#88. 友として
「昔から体が弱くてな。ああして元気にはしゃいでいる姿も、最近になってようやくだ」
「ツバサが……ちょっと信じられないです」
「まぁ、あの姿を見てはな……私も驚いているよ」
そう言いながらも、表情はどこか嬉しそうだ。
フルダイブであれば入院中も気分転換ができる。
変わり映えしない部屋の景色から一変。
目まぐるしく変わるゲームの世界に心を惹かれるのは無理もない。
「彼女が空を飛びたいと願うのは、天国を感じたいのだろう。両親を失い、自身も死を覚悟していたからこそ、死後の世界が安心できる場所なのか気になった……と私は考えている」
しかし人間はその身一つで飛べはしない。
「もちろん天国を観測することは不可能だ。フルダイブ技術で人間の意識……魂を知覚したとて、それは叶わない。ツバサもわかっているはずだ」
「じゃあ、それでも飛びたいって思うのは……」
「その身で飛び立ち、その目で見て、感じて、納得したいのかもしれない。まぁ、真意は本人から聞きたまえ」
「素直に教えてくれますかね」
「ツバサも私も君には好意を抱いている。頑張りたまえよ、ハーレム系主人公」
「ハーレムは困ります。養えない」
逆に財力があればいいのか。
否、あくまでもヒメ一筋である。
それはそれとして、友人の願いは聞いてあげたいと思うのがカナメの性格。放っておけない。
「……あんまり暗い気持ちにはなってほしくないな」
「なぜ、そう思う?」
「いざ空を飛んだ時、がっかりしてほしくない……ですかね。だって、ほら。ここはゲームですし、やっぱり楽しまないと」
ゲームを楽しんでほしい。
友人には、特に。
これからも一緒に楽しくゲームをしていたいのだ。
そのためならば、貯金を崩すことも厭わない。
「そうか、そうだな……ありがとう、気付きを得たよ。どうやら私は、彼女は飛べば満足すると思い込んでいた節があったらしい。安心したいのは私の方だったか」
「じゃあ、ここからは気負いせずにいきましょう。大丈夫、クエストはクリアします。ツバサのことも任せてください」
頼もしい背中だった。
どういうわけか胸が熱くなり、ビブリオフィルは思わず空を見上げる。
うっすらと雲がかった、気持ちのいい青空だ。
なぜだか少し、ぼやけて見えるが。
「……いい友達を持ったな」
■■■
次なる素材は、『設計図』だ。
義翼作製には『骨組み』と『羽根』の設計図が必要になり、これが無ければ形にならない。
骨組みには《設計図α》《黒鉄鋼》《魔鉱石》。
羽根には《設計図β》《星稀晶》《嵐飛竜の翼膜》が必要となる。
「この中だと……《設計図α》を狙う?」
「ここから近いし、マップ見た感じモンスターとの戦闘はなさそーだね! ここから行こう!」
「つまり宝探しだ。トレジャーハンターとしての血が疼いてきた」
「へっへっへ、金目のモノはあっしらがいただきやっせ」
「ツバサぁ、お主も悪よのう」
「お頭には敵いやせんって」
「「……へっへっへ」」
二人して悪い笑顔を浮かべる。
テンコが「あれほっといてええんか?」と言いたげに視線を保護者に送っているが、ビブリオフィルは後方で腕組みしたまま動かない。
どうやら放任主義のようだ。
「けどここって《旧アルファス城塞跡》よね。探索はしたと思うけど……新しくアイテムが設置されてるのかしら」
「新しい部屋が解放されててもおかしくないんやない?」
「……隠し部屋ってこと!? カナメちゃん、これはお宝の予感がするよ!」
「軍資金の足しに……い、いや、けどジークリウスに悪いし……」
「ホコリ被って放置されてるよりいいよ!」
「一理ある。いや百理まである──!」
──ツバサに言いくるめられ、《設計図α》とついでにお宝を求めて旧王城。
サード・ダンジョンに潜った五人は、マップと睨めっこしながら隠し部屋の捜索を始めた。




