#87. たんと掘れ黒鉄鋼
再び焦土に戻ってくると、剣狼が腕の剣を研いでいた。
砥石に使用しているのは、黒い鉱石。
間違いなく《黒鉄鋼》だ。
防御貫通に高速移動。
カナメも耐久にはそこそこ自信はあるが、おいそれと受けることはできない。
「グアオオオオーーン!!」
「発覚された。防御を!」
言い終わる頃には黒影が頭上を過ぎていき、振るわれた剛腕を受け止める。
「くっ、おっもい! 【加速】ッ!」
歯を食いしばり、押し返す。
いや、反発を利用して後退したようにも見える。
上空で砲撃チャンスを狙っていたツバサの存在に気付かれたか。
大盾は【起動】によりコユの手を離れているため、いわゆる攻撃の重さはほぼ感じない。
それでも大盾が突き飛ばされそうなほどの重さ。
そして、威力。
【加速】を使用しなければ受け切れなかった。
「全く、面倒な相手ね!」
防御をものともせず攻めまくる姿勢。
コユは剣狼にカナメの面影を感じながら、もう一対の大盾で攻撃を仕掛けヘイトを稼ぐ。
HPは減少したままだが、問題ない。
「【芽吹く聖域】──発動」
ビブリオフィルがスキルを発動する。
首に掛けたタリスマンを起点に、淡い緑光が焦土を覆う。
減少したHPはリジェネ効果で瞬く間に回復し、さらにMP回復速度を上昇させる。
コユのサポートはこれで充分だ。
「よし、このまま耐えてくれ。テンコはチャージ開始」
「任しときぃ!」
スチームハンマーが唸り声を上げると、内部のタービンが回転し、排気口から炎が噴出する。
これで一発かますらしい。
「それでは始めようか。【イロージョン】【カースドアーマー】【気絶耐性弱化魔法】【物理防御貫通付与魔法】──」
『デバフ盛り盛りやんけ!』
『盛り上がってきた』
『被ダメ増加、呪いによるクリティカル誘発、さらにスタンしやすくさせて物防貫通……殺意が高すぎる』
『こういうのが一番相手にしたくない』
『しかし奴は素早い。どう止める?』
全力疾走して追いつけるかどうかの敵を相手に、重いハンマーの一撃を当てるのは難しい。
「【勇者よ、立ち上がれ】──発動」
その瞬間、剣狼の眼光がコユからテンコへ移る。
強制挑発。周囲の最もレベルが高い敵対モンスターから狙われる代わりに、対象のレベルに応じた強力な身体強化を施すスキルだ。
そして──。
「【フルチャージ】……完了や!」
今にも吹っ飛びそうなスチームハンマーを押さえ、白狐はニヤリと笑う。
動きを止める必要はない。
ただ向かってくる敵を、音ゲーのようにタイミング良く叩けばいい。
「さあ、ちょいと眠りやっ!」
ジェットによる推進力で威力を増したハンマーは剣狼と頭部を捉え、ゴウン──と鈍い音を立てたかと思えば餅つきのように地面へ叩きつける。
クリティカルヒット、さらに確定スタン。
完全に動きを止めた剣狼へ、上空からツバサによる【火竜砲】が降り注ぐ。
「よし、カナメちゃんっ! やっちゃって!」
「────【モルトバート】ッ!」
剣狼のHPは【モルトバート】の与ダメージ増加圏内。
【コイントス】のバフがなくとも、ビブリオフィルが施したデバフも相まって残りHPを削り切る威力となった。
『剣狼、撃破!』
『これなら間に合いそう』
『コユ氏もう採掘してて草』
『たんと掘れ……』
「やはり君達に依頼して正解だった。次もこの調子で頼む」
ひと仕事終え、重労働は若人に任せたと言うかのように体をうんと伸ばす。
「それはもちろん、なんですけど……リオさん。どうしても、ツバサのことで聞きたいことが」
「……私が答えられる範囲であれば」
ピッケルを振りまくるツバサを横目に、カナメは数時間前のことを思い出していた。
カナメがクエストに協力する条件。
それは、何故そこまで空を飛びたいと願うのか。
返ってきたのはシンプルな答え。
──空ってどんなところなんだろうって、ちょっと気になっただけ。
つまり、ただの好奇心だとツバサは言った。
しかしカナメは、理由がそれだけとは思えなかった。
恥ずかしそうに答えたツバサの目に、どこか寂しさが宿っていたからだ。
まるで主人の帰りを待つ子犬のような目。
そんな目を見てしまっては、気にもなる。
「ツバサが空を飛びたい理由は、他にあるんじゃないかって思うんです。どうやら隠されちゃったみたいなので、知ってそうな人に聞いちゃおうかなーって」
「……君は相手のことをよく見ているようだ」
「昔は、そのせいで人の目が気になってました。相手が何を考えてるのかわからなくて、怖いとさえ思ってた」
「強いな。それで配信をする勇気があるとは」
「わからないならわかるようにしようって、最近思い始めたんです。私の手で相手を楽しませちゃえば、もう怖くなくなりますから」
さて。とカナメはビブリオフィルの目を覗き込む。
「や、やめろ。そんな目で見るな……協力してもらっているし、ちゃんと話すさ」
隠し通せないとわかったのか、それとも隠す必要はないと思ったか。
いずれにせよ、ビブリオフィルは静かに打ち明けた。
「あの子は、安心したいんだ。入院した日からずっと……あるいは、幼少期に両親を亡くした日から、そう思っている」




