#81. 攻撃は最大の防御である
「カナメが寝転部コユに勝つ方法は限られている」
観戦しながらビブリオフィルは、頬を膨らませて抗議するツバサに解説していた。
カナメは縦横無尽、変幻自在の双盾を掻い潜り、本体のコユに一撃与えればゲームセット。
コユ自身に防御力がないのだから、攻撃スキルを使わずとも当たりさえすれば一瞬でHPを削り切れる。
「──だが。ガードできなければ負けるなんてことは、寝転部コユにとって日常茶飯事。いつも通りに戦える」
「でも防御に専念してたらジリ貧でしょ! カナメちゃんが勝つよ!」
「だが彼女には、カナメにも見せていない武器がある」
徹底防御では押し切られる。
ならば、王道的に立ち回ろう。
「【変形】──!」
左盾は普段通りの大盾に。
しかし右盾は変形させて、一振りの剣とする。
「そう来るか……!」
確かに、とカナメは口角を上げながらも焦りを覚えた。
王道的な剣士スタイル。
片方を剣にして自分で持てば、コユは操縦リソースを大盾──つまりガードに専念させることができる。
これまで通りの防御性能を保ちながら、双盾を装備できるほどのSTR値から繰り出される剣の一撃で勝利を狙いにいけるのだ。
「フッ────!!」
黒き一閃が迸る。
黒剣の切っ先が、上体を逸らしたカナメの胸をわずかに掠めた。
掠めた程度にしてはカナメのHPはかなり減っている。
STR+INT極振り、いわゆる筋魔ビルド。
そのタンクらしからぬ高い攻撃力を活かすため、現在コユがセットしているパッシブスキルの中には【研ぎ澄まされた一撃】という自身のSTRに応じてクリティカルダメージが上昇するスキルが存在する。
もしクリティカルヒットすれば、カナメの高い耐久力を一気に削れるだろう。
(よし、【魔力吸収】も発動してる。MP切れはもう起こさないわよ)
コユは視界端の青いゲージを見て、視線をカナメに戻す。
攻撃時にMPを微量回復する【魔力吸収】に加えて、【魔導の心得】により最大MP、MP消費軽減、MP回復量上昇の効果を得ている。
(さらに【魔力の器】で最大MPを上げて、【節約上手】でMP軽減。まるで魔法職が長期戦をする時のスキルビルドね……)
だが、高い攻撃力のおかげで攻撃系のアクティブスキルをセットせずともカナメのHPを大きく削れる。
結果として補助系のパッシブスキルを詰め込むことができ、コユのビルドはほぼ完成していた。
「──せやぁッ!!」
「単調な攻撃ね! ガードしやすくて助かるわ!」
振り下ろされたチェーンソーを大盾でパリィし、その隙を突いてカナメを攻撃──。
「なっ!? HPが、一気に!?」
ガクンと大幅に減少したHPゲージを見て、カナメは目を見開いた。
──クリティカルヒット。
DEXを上げる余裕などコユにはなく、故にクリティカルヒット率はかなり低い。
ならば、運悪く低確率を引いた?
否。これもコユがセットしたパッシブスキルによるものだ。
「パッシブスキル【反撃の狼煙】──パリィに成功した時、クリティカルヒット率を上昇させるスキルよ」
「なるほど、よく似合ってる!」
攻め込めば盾に阻まれ反撃チャンス。
むしろこちらが攻め込まれている。
「……でも、それで止まる私じゃない」
相手があくまでカウンター狙いなら。
その盾を真っ向から弾き返そう。
「【コイントス】────表ッ!」
バフを得て、再び飛び込む。
「また大振りの攻撃? 同じことは──」
──違う。と、コユはコンマ1秒にも満たない油断を切り捨てた。
これは真剣勝負。相手を舐めてかかってはいけない。
これまで、傍で見てきたコユはわかっていた。
大抵の場合、カナメは何かしら手札があって突っ込んでいく。
そして、それは相手に対して有効的な手段で──。
「【ガードブレイク】ッ!」
カナメの攻撃を冷静にパリィしようとしたコユは、自身の傍から離れていく大盾に目が吸い寄せられていた。
【ガードブレイク】
パリィ不能。ガード解除。強ノックバック。
大盾形態の《機械仕掛けの晦冥》は、ノックバックにより吹き飛ぶ。
丸腰。防御手段を失ったコユに、カナメは躊躇うことなく追撃を繰り出した。
高速回転する刃が迫る。
(【加速】で盾を呼び戻す? それとも右手の剣を盾に戻してガード? ──間に合わないわね)
目前まで迫った刃に全神経が集中する。
盾ではなく剣を持った状態での近接戦闘。
懐かしい、とコユは笑う。自然と足が動いていた。
──瞬間、雄叫びにも似た歓声が轟いた。
チェーンソーの刃を避けたコユはカナメの脇腹に蹴りを入れ、追撃。剣を振るう。
一発、二発、三発目を撃ち込んだところでチェーンソーが薙ぎ払われ、一時後退した。
「──い、今のを避けるの?」
今の、というのは薙ぎ払った刃ではなく、【ガードブレイク】発動後の追撃のことだということはコユにもわかっていた。
「これでも昔は剣士やってたのよ」
「通りで……さすがセンパイだね」
軽くいなされてしまったが、【ガードブレイク】は通用した。
ダメージも、【生命維持装置】の自動回復で持ち直せる。
回避されることを想定しながらガードを崩していけば食らいついていけるだろう。
「まさかガードを崩してくるとは……まぁそうよね、あなたにとっては盾が邪魔よね」
相手の戦法を潰すための【ガードブレイク】
なら、こちらも潰しにいこうじゃないか。
「だからここからは、戦術を変えるわ」
「へ──?」
刹那、盾は剣へ変わる。
目の前に立つのはもはや盾使いではない。
変形させた黒の片手直剣は二振り。
即ち────〝二刀流〟。
「寝転部コユの全てを使って、あなたに勝つ」
左右の黒剣を提げて佇む姿に、カナメは静かに固唾を飲み込んだ。
同時に悟る。
彼女の言う真剣勝負は、ここからなのだと。




