#82. 再戦決着、そして。
──速い。
斬撃は流星のように、絶え間ない。
カナメは奥歯を噛みながら黒の双剣を睨む。
(近接戦なんてコユのステータスじゃ無理だと思ったけど、ここまで動けるものなの!?)
STR+INT極振り型で、並の剣士顔負けの剣術。
だがこれもコユにとっては狙い通りだ。
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PN《寝転部コユ》Lv.63
STR:272
VIT:80
INT:460
REG:63
DEX:70
LUC:63
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《デュエルダイバーズ・オンライン》では基本的に全プレイヤーの速度が同じである。
より高い機動力を得るには、防具またはスキルで移動速度を上昇させる必要がある。
そのためコユの極端なステータスで機動力を得るには、スキル【加速】を使うしかない。
チェーンソーを避けたコユの回避モーションを見て、カナメも仕組みに気付く。
まるで剣に引っ張られるように回避を行い、急接近して攻撃。
人体では不可能な方向転換も【加速】を駆使すれば可能だろう。
「はぁっ、はぁっ……! ────そこッ!!」
反撃するカナメだが、既にカナメの動きを見切っているコユには通じず、またもや回避されてしまった。
【生命維持装置】で耐久性は確保しているが、このままでは削り切られる。
──強いなぁ。
カナメは目の前の少女に羨望する。
大盾を操作するのも、新たな戦術を編み出したのも、それが長きに渡る努力の賜物であることは、こうして戦えばわかる。
「やっぱり、コユに勝つにはこれしかない」
コインを1枚ずつ取り出す暇はない。
ならば自傷で【ゴルトライザー】を発動させ、【コイントス】に繋げる。
「──来るか、コイントス!」
コユは双剣を振り払い、強化を阻止しようと突撃していく。
否、阻止できなくても、相手が自傷するなら攻撃の手を緩めずそのままHPを削り切れば勝利はコユのものになる。
だが、カナメはチェーンソーに腕を押し付けるのではなく、背中のチューブとチェーンソーを繋げた。
「【バーンアップ・オーバードライブ】」
瞬間、カナメを中心に火傷するほどの熱が発せられた。
熱は衝撃波となり、ダメージは無いが接近していたコユを吹き飛ばす。
「なぜ、このタイミングで!?」
なぜ、【コイントス】を使わない──?
【バーンアップ・オーバードライブ】は、強化前の頃と同じく、自身のバフ効果を倍加させる効果を持つ。
今のバフが少ない状態で行っても効果は少ないはずだ。
──混乱しながらカナメの姿を捉えた時。
コユは、黄金を見た。
「まさか……自傷ダメージが発生してるの!?」
「正解っ! 新調した防具にスキル連動機能を追加したんだよね!」
【バーンアップ・オーバードライブ】発動時、チェーンソー《赫鎖の裂刃ヴァルツァー》は高熱を発する。
そのエネルギーを防具のチューブを通して体に流し込む。
要は、自分を火傷状態にするための防具だ。
これでカナメは自分を攻撃したことになり、【ゴルトライザー】が発動。
自動的にゴルトコインがドロップし、その瞬間に【コイントス】を発動すれば──。
『【コイントス】に成功しました。移動速度が上昇しました。ゴルトドロップ量が増加しました。クリティカルヒット率が上昇しました。ノックバックが強化されました』
「コユのHPを削り切るのに、倍加効果は必要ない!」
「言ってくれるじゃない! 【加速】!」
30秒間のオーバードライブ。
火傷ダメージは【生命維持装置】で踏み倒し、全自動【ゴルトライザー】で【コイントス】を発動し続ける。
それでも双剣を回避するのは至難の業だ。
つまり。
(カナメは大袈裟な回避しかできない、狙うなら──そこ!)
回避先を予測し、斬り込む。
「ッ、読まれたか! 【ダストワール】!」
攻撃速度、ノックバック強化の範囲攻撃技。
防ごうとすれば反動ダメージでHPを削られる。
「────ッ!」
故に、それをパリィする。
「なっ!?」
「形が剣でもパリィできないとは言ってないわ!」
弾かれたチェーンソー。がら空きになった脇腹。
狙うならそこだ。
しかし、双剣状態ではこのチャンスでもカナメのHPを削り切れない。
【生命維持装置】の回復力を上回るには、より強力な一撃を叩き込む必要がある。
「────【変形】ッ!!」
刹那、コユは双剣を重ね合わせた。
完成した天を穿くほど巨大な剣は、巨大故に破壊力を持ち、巨大故に防御ができない。
(でも……!)
パリィ成功により【反撃の狼煙】発動。
クリティカルヒット率上昇。
ダメ押しの【研ぎ澄まされた一撃】により、クリティカルダメージ上昇。
MPも余裕がある。【加速】を全開で回せば、いくらバフを盛っていてもパリィされた直後では避け切れない。
当たる。当てられる。
振り下ろした刃は、確実にカナメを捉えている。
『3』
この一撃で、決めてみせる。
『2』
巨剣がカナメを断ち斬るまで、あと数センチ。
『1』
反撃の気配はない。
巨剣の刃がカナメの髪に触れた。
──その瞬間だった。
『0……オーバーヒート』
「え──?」
ドロップしたコインが溶ける。
30秒が経過し、【バーンアップ・オーバードライブ】の効果終了。
【メルトダウン】────発動。
黒き巨剣がカナメを斬ることはなかった。
刃はドロリとした黄金に阻まれ、【加速】が解除される。
【メルトダウン】──その効果は、全ての効果解除。
【バーンアップ・オーバードライブ】により上がりすぎた熱は遂に炉心溶融を引き起こし、【コイントス】で得たバフを解除。
それどころかコユの【加速】や【反撃の狼煙】の効果すらも解除していた。
「防いだ……!?」
驚愕に声を上げたのはコユだけではなかった。
誰もがカナメの敗北を悟っていたのだ。
しかし、奇跡的なタイミングで発動された【メルトダウン】により、カナメはHP全損を免れた。
さらに【メルトダウン】はこれで終わらない。
効果解除した数につき攻撃範囲が広がる大爆発を巻き起こす。
それは決闘エリアを覆い尽くし、尚かつ火傷状態は維持されているため【ゴルトライザー】、【コイントス】が発動。
故に、バフを得た状態で炸裂する。
──閃光が観戦者の視界を白く塗り潰す。
決闘エリアから響く爆発音。
擬似・エクスプロージョンとも言えるその爆発が収まると、煙が風に運ばれて、隠されていた勝利者が現れた。
『GAME SET』
『WINNER──《カナメ》』
「うおおおおおおお!!!」
「こんなバトル見たことねぇ!」
「面白い戦い方する二人だなぁ」
観声が上がるなか、カナメはその場に座り込んだ。
集中力はもう残っていない。
「負けちゃったわね」
決闘が終了し、復活したコユは疲労困憊のカナメへ手を差し出す。
「あ…………いや、結構ギリギリだったよ? 【メルトダウン】が発動しなきゃ私がやられてた。流石だね」
コユの手を取り起き上がったカナメ。
二人は握手したまま互いに見つめ合い、
「次は負けないわ」
「次も負けないよ」
再戦の約束をするのだった。
────それが、この決闘の一幕。
しかしその舞台裏。
決着が着く数分前……。
「ヒメちゃんどこ行っちゃったんだろ……」
共に観戦しようとヒメを探していたユヅキは、人混みから少し離れた場所から周囲を見渡して、高台に魔女の姿を見つけた。
──その時。
「行かない方がいい」
と、背後から声が聞こえた。
振り返るが、居るのは歓声を上げているプレイヤーたちだけで、声の主はついぞ分からなかった。
そんな警告を気のせいだと思い、ユヅキはヒメの元へ向かう。
丁度、コユが双剣でパリィした頃だった。
「────【変形】ッ!!」
双剣は巨剣へ。
いよいよ、決着の瞬間が訪れる。
高台を上がり、ヒメの背後に立ったユヅキは──。
「ヒメちゃん、こんなところで観戦してたん……だ」
ヒメが左手でメニューウィンドウを呼び出す瞬間を見た。
いや、メニューウィンドウは実際には出現していない。
普通は右手で呼び出すのだからウィンドウは現れなくて当然だが、しかし。
「……ごめんね、コユちゃん」
何もない空中へ指を這わせる奇妙な行動。
その直後、爆発音。
奇跡的なタイミングで【メルトダウン】が発動し、カナメが勝利していた。
「────ヒメ、ちゃん……?」
少し震えた声がヒメの耳に届く。
振り返ったヒメは、いつも通りの笑顔を見せていた。
「あれ〜ユヅキさんだ〜! 探してくれたの〜?」
違和感。
それがいつもの笑顔であるはずなのに、ユヅキの思考は「違う」と否定していた。
《キャラバン》に居た頃から、人の顔色を伺うクセが付いてしまっていた。
上手くやれるように。自分を守るために。
故に、ユヅキはヒメを見てその違和感に気付く。
今は、確信に迫ってはいけない。
ヒメが何かを隠そうとして、こちらに話を合わせてきた。
ならば知らぬフリをしてやり過ごそう。
そうしなければ、何をされるかわからない。
「──こんなところに居るなんて思わなかったよ。それにしても、ビックリしたね。すごい爆発音」
震えた声は、爆発で驚いたことにしよう。
「あんなことができるようになったなんて、ビックリなんよ〜! わたしも爆裂愛好家として負けてられないね〜」
そう言った顔に嘘が混じっているようには見えなかった。
まだ確信は得られていない。
しかし、違和感というしこりが消えることはなく、ユヅキの中でヒメの印象が変わりつつあった。




