DAY53 濁った呼吸と断たれた循環
ガランッカン……(反響音)
地下に造られた
分厚いコンクリートの塊に、
囲まれた汚水の流れる空間。
空間に溜められた汚水は、
空気を濁し、
高濃度のガスで空間を満たす。
一馬「やばぁ」
襲いかかるネズミを、
ククリナイフで薙ぎ払おうとした。
しかし、
ギトギトにコーティングされた体毛に
血に含まれる脂肪分(血脂)や埃などで、
ククリナイフは”なまくら”になっていた。
切れ味の無い刃は、
広く軽い金属になり、
ネズミの毛と肉に弾かれる。
弾かれた刃は手元を離れ、
ククリナイフは床へと転がっていく。
金属の反響音が地下に響く。
一馬(う~手がしびれる、
手に力が入らない…勢いで来るんじゃなかった)
一馬はすでに2時間ほど、刃を振り続けている。
全身に乳酸が溜まり、
手足の感覚も失い始めている。
辛うじて特殊な布の巻き方を、
手足にしているおかげで、ここまで耐えてきた。
プットゥ(レッグラップ)と言われる技術。
19世紀後半〜第二次世界大戦前後まで、
非常に多くの軍隊で採用された布の巻き方。
布をふくらはぎや前腕に、
らせん状に均一に巻き付ける。
布で圧迫することにより、
動きによる筋肉の揺れを最小限にし、
動きや刺激に対しのダメージを軽減させる。
そして下から巻き上げ圧迫する事で、
乳酸の滞留を最小限にしパフォーマンスを保つ。
”アームラップ”はほとんど
防具のような役割で、
”レッグラップ”も”アームラップ”も
切り傷や虫さされなども防いぎ、
寒さに対しての保温もしてくれる。
近代技術の発展や衛生面などで、
今は使われない保護技術。
一馬はトーマスに巻くのを手伝ってもらい
”レッグラップ”と”アームラップ”を巻いている。
一馬(地上に上がるか?上がれるのか?)
一馬は逃げる算段を頭で計算する。
現在、大型浄水施設の
敷地内真下付近まで、たどり着いている。
下水の出入口はいくつもあるが、
外界へ出ていけるかはわからない。
唯一、浄水施設に繋がる入口だけは、
施設へ繋がるの扉になっている事を、
来る前に見取り図で確認している。
その施設へと繋がる道の前に、
超巨大なネズミが待ち構えている。
一馬「でっか!」
ナイフに持ち替えて、
襲てくるネズミの急所を刺す。
一馬は改造スリンガーで、
鉄の塊と肉を包んだ弾丸を、
出来るだけ遠くに連続で飛ばす。
ネズミ共が一斉に、
弾丸の方向に反応し走りだす。
一馬(きたきた狙い通り。)
スリンガーで弾を飛ばしまくり
走りだし、一気に施設入口に向かう。
超巨大ネズミへの距離を一気に詰める。
ピギャッ!!
一馬「えっ?」
超巨体ネズミが、
不意撃ちで頭蓋を叩き潰される。
巨体の奇形な人型。
瘡蓋の様なものが皮膚を覆い、
腕も足も太く大きく奇形している。
一馬(おいおいおいおいおいおいおい!?たぶんだよたぶん。胞子型の怪物ゾンビだよねぇーこんなナイフでは戦えないんですけど?”つまようじ”ぐらいにしか効かないの見てわかるんですが!!腕太っ!足太っ!見た目きっも!)
走る勢いでナイフを立てるも、
硬い皮膚で刃が皮膚を貫通しない。
太い腕が振り下ろされる。
壁に張り付き、横にかわす。
腕を振るうたびに、
黄色い粉状の物が飛散する。
”フルフェイス型
リユーザブル・レスピレーター”の
フィルターが目詰まりしていく。
一馬(明らかに呼吸しにくくなっている…)
一馬は左右の壁に、
貼り付くように攻撃を裁く。
ポジションが入れ替わる。
一馬(今だっ!)
入れ替わった勢いで半回転して、
そのまま背を向け走り出す。
施設出口までの数mが、とても遠く感じる。
一馬の横を黄色い塊が飛んでくる。
一馬(胞子の遠距離攻撃?)
視界は一気に失われ、
空気中に粉が飛散している。
一馬は施設まで飛び出る。
鈍足な怪物はまだ来ない。
施設内まで飛び出て、
出来る限り距離を取り
一馬は銃を入り口に構える。
一馬(俺の勝ちだっ!)
空気が一瞬、静電気のように張り詰めた。
ハンドガンから、
火薬の勢いに押し出された弾丸が、
高熱を纏い施設内入口へと、
一直線に向かって行く。
入口で怪物の姿が少し覗いた瞬間…
建物内が大きな音と共に、
大きく振動し揺れ動く。
**********
一馬の腕に巻いたガス測定装置。
いつの間にか、アラーム音は消えていた。
ガスの水準も安全基準に戻っていて。
一馬「はぁはぁはぁはぁはぁ」
マスクを脱ぎ捨て、大の字で寝転ぶ。
一馬「きつっきつっきっつぅぅぅぅぅ、死ぬ死ぬ死ぬ。あー水水水水水。」
デイバックから水を取り出し、
水を一気に飲み干す。
一馬はメタンガスと、粉じん爆発を利用した。
奇形の怪物がばら撒いた、
黄色い胞子が粉塵の役割を果たした。
一馬「もう、ここから戻れない…。」
爆発と共に、
地下は大規模な崩壊を起こした。
変電所へ続く道は塞がれる。
一馬(しかしアイツ…
どこに隠れていたんだ。
逃げなかったら、他にもいた可能性が…。)
一馬は浄水場内を歩く。
一馬はこの状況で、
浄水場の複雑な作りに関心すら覚える。
設備内を歩いているが、
ゾンビの気配は感じない。
とりあえず設備の外へ出る。
2階が地上1階になっている作りの浄水場施設。
一馬
大きなフェンスから
除く景観は、悲惨なものだった。
地面が歪み、瓦礫や廃車が転がっている。
周囲には関係施設の建物以外何もない。
爆発させた位置も確認してみるが、
大きく陥没していて道も無い。
一馬はとりあえず、
綺麗な飲めそうな水を補充して、
スマホの地図を確認する。
一馬「近く…は無いか…。ギバーがあるな」
あと数日で狂乱の血死潮が来る。
ここで待機するのも、
手段としてもありである。
しかし一馬としては、
綺麗な水場を汚したく無いと考えてしまう。
一馬(とりあえず…
拠点になりそうな所を探そう。)
一馬は狂乱の血死潮に向け、浄水場を後にする。
気が付けば、
14日目の狂乱の血死潮まで、あと2日。




