#93. 黒き嵐を纏う竜
最後の素材を求め、炭鉱夫から冒険者にジョブチェンジした五人はマップの情報を頼りに森を抜ける。
風の強い丘の上。広々として戦いやすいエリアだ。
ここまで順調かに思えた義翼の素材集めだが、しかし、最後の素材は、最後に残したもの。
そう、マップ上で印が動き回っていたアレだ。
最後の素材は《嵐飛竜の翼膜》──深く考えるまでもなく、素材本体が飛び回っているのだろう。
問題があるとすれば、どうやって下に降りてきてもらうか。
風が吹き荒れ、若干怪しくなってきた空模様を見上げてカナメは眉をひそめる。
「三時間以内に嵐飛竜を倒す……って、これ倒せる?」
「この風じゃ【スカイ・ウォーク】でも危ないかも」
「制空権を取られているうえ、環境による妨害か……攻撃すらさせてもらえないとはな」
ビブリオフィルもこれには眉間に皺を寄せる。
幸か不幸か、グルグルと旋回しながら飛行する銀灰色のドラゴンはこちらの存在に気付いていない。
となれば、作戦が必要だ。
「遠距離攻撃を当たるまでぶっぱなすのは?」
「それやと当たった時にMP切れで対応しきれへん。まず届くかどうかも怪しいで?」
「コユの大盾で注意を引いて、私とツバサで地上に落とすのが丸いかな?」
「そうね……若干角張ってる気がするけど、限りなく丸に近いわね」
『やるしかない』
『ファイト!』
そう簡単に近接組が攻撃できるのか怪しいところではある。……が、やってみる価値はある。
五人は顔を見合せ、それぞれ配置に着いた。
コユの手前にカナメとツバサがスタンバイ。
ビブリオフィルとテンコは岩陰に潜む。万が一の時の奇襲班だ。
「【加速】!」
暴風に煽られMPの消費速度が普段より激しくなっているが、コユのMPが半分を切ったところで嵐飛竜と同じ高度に到達した。
「【変形】──さあ、こっちへいらっしゃい!」
六つの剣が嵐飛竜を襲い、再び大盾に変形すると急降下。怒り状態となった嵐飛竜が風を纏ってそれを追う。
ここまでは作戦通り。
────だが。
「来た! 【オンスロート】ッ!」
「【ブレイズ・スラッシュ】ッ!」
地上近くまで舞い降りてきた嵐飛竜に、二人は飛びかかる。
しかし、刃が銀灰色の鱗に届こうとしたその刹那。
「グゥオオオオオーーンッ!!!!」
「うわっ!?」
「きゃっ……!」
咆哮と共に、嵐飛竜が纏っていた風がカナメとツバサを吹き飛ばした。
『風の鎧か!』
『だっっっる!』
『ノックバックえぐいな』
「──ヴォルル……グォオオン!」
竜の咆哮は暴風を喚び、暴風は黒雲を喚ぶ。
ポツポツと雨粒が落ちてきたかと思えば、たちまちバケツをひっくり返したような豪雨が降り注ぐ。
黒き暴風を纏い、何人たりとも近付けさせぬ嵐飛竜は、身体よりも大きな翼をはためかせ不届き者を睥睨していた。
《嵐飛竜ミルスキオス》──Lv.68
口を大きく開けたかと思えば、空気を取り込み始める。
そして、放たれるは高圧縮された空気弾。
まさしく竜の息吹だ。
大盾がカナメの視界を遮り、竜の息吹をガードするが、命中と同時に竜巻となり、大盾は巻き上げられてしまう。
「なんて風圧よっ! 【加速】!」
速度を上げなければ風に囚われ制御できない。
しかしこのまま加速し続けては、やがてMPが枯渇する。
「キュオオオオ────ッ!!」
「追撃来るぞ!」
さらに三連ブレスがカナメとツバサを襲う。
一発命中しただけで、二人のHPは半分近くまで減っていた。
「【芽吹く聖域】、発動!」
「ありがとリオさん。けどこの威力……竜巻ブレスの方だったらやばかったかも」
「奴の風の鎧を突破できればいいのだが」
「どこを攻撃するか、そもそもどう当てるか……ですね。まさか近接攻撃が当たらないなんて」
「けど常に風を纏ってるってわけやないみたいやな。ブレスの瞬間、纏っとった黒い風が消えてたで」
攻撃と防御は同時に行えない。
嵐飛竜の攻撃タイミングが、こちらの攻撃チャンスでもある。
普段の相手ならばコユの盾で受けた隙を突けたが、眼前の竜は大盾を吹き飛ばすほどの威力を持つブレスを吐く。
となれば──。
「コユと私でブレスを受ける! ツバサ達はその隙に攻撃して!」
「二人でなら受け切れる保証はないわよ!」
「それは、やってみるしかないって!」
「無茶言うわ、ほんとっ!」
嵐飛竜が吸気を始めた。
双盾が飛翔し、そのまま胴体を打つ。
やはり攻撃しようとした時は風の鎧は消える。
だが、吸気が終われば高威力の竜の息吹が襲い来る。
「くっ、やっぱり受け切れない……!」
荒れ狂う風は四方八方から来るため、一定方向の攻撃とは違う。
浮遊する盾ともなれば、その影響は大きい。
ならば、後ろから支えてやればどうか。
「どっりゃああああーーーーッ!!」
カナメは大盾に向かって飛び蹴りを打ち込む。
【スーパージャンプ】による超跳躍で威力は増し、後ろから押された大盾は竜の息吹をかき消した。
そればかりか、勢い余って嵐飛竜の頭部を強打。
HPが目に見えて減少した。
「【イロージョン】【カースドアーマー】【物理防御貫通付与魔法】……発動!」
「ナイス先生っ! 【ブレイズ・スラッシュ】!」
「おおきになぁ〜、【ギガント・バッシュ】!」
二人の攻撃が通り、嵐飛竜のHPは大きく減少。
さらに怯んだことで地面に墜落した。
「奴を飛ばせるな!」
体勢を立て直そうとする嵐飛竜。
しかし、ビブリオフィルの【勇者よ、立ち上がれ】が発動し、既に駆けていたカナメを強化した。
「決めるよ、ツバサ!」
「え、あたしも!?」
「合体技はロマンだって視聴者さんが言ってたからね!」
「それは間違いない!」
『言ったっけ?』
『言ったかも』
『言った言った』
ならば放とう──ロマン技。
嵐飛竜が飛び立とうとするが、もう遅い。
それぞれ【スーパージャンプ】と【スカイ・ウォーク】で上を取り、息を合わせたラストアタック。
【モルトバート】と【火竜砲】による同時攻撃。
名をつけるなら、そう!
「「〝火竜の一撃〟────!!」」
燃え盛る炎を絡め取り高速回転する刃が、銀灰色の竜を穿つ。
【ゴルトライザー】によりドロップしていくコインを【コイントス】に当て、さらにクリティカルヒット率とクリティカルダメージ上昇。
そこに【火竜砲】の威力が合わされば、格上の防御力をものともせぬ瞬間火力が生み出される。
火竜の一撃によって倒された《嵐飛竜ミルスキオス》は、「ヒュルルル」と風の音のような断末魔を上げながらポリゴンとなり、爆散。
光の粒子が舞い上がっていくと嵐はピタリと止み、晴天が雨に濡れた草を照らしていく。
続けて表示された討伐報酬のウィンドウには、嵐飛竜の各種素材と──目的の《嵐飛竜の翼膜》が確かにドロップしていた。
「最後の素材……《嵐飛竜の翼膜》っ、獲ったどー!」
これで素材が全て集まった。
ツバサは思わず拳を天に突き上げ、歓喜の声を上げるのだった。




