#86. 臥竜雲を恋う
ツバサ達に連れられて、森の奥深く。
上昇気流が発生している箇所から上空へ大ジャンプすると、鬱蒼とした木々に囲われて地上からは見えなかった穴が空いている。
上手いことホールインワンすれば、件の目的地だ。
洞窟はその一箇所だけに光が射し込み、草が繁茂している。
エリア名は、《古竜の巣》。
静かに横たわっている真っ白な鱗のドラゴンが、来客を歓迎するように眼を瞬いた。
弱々しく臥せているし、大きさもサード・ダンジョンボス・隻燼龍には及ばないが、それでも大型トラック以上の体躯を誇る。
「やっほーレナちゃん! 助っ人連れてきたよ!」
元気よく白竜に飛びつき、顎を撫で回す。
ドラゴンには逆鱗という触れてはならない部位があったはずだが、遠慮なしに撫でているところを見るに親密度は高いのだろう。
左側の翼を欠損した白竜だが、飛びついてきたツバサをまるで覆うように、僅かに残った左翼の関節部を動かした。
「この子が……古竜、アネモレナス」
「雰囲気がレヴァリオスとは正反対ね」
どこか神秘的な白竜を前に、カナメとコユは息を飲んだ。
しかしその美しさとは裏腹に、体表には古傷が見える。
古竜という名は、老いた竜ではなく、歴戦の竜という意味合いだろう。
『片翼の白き竜……!』
『こんな隠しエリアあったのか』
『上から見ないとわかりませんわ』
『白竜をご照覧あれ』
「ツバサだから見つけられたもんだね……さて、時限式エクストラクエスト《臥竜雲を恋う》の攻略をしていくわけだけど。どのくらい猶予があるの?」
「六時間だよ。集める素材は全部で七種類。まずは近場の《黒鉄鋼》から行きたいかな」
「ということは……」
「焦土地帯ね。レヴァリオスに焼かれた草原よ」
「位置はマップに表示されてるからみんなに共有するね!」
各地に点在する義翼作製のための素材。
中には、何故か動き回っているものもある。
広大なマップでこれらを六時間以内に集めなければ、クエスト失敗。
再受注できる可能性も無くはないが、なにせ新しいエクストラクエスト。何があるかわからない。
「……待っててねレナちゃん。必ずあなたを飛ばせるから」
ひと撫でして囁いたツバサに、古竜アネモレナスは「クァルル」と優しく鳴いた。
「作戦が必要だね」
「そうね……このマップを見るにただ素材が落ちているとは思えないわ」
なるべく【コイントス】の使用を控えたいというのもあるが、効率的に素材を回収するなら作戦は必須だ。
故にここは、作戦参謀に任せる。
「ふむ……基本は偵察二名が先行、対象を確認しだい合流でどうだ?」
「偵察ならコユが行くべきね。あと一人は……」
「あたしだね。機動力と中・遠距離攻撃ができる!」
「では、偵察隊にツバサとコユ。私、テンコ、カナメは隙を見て奇襲を仕掛ける。不測の事態があれば……まぁ、私がなんとかしよう」
ないことを祈りながら、ビブリオフィルの作戦を元に行動開始。
そして──焦土地帯、南西。
防御特化であるコユのHPが、半分を切った。
相手は《剣狼》という大型の狼モンスターで、前脚に金属を纏い、それを剣として扱う。
その猛攻を難なくガード──したはいいものの、何故かHPはガードする度に減っていく。
「すばしっこいな! こっちの攻撃が当たらないよ!」
「ツバサ、一時撤退だ! ここでタンクを失うわけにはいかない!」
「りょーかい!」
剣狼がコユに攻撃を仕掛けたタイミングで【火竜砲】を放ち、着弾と同時に撤退。
初戦は、失敗に終わった。
「もー、どういうことなの! コユちゃんの防御が効かないなんて!」
「恐らく、防御貫通だろう。レベルは私達より低いが、スキルでカバーしている」
「けど、あの攻撃頻度やと壁役のタゲ取りは必須やね。ウチらじゃ捌けんよ」
「速戦即決のために攻撃型ビルドにしていたが……やむを得ん。私はヒールとデバッファーに回る」
スキルセットを入れ替えて再戦。
……と行きたいが。
「このままだと防戦一方だね。なんとか動きを止められれば、私とツバサで削り切れると思うんだけど……」
「そんならウチが頑張るしかないか〜」
「テンコさんが?」
肩を回し、白狐がインベントリから取り出したるは、身の丈ほどある巨大なハンマー。
和装で雅な白狐には似合わぬ鉄塊。スチームパンクな見た目のハンマーを軽々と担ぎ、テンコはサムズアップしてみせた。
「まぁリオフィのデバフありきやけど、必ず一度止めてみせる。せやから頼むで、ゴールドバーサーカー」
「任され……え、ゴールドバーサーカー?」
「よし、では再戦だ。各自準備を」
「ちょっと待って、その変なあだ名について詳しく!」
狂戦士と呼ばれる筋合いはない。
ただ、ちょっとギャンブラーなだけだ。




