうとした瞬間…
カンカンカンカンカン…
警笛用の鐘が鳴る。
スマホの災害アラートも
同じタイミングで鳴り響く。
一馬「なっなに?」
バンッ!
「トーマス!ジョーカー!」
大きな声で傭兵が叫ぶ。
店を出ると傭兵が医療テントへ誘導する。
傷だらけで血を流し
ボロボロになった男が横たわっている。
ロイ「ト、トー…マス」
トーマス「ロイ!大丈夫か?どうした?」
ロイがトーマスの胸ぐらを強く握り、
トーマスの耳元で囁くように呟く。
ロイ「…王…か、かいぶ、かいぶつの…お」
ロイは力尽き全身から生気が失われる。
トーマスは硬直したまま、
ロイの言葉を頭で反芻している。
後から来た一馬は
何が起こっているのかわからない。
ただ何となくスマホを見る一馬。
一馬「えっ?なんだ?”王:ヨルガンド”…」
トーマスが振り向き一馬を睨みつける。
一馬の知らない所で
大きなうねりを作り世界に変革が起こっている。




