DAY52 循環する腐敗と赤い眼の群れ
周りが明るく色づき、
窓からの光で、埃がキラキラと踊る。
トーマス「これと…これ?だな…
それより、本当に行くのか…?」
一馬は下水に向かう為の、荷造りをしている。
トーマスが持ってきたのは、
武器と道具に保護具
”フルフェイス型リユーザブル・レスピレーター”。
一馬「うわぁすっごぉ!」
トーマスは顔をしかめながら、
笑みを浮かべる。
トーマス「かなり専門的な防護具だ。
しかし、環境によっては、
数時間に1度のフィルター交換が必要だ。」
一馬「そこ重要なのか?
旧変電所まで100m程だろ?
徒歩でも1分程度ぐらいだと思うけど…」
トーマスは下水施設の見取り図を広げる。
下水通路を60m程進むと、
T字に分かれた場所がある。
トーマスは2枚目の見取り図を広げる。
一馬「!!これ…てもしかしてもしかする?」
トーマス「んっ?ああ…。」
2枚目には迷路のような構造の、
下水通路が約800m先に配置されている。
その先に浄水施設へと続く出口がある。
一馬(なんでこんな作りなんだよ…)
トーマスは一馬の表情で、
察したのか説明し始める。
トーマス「工場排水は、
1度ろ過して無害にしないと、
自然には帰せない。
ただし、処理が出来る量にも
限界があるから、大きな空間で溜め調節する。」
一馬(やっぱり想定の下にはいかないぃぃぃぃ親子愛に感動してカッコよく啖呵を切ッたけど…もう帰りたい帰ろっかなぁああ…ふぅぅぅぅぅ)
一馬「お…大きさは?」
トーマスは目線を宙に向け記憶を探る。
トーマス「大体、3㎞だったと思う。」
一馬は気が遠くなりそうだった。
歩い移動する前提で
1時間近くかかるのに対し、
変異種を相手にしないと、
いけない前提が予想される。
そして入り組んだ構造は、
悪天候により流れ込む雨水などを、
調整する為に作られている。
水が調整出来ればいいので、
人が通る前提では設計されていない。
それは袋小路が存在する事を意味している。
一馬達は地下2階の下水に向かう。
閉めきった下水の扉を開ける。
トーマス「あっ一馬…」
一馬「えっ、なんだ」
トーマス「地下は菌やウイルス以外に、
メタンガスが充満している可能性がある。
出来る限り…銃は…撃つなよ…」
一馬(はい、死亡フラグ発生…乙)
**********
60m付近に到着する。
下水道は、
2人が並んで進むには厳しい通路…
厚いコンクリートに囲まれ、
深く幅が広い水路が設けられている。
横に繋がったコンクリートパイプが、
壁から、いくつも顔を出している。
地面に染み込んだ雨水を、逃がすためのパイプ…
暗く澱んだ水がより一層、
不気味さを演出する。
一馬(今の所…何も見当たらない。)
T字路にたどり着き、進んで行く。
一馬の目の前に、
異様な光景が飛び込んでくる。
綿毛のようなものが壁に張り付き、
それと同じぐらいのゲル状に固まって
”カビ”に浸食されている、スキャヴァーの死骸。
ククリナイフで、
通路を確保しながら進んで行く。
カサカサ…
足を止める。
密度が高いコンクリートに、
囲まれた空間は、
音を反響させ位置が特定しづらい。
一馬「まぁ来るよね…」
ヘッドライトに、
大き目のハンドライトで周囲を確認する。
大きな塊が目に入る。
一馬(…!!!でっかぁぁぁぁ
何食べたらそんなに大きくなるんですかね?)
巨大な”ネズミ”が
パイプから様子を覗っている。
赤い目が白く濁っている。
闇の住人は目が殆ど機能していない。
しかし嗅覚や音に対しては、
想像以上に敏感に反応する。
一馬(当然…気づいてるよ…ね!)
赤い目の”ネズミ”は飛び掛かる機会を覗う。
緊張感が続く…そして
”ネズミ”襲い飛び掛かってくる。
反射的にククリナイフを
”ネズミ”に向かい斬りつける。
オイリーな毛並みで、
致命傷までは与えられなかった。
間近で見ると
”カピパラ”よりも大きい個体。
一馬「可愛さは感じないけど…。」
”ネズミ”の最大の特徴は繁殖力と雑食。
ノミやダニ、
そして寄生虫を媒介し保菌しばら撒く。
14世紀に大流行し、
ヨーロッパ人口の3分の1を、
死に陥れた黒死病が有名である。
いつの間にか”ネズミ”に囲まれていた。
一馬(いやいやいやいやヤバイでしょ?小さい個体でも小型犬よりデカいとか反則でしょ?)
一馬は危機的状況なのに
心とは裏腹に落ち着いているのを感じる。
一馬「ふぅぅぅぅぅぅぅ」
一馬の覚悟がピタリとハマる。
一馬は一番近い個体に走って近づく。
反撃しようとするが、
一馬は壁を使い立体的に空間を使う。
壁を背に壁を転がる様に動く。
勢いで近くの個体に近づき斬る。
次々襲い掛かる”ネズミ”を、
壁を走る様に使い相手の勢いを逃す。
腕時計型の
メタンガス濃度を測るメーターを確認する。
一馬
ククリナイフを個体に、
刺しっぱなしにして、銃を抜く。
出来る限り至近距離で、頭を打ち抜く。
銃を収め、
ククリナイフに持ち替える…を、繰り返す。
一馬の頭の中で、
瑠奈の姿が焼きついている。
空間を自在に踊る様に動く、
瑠奈の影が一馬に重なっている。
ドンッドンッィィィ……
気が付くと、
襲ってくる”ネズミ”がいない。
心臓が激しく動く。
思わず膝をついてしまう。
一馬「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
一馬(きっっっつぅぅぅぅぅ
瑠奈の凄さがよくわかる。足や腕に力が入らない。)
しばらく息を整え動き始める。
相変わらずのゲル状の物体に、
迷路のような構造は変わらい。
水路を複雑にする事によって、
水の流れてくる勢いを構造で操作している。
直線距離で
1時間もかからない距離で、
邪魔をする存在で、もう2時間も過ごしている。
一馬は想定以下の、
敵との遭遇に安心する反面、拍子抜けする。
進んで行くと
浄水施設へ続く場所が見えてくる。
大きなプールのようなものが、
いくつも並んでいる。
汚水の勢いを殺して、
あふれた汚水は、水路に戻り、
量を調節し浄水施設に最終的に流す。
奥には明らかに、
個体差が大きな影が見える。
ピピ…ピピ…
ガス計測がアラートを出す。
換気設備も止まっていて、
汚水の集中もあり、濃度が高くなっている。
一馬(ここから…本番)
闇で赤く光る無数の殺意が、一馬に注がれる。




