#85. エクストラクエスト協力要請
『フレンドからメッセージが届いています』
その日もモンスターをシバキ回して有り金全部むしり取るべく木の上から索敵していたところに、ティロン♪と軽やかな通知音。
「お? ごめんコユ、ちょっと待って」
「トイレなら先に行っておきなさいよ」
「フルダイブ中に失禁なんてしません。私をなんだと思ってるのさ。そうじゃなくて、リオさんからメッセージ。珍しいな」
相手は、ビブリオフィル。
コユに周囲の警戒をしてもらいながら、さっそく、カナメは届いたメッセージに目を通した。
「……なるほど」
「なんだって?」
「コユに昨日の配信でトイレの音聞こえてたから気を付けるよう言っておいてくれだってさ」
「ダウト。配信前にちゃんと済ませてるわ」
「冗談はさておき。ツバサがエクストラクエストを見つけたから手伝ってほしいんだって」
「手伝い? そんなの、《竜翼の旅団》で攻略すればいいじゃない。あの少数精鋭部隊なら難しくないでしょう?」
「だよね……何かあったのかな。コユもご指名みたいだけど」
メッセージの内容は、《夜猫の喫茶店》への協力要請。
しかし、カナメとコユの二人に参加してほしいと書いてあった。
「コユたち二人に……確かに珍しいわね。場所とクエスト内容は?」
「場所は…………え?」
カナメは目を疑い、ビブリオフィルからのメッセージを凝視する。
「場所は、空。内容は──《古竜》の片翼の作製」
「……はい?」
■■■
遥かなる空を求めるのは人だけではない。
片翼を失った白き竜は、かつては共にあっただろう空を見上げ、啼いていた──。
《叡樹》の根元に集まったメンバーはたったの五人。
ツバサ、ビブリオフィル、テンコ。
そして、カナメとコユ。
エクストラクエストに挑戦するにしては、心もとない人数だ。
「こんなメンバーで大丈夫か? ──って顔しとるなぁ、カナメちゃん。でもな……大丈夫や、問題ない」
ぬるりとカナメの背後に立ったのは、見目麗しい白狐──テンコだ。
「テンコさん、お尻を撫でないでください。私はいつでもハラスメント警告を出せますからね! あとヒメにしたことも覚えてますからね!」
「おっとと、堪忍なぁ〜。カナメちゃんの新しい一張羅が可愛くて……つい、な?」
ころころ笑いながらカナメの威嚇を飄々と躱す白狐。
が、躱した先に居たビブリオフィルがお仕置とばかりに彼女の白くてふわふわした尻尾を掴み上げ、その拍子にテンコは「ぎにゃッ!」とダメージボイスを上げて大人しくなった。
「あの尻尾くっ付いてるんだ」
「それで、どうして五人だけなのよ。あなた達の他のメンバーは?」
「このエクストラクエストには人数制限がある。クエスト受注者を除き四名まで参加可能だ」
「そうなると参加メンバーを厳選しなきゃいけないんだけど、五人となるとどうしても火力と防御が補えないんだよ」
ギルド《竜翼の旅団》はほとんどのメンバーがLv.70付近だが、ギルド・デュエルで二位の成績を収めたのは超火力などではなく、メンバーの連携によるものが大きかった。
だから優勝候補だった《血鬼夜行》を苦戦しながらも打ち倒せたし、メンバーが減ったことで得意の連携ができず《夜猫の喫茶店》に負けてしまった。
「このクエストは速戦即決と安定性が求められる。と言うのも、片翼の作製に素材を集めるのだが、これには時間制限がある。さらに入手した素材の品質によってはクリアできない可能性もある」
「素材の品質……? そんなの今までなかったよね?」
首を傾げるカナメに、ビブリオフィルは説明を続ける。
「素材品質はこのクエスト限定のシステムだ。戦闘経過時間やパーティー内のHP減少値によって品質パラメーターが変化する。最終的には片翼の耐久値に直結するようだ」
「なるほど、それでコユ達に白羽の矢が立ったわけね」
「ああ。それに二人はそれぞれ耐久があり、火力も出せる。このクエストをクリアするには充分な戦力と言える」
そこまで話し、ビブリオフィルはツバサに視線を送った。
あとはリーダーに任せる。ということだろう。
ようやく見つけた飛行の可能性。
そしてなにより、飛べなくなった竜を再び飛べるようにしてあげたい。
ツバサが頭を下げるのには充分な理由だった。
「あたしはこのクエストを絶対にクリアしたい。だからお願い、二人とも! お礼はするから!」
「どうするの、カナメ。コユは手伝ってもいいけど、いずれ来るフォース・ダンジョン攻略のためにも金策しなきゃいけないんでしょ?」
「ゴルトも払うからぁ!」
ゴルト集めはカナメにとって戦力に直結する。
近頃は【コイントス】の多用で金欠気味なのだ。
この先の攻略のためにも、そして、指輪を手に入れるためにも、金策はしなければならない。
だが、だからと言って数少ない友人の頼みを断れるだろうか。
お金か、友情か。
そんな選択は、決まりきっている。
「じゃあ、どうしてそんなに空を飛びたいのか教えてくれたら手伝ってあげる」
「そ、それは……うぅ、はっずいけど、わかった!」
「決まりだね。コユもいいよね?」
振り返ると、コユはどこか誇らしげに笑っていた。
「……意外、でもなかったわね。いいわ。でも新しいエクストラクエストなんて良い配信ネタだし、こっちはこっちで配信させてもらうわよ?」
「もちろんだよ! 二人が居れば百人力! いやッ、一騎当千ッ! 二千人力か!」
「さすがのカナメも一人で千人の相手はできないでしょ?」
「無一文になってしまいます……」
無理──とは言わないカナメと、「私は別に千人くらい捌けますけど?」と言うような物言いのコユに、尻尾の付け根をさすっていたテンコは少し恐怖を覚えた。
どうやら、一般人は自分だけらしい。
「このチーム、バケモノしかおらへん……」




