DAY103 見える者、見えない者
冷たい空気が、素肌を刺激する。
寒気を感じ、気怠そうに体を起こす。
朱華(ここは?)
視界に広がる見た事もない景色。
朱華は下着姿で、外で意識を失っていた。
朱華は記憶を辿るが、
目が覚める前の記憶が思い出せない。
朱華「武臣ッ!」
広がる景色の中で、虚しく声だけが響く。
ゴトゴトゴトゴト
遠くの方から車が走る音が聞こえる。
朱華は立ち上がり、周囲を確認する。
パシュ
乾いた空気音が聞こえ、
腹部に赤い羽が装飾された、針付きの筒が刺さっている。
不意の出来事に思考は追いつかず、
次第に意識は薄れ、視界が暗く閉じていった。
気がつくと、また知らない場所で隔離されている。
刑務所を連想させる様だが、
妙に清潔感のある、無機質な空間。
直感的に「捕えられた」と実感する。
ガンガン
扉を叩く音が聞こえ、
扉の小窓から、料理の入ったトレーが置かれる。
朱華は一瞬警戒はするが、
考える事を止め、料理を口に運んだ。
次の日、男達がぞろぞろと、
朱華の部屋を訪れる。
朱華を拘束し、別の部屋へ連れて行く。
裸にされ、水をかけられ洗われる。
無地のアイボリーのワンピースを着せられ、
また別の部屋へ連れて行かれる。
医療器具の様な物が並べられ、
腕を縛られて、血を抜かれる。
朱華は罵声も暴力も行わず、
黙ったまま、相手の意図に沿って行動する。
しばらくして、朱華は別室へと移される。
最初の部屋とは違い、
トイレやシャワーもユニットとして設置してある。
プライバシーはと言うと・・・
朱華(防犯・・・監視・・・カメラ・・・か)
プライバシーなどは無視され、
至る所に監視カメラが取り付けられている。
普段の行動から排便に至るまで。
まるで獣を観察するかの様に、
冷たいレンズが朱華を覗き込む。
最初は腕をナイフで斬りつけられる。
血は滴り、規則的に音を立て床に落ちていく。
10秒、60秒、5分・・・
滴る血の勢いが弱まり、次第に血が流れなくなる。
男が興奮しながら、傷口を観察する。
朱華(噛み殺してやろうか・・・)
朱華に恐怖の感情は無く、
男の首元の動脈の鼓動を観察している。
「Dr.オリバー」
傷口を観察する男に、助手らしき男が声をかける。
朱華
オリバー「なんだ、うるさいぞ!」
男「デ、デルタ、デルタの結果が出ました。」
オリバーは勢いよく男に近づき、
手元のバインダーを奪い取る。
興奮をしながら、用紙をめくる。
オリバー「はははははははっ見つけた!見つけた!」
朱華は無気力な表情を浮かべながら、
歓喜するオリバーを横目にじっと見つめる。
それから、何度も何度も、
殴られ、切りつけられ、時には電気も流される。
朱華は声も出さず、拷問実験を受け続けた。
ある時、一人の男が目に映る。
男は朱華の方を見つめ、軽く頷きかける。
朱華(武臣!?)
無表情だった朱華の顔に笑みが浮かぶ。
武臣が視界に入っていないように、
監禁部屋に大人しく戻る。
ある日の実験は今までの実験とは違った。
総合格闘技のリングのような、
鉄格子に囲まれた空間に立たされる。
朱華の目の前に用意されたのは、
醜く腐りかけている動く人型の何か?
朱華(なんなんだ?)
朱華は内心驚きはしたが、
表情には微塵も出さなかった。
視界に武臣が雑用をしている姿が見える。
がぁぁぁぁぁぁぁ
いかにも臭い息を吐きだしているのがわかる。
「おおおおお・・・」
何故か周りがどよめいている。
鎖に繋がれた異形の何かが、
鎖の呪縛から、解き放たれる。
がああああああああ
「おおおおお」
周囲のモブが、ざわつく理由がわからない。
腐った異形の何かも、
朱華の周囲をウロウロするばかり。
それどころか、周囲の声に反応している。
何日もかけて何度も、
同じ実験が繰り返される。
ゾンビは朱華を認識していない。
ゾンビにとって朱華は透明人間だった。
朱華は退屈そうに欠伸をする。
ザワッ
朱華「もう、飽きた。武臣・・・」
朱華が殺気を放ち始める。
朱華は大きく地面を踏みつけ、
わざと大きな音を立ててみる。
ゾンビが音に気がつき、
ゾンビの視界に朱華が映りこむ。
ゾンビは朱華に向かい、襲い掛かってくる。
朱華は感覚的に、
ゾンビの頭を両手で鷲掴みにする。
ゴリッ
ゾンビの首がねじ切られると、
興奮していた周囲は、沈黙に包まれる。
スタンガンを構えた男が、
朱華を後ろから攻撃をしてくる。
しかしひと足早く朱華は動きだし、
スタンガンを握った腕を掴み、へし折る。
アラート音が施設内に鳴り響く。
オリバー「と、捕えろっ!眠らせろ!」
オリバーは叫ぶが、
麻酔銃を構えた男は、力なく倒れている。
オリバーは焦り周囲を確認する。
そこには武装した男達は、
地面に頬をつけ、ヨダレを垂らしている。
オリバーは鉄格子の方へ視線を向けると、
朱華の姿が見えない。
オリバーが横を振り向くと、
朱華が殴る体勢に入っており、
顔面を強く叩きつけられる。
オリバーの意識は途切れ、
膝を強く打ちつける感覚だけが記憶に残る。
武臣「嬢!来ます」
朱華「チッ、いずれ殺してやるよ」
オリバーの耳には届いていない。
アラート音だけが、空虚に響き渡る。




