#97. 夏イベに向けて金策を!
夏休みまで、もう少し。
気温もすっかり暑くなり、キンキンに冷えた麦茶を飲み干してから私はベッドに寝転んだ。
こんな暑い日は冷房が効いた部屋でのんびりするに限る。
「夏のイベントはマグロか……そういえばいつだったかヒメが言ってたな」
公式サイトをチェックすると、どうやら復刻イベントらしい。新規イベントもあるのかな。
夏期開催のイベントはレアアイテムが豊富と聞いた。
となれば、イベントに向けていろいろ準備をしておきたいところだ。
皆を呼んでみるか。
「──もしもしヒメ? 今からDDO潜ろうと思うんだけど……」
『ごめんねユメちゃーん! 今日は用事があるんよぉ〜!』
「ありゃ、そっか。じゃあまた今度ね」
「──コユ、今日って空いてる?」
『ごめんカナメ、今日は別ゲーの配信なのよ』
「あー、そういえばそうだった……そっちも頑張ってね」
「──月崎先輩は、今日はしらかぜか……」
ツバサ達はフォース・ダンジョンを探すって言ってたし。
あれ、もしかして今日、私一人か?
最近ヒメと一緒に遊べていない気がするけど、なんだか忙しそうだった。
「……レベリングでもするか? いや、そういえば」
ジークリウスの書庫の隠し部屋で見つけたポーション。あれを調べてみるか。
「──ということで今日は私一人なので、こないだツバサのクエストを手伝った時に見つけた謎のポーションの正体を確かめてみようと思います」
視聴者に見えるようライブドローンに《グロウ・ポーション》を映す。
中の液体は淡い青色をしていて、匂いは──うん。
『どう?』
「花の香りがする。とりあえず飲んでみます」
『飲むのかよ!』
『毒に一票』
『ゲーミングカナメちゃん爆誕する?』
『体が発光するポーションは笑う』
『何に使うんだよ』
とりあえず一口。
味は、可もなく不可もなく。
薄めた蜂蜜っぽい甘みと、形容し難いクセがある。
「飲むべきではなかったかもしれない……けど光ったりはしないみたい?」
体もステータスも変化なし。
状態異常もなかった。
つまり、プレイヤーに対して使うものではないということになる。
『GlowじゃなくてGrow説ない?』
『成長薬か』
『けどレベル上がったりはしてないよね』
「成長薬……か」
青い色と花の香りが特徴の成長薬──。
そんなものが、どうしてジークリウスの書庫に。
「青薔薇…………まさか、植物の栄養剤?」
ジークリウスが見つけた青薔薇の開花条件は分かっていなかった。これがあれば、青薔薇を咲かせることができる……のか?
「畑とかってあるんですかね?」
『アルファスとルナデルタにファームエリアがある』
『アルメネルに話せば貸してくれるよ』
『種はすぐ近くに八百屋があるからそこで』
「よし、適当な種を買って試してみよう!」
■■■
「農具はそこの小屋にあるので好きに使ってください」
「ありがとうアルメネルさん。この畑は私が丹精込めて開拓します」
ルナデルタ郊外・ファームエリア。
貸してもらった畑の一角で、クワを手に立つ。
畑と呼ぶには雑草が生い茂り、木も生えてかなり荒れているけど、問題ない。私のバーチャルフィジカルならものの数分で耕せる。
我、農業王なり。
っと、今の筋力値ならって思ったけどさすがにクワじゃ木を倒せないか。
であれば、アレの出番だ。
「《赫裂鋸剣ヴァルツァー》……起動ッ!」
まさかこのチェーンソーを本来の用途で使う日が来ようとは。
しかも、畑開拓のために。
畑に生えていた木はかなり堅強な幹をしていると思ってたけど、回転刃を入れると難なくスパッと切り倒せた。
さすが私の相棒。数多のボスモンスターと渡り合ってきただけある。
「なかなか綺麗になったかな。それじゃあまずは……」
《スイカの種》
まるくて緑色の縞模様が特徴の瓜の種。
小さいが、適切に育てれば大きく育つ。
その果実は赤くて甘くてみずみずしい。
食べると一時的に疲れにくくなるらしい。
──栽培期間:6時間。
やっぱりこの時期はスイカを食べたくなるよね。
種を植え、水と《グロウ・ポーション》を掛けてみる。
「おおっ! 時間が10分に短縮された!」
やはり成長薬で間違いなさそうだ。
他の種も植えて、《グロウ・ポーション》を与えておく。
しばらくして、最初に植えたスイカが育った。
リアルではそうそう見ない超大玉スイカだ。
収穫は2タップでインベントリに収納される親切設計。
実体化させ、ナイフでいい感じの大きさに切り分ける。
「ではいただきます。シャク……ん、あまい!」
なかなかいける。難点は大きすぎて食べ切るのに時間がかかることくらいか。
「……シャク、これだけ簡単に育つなら農業で金策してみるのもありだな……」
『確かNPC雇えるんじゃない?』
『あー、農業スキルがLv.5になると解禁されたはず』
ほう、それは良いことを聞いた。
農業スキルはまだ獲得していないけど、もう少し育てれば獲得できそうだ。
《グロウ・ポーション》の在庫はまだまだたくさんあるし、レベルを上げればもしかしたら青薔薇──ないしは何かレアアイテムを育てられるようになるかもしれない。
それに超大玉スイカは一玉『1,000G』で売却できるみたいだったし、いい金策になるかも。
「それなら、目指すは金策自動化だ!」
──シャク。
スイカを齧りながら、私は真の農業王を目指してクワを手に立ち上がった。




