#80. あぁ、羨ましいなぁ
カナメとコユの決闘配信。
ワンパーティーでサード・ダンジョンをクリアしたプレイヤー同士の決闘には、配信だけでなく、現地──妖精国の叡樹にも多くのプレイヤーがひと目見ようと集まっていた。
「配信もいいけど、こうしてナマで観戦するのもいいですなぁ〜!」
「バーチャルをナマと表現するのは些か疑問が生じるな。しかし、私としても寝転部コユを画面越しではなく仮想の目で見ることができるのは喜ばしいことだ」
「ちな。先生、今スクショ何枚目?」
「167枚目だが、なにか?」
「連写してるの!? そんなに撮るとこあるかなぁ」
眠そうな目とは対照的にギラリと眼光を光らせる先生ことビブリオフィルに、ツバサは自分のフォトギャラリーを開くが、既にカナメの写真は50枚を超えていた。
人のことは言えない。
「あらぁツバサちゃん、あの金髪の子のことえらい好いとるんやね」
「のわぁぁ!? テンコさん! 勝手に覗かないでよー!」
ツバサのウィンドウを覗き込む白狐──テンコは、くすりといたずらな笑みを浮かべる。
「あっはぁ〜っ、やっぱりツバサちゃんはええ顔してくれるなぁ。それでぇ? いつからあの子のこと推してるん?」
「も〜。たまたま初配信見て、その時に! カナメちゃんって、いつも本気というか……一生懸命なんだよね。見てるこっちまで勇気を貰える気がするんだ〜」
ツバサの言葉に、確かにとテンコは頷いた。
ギルドデュエルでカナメと対峙した時、その姿には鬼気迫る勢いがあったことを思い出す。
「──あぁ。せやからあの子が動いた瞬間、逆転されたんやな。納得やわ」
ええチームや。と付け足して、テンコも二人の決闘を観戦する。
「で、おふたりさんはどっちが勝つと思うとるん?」
「カナメちゃんでしょー!」
「いいや、寝転部コユだ」
「でもカナメちゃんってコユちゃんに勝ったことあるんじゃなかった? 配信で聞いたよ!」
「だからこそだ。彼女は根っから負けず嫌いなのだよ」
ボス級モンスターをソロ討伐してきた実績が、ビブリオフィルの確信になっていた。
──そして、遂に。
大勢が見守るなか、戦いの火蓋が切られようとしていた。
巨木の下、黄金色の髪をしたチェンソーガールと薄桜色の髪をしたシールドガールが相対する。
チェンソーガール改め、カナメ。
新調した防具、ネコミミフード付きの紅のショート丈パーカーとボディースーツを装備。背中部分から機械的なチューブが二本、動きに合わせて尻尾のように揺れる。
片やコユは相変わらず、薄手のワンピース一枚。
しかし縦横無尽に飛行する巨大な双盾が主を守護。
かつて決闘した時より成長しているのは、双方同じだ。
「カナメ。私、本気で行くから」
秒針を噛む音が鳴るなか、コユは静かに目を開き、眼前に立つ強敵を睨む。
『3』
真剣勝負。
今この瞬間から、油断、手抜きの類いは侮辱に値する。
故に、カナメはチェーンソーのエンジン音で応える。
『2』
どちらが勝っても不思議はない。
双方のリアルタイム視聴者を含めた数万人の観戦者たちは、静まり。
『1』
場の空気に、緊張が走る。
カナメとコユが同時に息を吸い込み、そして──。
『DUEL START』
その合図を皮切りに、カナメが飛び出した。
コユが【起動】を発動するよりも速く、チェーンソーの回転刃は双盾の間に滑り込み──。
砂塵が舞い上がった。
「まさか、先手必勝……!?」
ツバサが声を上げた。
もちろん、決闘はまだ終わっていない。
本気で戦うならカナメは初手で決めようとしてくると、コユは予測していた。
──故に。
「……盾を置いて!?」
防御ではなく、回避。
コユは既にカナメの背後に回り込み、
『【起動】→【変形】→【加速】』の順に発動。
双盾はそれぞれ六本の剣になり、計十二本の剣がカナメを襲う。
「【ダストワール】ッ!」
十二本の剣に囲まれ、カナメが咄嗟に使用したのは範囲攻撃技【ダストワール】──。
数本を散らすも、残ったのは八本。
【加速】でスピードが上がっているため回避は間に合わない。
だが、空が空いている。
刹那、カナメは空高くへ飛翔した。
超跳躍──スキル【スーパージャンプ】だ。
「空に逃げられた時のために入れてみたけど、まさか回避で使うことになるとは思わなかったな」
ふわりと紅のパーカーが揺れる。
地上で自身を見上げる対戦相手は、口角を上げていた。
釣られるように、カナメも笑みを浮かべる。
「そんなところに逃げ込んだら、これを回避するのは難しいんじゃないかしら──ッ!」
十二本の剣は竜巻のように周りながら上昇。
巧みな操作技術だ。
【スーパージャンプ】はツバサの【スカイ・ウォーク】とは違い、跳躍力を一瞬上げるだけで空中移動はできない。
ジャンプしたらそれっきり、落ちていくだけだ。
「まだまだぁ!」
カナメは吠える。
空中で身を捩ると、自身の体を軸にチェーンソーを振り回す。
十二剣竜巻が右回りなら、カナメは左回り。
再度【ダストワール】を発動し、ベイゴマのように回転。
迫り来る剣を全て弾き飛ばし、地上に帰還した。
「流石、とは言わないわよ。この程度で倒れるなんて初めから思ってないわ」
「この先も倒れるつもりはないよ。やるからには勝たせてもらうからね!」
再び見合った二人に、観戦者たちは歓声を上げた。
より大きく盛り上がりを見せるカナメとコユの決闘。
それを、少し離れた場所から見守る影がひとつ。
魔女帽子から白い猫耳がぴょこんと生えた少女は、その青い目を細める。
「────あぁ、羨ましいなぁ」
友人として対等にカナメと遊ぶことができるコユに。
ヒメは、密かな羨望の眼差しを向けていた。
更新遅れてて本当にすみませんでしたぁぁぁ!!!
本作を読んでくれている皆様、改めてありがとうございます。




