DAY51 真菌の胎動と、老いゆく命
トーマスは今までの
経緯を話し始める。
トーマス「この子は、
アリーが死んだ後に産まれて来たんだ。」
一馬「!!!」
一馬は少し反応するが、
トーマスの話しに黙って耳を傾ける。
トーマスは話を続ける。
トーマス達の目的は
電気の復旧とパンデミックの謎解き、
主にワクチンの発見である。
変電所に着いて最初にする仕事は、
変電所の状況確認。
変電所に入り、
地下を降りていくと、
数体スキャヴァーがウロウロしていた。
なぜかスキャヴァーは、
変電所みたいな暗室を好んでいて、
殆どは外での活動をしない。
とりあえずトーマス達は
スキャヴァーを倒し、
周囲の安全を確保する。
とりわけアリーは戦闘にも長けていて、
トーマスよりサクサクと、討伐をこなしていく。
スキャヴァーが一段落すると、
それぞれが目的の準備をする。
エンジニアは変電所の修繕の準備に入り、
トーマスとアリーは周囲を入念に調べる。
傭兵はスキャヴァーが、
入ってきても問題ない様に、
エンジニアを護衛しながら、待機する。
アリーは菌糸の反応を調べる、
道具を使い隅々を確認する。
トーマスは
スキャヴァーの一部を採取して、
簡易的な検査をする。
一馬が口を挟む。
一馬「トーマスが来た時には、
あのゲル状の物体は無かったのか?」
トーマス「いいや、あったよ。
あれはスキャヴァーが、
液状化したものも混ざっている。」
一馬「スキャヴァーが…。
あれは…実際なんなんだ?
この子が原因じゃないなら…なに?」
トーマスは目線を宙に向けながら、
言葉を選んでいる。
トーマス「台所や水回りが、
”ぬるぬる”する現象は、わかるか?」
一馬は少し虚を突かれ答えに詰まる。
トーマス「”水虫”は?どんなイメージ?」
一馬「”ぬるぬる”…は何となく。
掃除していないとそうなるぐらい。
それで…”水虫”は、どうゆうこと?」
トーマスはなぜか
納得しながら話を続ける
トーマス「水回りの”ぬるぬる”は
”菌”が繁殖して粘りが出る状態だ。
そして”水虫”はジュクジュクにもなるし、
皮膚が硬化してボロボロになる。
その水虫の原因は”真菌”」
一馬「真菌…。」
トーマス「一言で言うなら”カビ”の一種だ。」
一馬(おいおいおいおい、この展開
日本が誇るゾンビゲームで
”遊んだ””見た””体験した”設定ではァァァァ?
そのゲームの感染ポイントも、まさに”カビ”)
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トーマスは一馬に伝わるよう、
内容をかみ砕きながら、説明を続ける。
倒されたスキャヴァーが、
時間と共に、綿のようなものに包まれる。
綿から次第に液状化していき硬化していく。
その時に、硬く大きな胴体部分が、
卵のような形状になってくる。
トーマスがここまで話すと
あの広範囲に広がるゲル状の惨状も、容易に想像がつく。
一馬「この子が食べていたのは…?」
トーマス「ああ、
ゲル状になった”カビ”だ。
しかも別に、この子だけじゃない。
スキャヴァーが、
好んでここに来るのも”カビ”が目的だ。
実際、人を見つければ殺すが、
人を食べる事は無い。」
トーマスは続けて話を補足する。
トーマス「この子が蜘蛛に
変態するのは、ただの結果だ。
正確には”蜘蛛”じゃない”ダニ”…
そして、この子もスキャヴァーも、
同じ”カビ”に感染して変態した、ただの…結果。」
一馬「ダニ…?あの布団ついているあの?」
トーマスは頷く。
トーマス「その元凶は下水に潜んでいる。」
アリーやトーマスは当時
装備を整え、下水に潜りこんだ。
トーマス達は当然だが無防備で
菌感染のリスクを負う事などはしない。
しかし、結果
感染し生き残りは、トーマスとアリーの忘れ形見。
一馬「そこまで徹底したのに、なんで…?」
トーマス「下水の怖い所は何だと思う?」
トーマスの質問に一馬は考え込む。
一馬「臭い…汚い…
んんんなんだよっもったいぶるなよ。」
トーマスは一馬のリアクションに
”やれやれ”とした表情を見せ、答えを話し出す。
トーマス「臭いも汚いも間違っていない。
要するに、汚水や劇物や汚物が、
菌と混じって流れている。」
トーマス「さらにそこで唯一、
活発に生きている生物がいる…」
一馬「ね、ネズミ…?」
トーマス「そうだ」
この世にあらゆる菌を保菌して、
生存している生物の代表は”コウモリ”で、
人間が暮らす快適の裏側で、
進化してきた生物が”ネズミ”である。
コウモリはその特性上、
ドラキュラの物語でよく登場する。
しかし、コウモリより実は、
強力な生命力を持つのが”ネズミ”である。
汚物や汚水はもちろん、
洗剤や塗料や油など、
ありとあらゆるものが集まる下水道で、
種を増やし適応して生き続けている。
トーマス「軽視されがちではあるが、
実際に”コウモリ”よりも特殊な環境で生きている。」
一馬は頭で内容を、整理する。
一馬(菌感染…スキャヴァーに…
ダニ…下水…保菌…ネズミ…)
一馬「ネズミの化け物が居るんだな?
それで、逃げ戻ったは良いけども、
菌感染して他はみんな死んだんだな…。」
トーマス「ああ…みんな死んだ。しかし…」
一馬「その子が産まれてきたんだな。」
トーマス「ああ…」
トーマスが涙を流す。
どんな形であれ、
愛する人の忘れ形見を、
手放す方法は一馬にも想像できない。
トーマス「アリーはネズミに、
傷を負わされ、菌感染したんだ。
そして、野生動物には”ノミ”や”ダニ”が付き物…」
一馬「で、今回の結果が…”ダニ”」
トーマスは少し、
力強く子供を抱きしめる。
一馬「トーマスそういえば、
もう少し待てって、どういう意味なんだ。」
トーマスは少し目を伏せるが、
一馬をまっすぐ見つめる。
トーマス「あと、数週間でこの子は死ぬ…」
一馬「!!!」
しかし一馬には冗談を、
言っている様には見えない。
スキャヴァーや巨体ゾンビのような、
生命力も確かに子供からは感じない。
一馬「なぜ、わかる…?」
トーマス「親子だから…
と言いたいが、生物学者だからだ…。」
子供は産まれ落ちて数時間で大きくなった。
それでも、人間で言う
5歳児ぐらいで成長は止まり、
日に日に寝る時間も増え、
食事回数も減り、体はゆっくり縮んでいく。
トーマス「人間も子供から大人になり、
年老いて、子供のような身体機能まで落ちていき、
そして、身体的に縮んで死んでいく。」
一馬「老化…か」
トーマス「ああ…心、こ、も…し、しん…」
トーマスの感情は一気にはじける。
子供の心臓の鼓動が、
日に日に弱くなっていく、
子供の姿に、胸を痛める父親の姿。
嗚咽のように泣くトーマスを、
一馬は黙って見守るしかなかった。
一馬は腹の奥底から怒りが湧いてくる。
あの時の瑠奈や誠に錬次、
必死に守ってくれてた隼人を、
自害の選択をし、落胆させた事。
残されたトーマスと、
死に向かいつつある子供。
一馬(このままじゃ
気が収まらない。
大事な者を奪った元凶に、
一発ぶち込んでやる!)
一馬はトーマスを黙って見守りながら、
力強く拳を握りこむ。
一馬の決意と共に、夜が更けていく。




