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第四章 封印の地

今回は、セレナが《月蝕の羅針盤》に導かれ、封印の地へと向かいます。


そこで待っていたのは、聖と魔――

相反する二つの力を持つ者だけが挑むことのできる試練。


そして、セレナ自身がこれまで隠してきた「魔の力」とも、改めて向き合うことになります。


幼い頃から彼女の秘密を知り、恐れることなく受け入れてくれたリュウガとカイル。


そして封印の地で出会う、古代剣の研究者エリオス・ヴァーン。


彼との出会いによって、セレナは自分の力だけでなく、

聖剣と魔剣、そして「エクリシア」という存在の謎へと一歩踏み込んでいきます。


「聖の力も、魔の力も――どちらも私の力」


セレナが自分自身を受け入れた先に待つものとは?


そして、ついに姿を見せる――

聖魔剣エクリシア。


ぜひ第4章を読んでみてください!

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)深い森を抜けた先。


そこには、周囲を巨大な山々に囲まれた、静かな土地が広がっていた。


鳥の声すら聞こえない。


ただ、風が木々の間を通り抜ける音だけが響いている。


セレナは手にした《月蝕の羅針盤》を見つめた。


これまで何度も森の中で方向を変えていた針が、今はまっすぐ前を指している。


「……ここが、封印の地」


セレナは顔を上げた。


目の前には、巨大な石門があった。


何百年も前から存在しているような古びた門。


中央には、二つの紋章が刻まれている。


白。


そして、黒。


セレナが一歩近づく。


その瞬間――


月蝕の羅針盤が強く輝いた。


「……!」


白い光が、セレナの右手を包む。


同時に。


黒い光が、左手を包んだ。


「聖の力……」


右手に淡い光が集まる。


そして――


「魔の力……」


左手から黒い魔力が立ち上った。


二つの力に反応するように、石門が低く震える。


『二つの力を持つ者よ』


声が響いた。


セレナが周囲を見る。


誰もいない。


それでも、その声は確かに聞こえた。


『資格を示せ』


「……資格?」


石門の前の地面が光る。


白い紋章。


黒い紋章。


そして、その中央に円形の台座が現れた。


月蝕の羅針盤が、その台座の上へ吸い寄せられるように浮かぶ。


『第一の試練』


セレナは息を呑んだ。


「これが……エクリシアへ続く試練……」


そして。


試練が始まった。


◆


最初に、白い紋章が輝いた。


セレナは右手を前へ出す。


聖の力を流し込む。


淡い光が身体を包み込んだ。


傷を癒す。


身体を強化する。


周囲に光の壁を作る。


セレナにとって、聖の力は昔から身近なものだった。


村でも使っていた。


怪我をした人を助ける時。


村の仕事を手伝う時。


危険な場所へ行く時。


そして、戦う時。


村人たちは、セレナが聖の力を使えることを知っていた。


「聖の力を使えるなんて、すごいね」


そう言われることもあった。


セレナも、それを嬉しく思っていた。


けれど――


魔の力については。


誰にも話さなかった。


◆


幼い頃。


森の中で、セレナは魔物と戦っていた。


隣にはリュウガとカイルがいる。


「セレナ、右!」


「分かってる!」


魔物が飛びかかってくる。


セレナは右手をかざした。


白い光が魔物を弾き飛ばす。


だが、魔物はすぐに立ち上がった。


「まだ!」


セレナの左手に黒い炎が集まる。


「えいっ!」


黒い炎が魔物の足元で弾けた。


魔物が吹き飛ぶ。


戦いが終わる。しまった魔の力使ってしまった、怖がられる


セレナは息を整え恐る恐る2人を見る


すると、カイルが目を輝かせていた。


「すげぇ!」


「……何が?」


「聖の力だけじゃなくて、魔の力まで使えるのかよ!」


セレナは少し驚いた。


「……2人とも怖くないの?」


「何が?」


カイルは本気で分からないという顔をする。


リュウガも笑った。


「セレナが使えるなら、セレナの力だろ何が怖いんだ」


「でも……魔の力だよ?」


「だから何だよ」


カイルが肩をすくめる。


「二つ使えるなんて、むしろすげぇじゃん羨ましいよ」


セレナは驚きつつ二人を見る。


「……村のみんなには言わないで」


「もちろん言うわけでないじゃん」


リュウガが答える。


「セレナが言いたくないなら、俺たちは言わないよ」


カイルも頷いた。


「俺たちだけの秘密な」


「……うん」


それ以来。


セレナは村人の前では、魔の力を使わなかった。


けれど。


リュウガとカイルの前では違った。


森へ行けば、魔物を倒すために使った。


野盗が襲ってくれば、魔の力で撃退した。


危険な場所では、聖の力と魔の力を使い分けた。


二人は一度もセレナを恐れなかったむしろその力を誉めてくれた。


それがセレナにとって、何よりも大きかった。


◆


現在。


セレナは黒い魔力を見つめる。


「……私は、魔の力そのものが怖かったわけじゃない」


黒い炎が、静かに揺れる。


「ただ……」


村の景色が脳裏に浮かぶ。


笑っている村人たち。


子供たち。


自分を可愛がってくれた人たち。


「村の人たちには、知られたくなかった」


セレナが魔の力を使えば。


今まで当たり前だった日常が変わってしまうかもしれない。


怖がられるかもしれない。


距離を置かれるかもしれない。


そして――


聖剣教団に知られる危険もあった。


セレナは教団から追われた過去を持っている。


教団の記録では、自分はすでに死んだことになっている。


もし、村で魔の力を使えば。


それを見た教団の騎士が、セレナの存在に気づく可能性がある。


「……だから、あの時も私は魔の力を」


ガルドの襲撃。


白銀の騎士団。


村人たちの前で戦ったあの日。


セレナは魔の力を使わなかった。


使えなかったのではない。


使わなかった。


使えば、もっと前へ出られた。


魔の力で敵の動きを崩すこともできた。


攻撃の威力を上げることもできた。


それでも――


「……使うわけにはいかなかった」


村人たちが見ていた。


教団の騎士たちも見ていた。


だから私は普通の魔法と聖の力だけで戦った。


リュウガも。


カイルも。


そのことを知っていた。


二人は何も言わなかった。


セレナの秘密を守るために。


「……二人なら、今でも分かってくれるよね」


セレナは小さく笑った。


そして、再び目の前の試練へ向き直った。


◆


白い紋章が輝く。


次に、黒い紋章が輝いた。


『二つの力を示せ』


セレナは右手に聖の力を集める。


白い光。


左手に魔の力を集める。


黒い炎。


二つの力が同時に存在する。


だが――


「……!」


突然、二つの力がぶつかり始めた。


身体が重くなる。


頭の奥が痛む。


「くっ……!」


聖の力は身体に負担をかける。


魔の力は精神に負担をかける。


それを同時に引き出せば。


身体と心の両方に負荷がかかる。


「こんなの……!」


セレナは力を強引に混ぜようとした。


白と黒がぶつかる。


――ズガァン!


大地が震えた。


セレナの身体が吹き飛ぶ。


「きゃあっ!」


地面に倒れる。


息が苦しい。


頭も痛い。


「……聖と魔を……一つにしようとしたから……」


セレナは気づいた。


二つの力は、同じものではない。


だからといって。


どちらかを捨てる必要もない。


その時。


月蝕の羅針盤が輝いた。


『選ぶな』


セレナが顔を上げる。


『拒むな』


白と黒の光が、ゆっくりと揺れる。


『己の中にあるものを――』


「……」


『己として受け入れよ』


セレナは、自分の両手を見る。


右手。


聖の力。


左手。


魔の力。


「聖の力も……私」


白い光が輝く。


「魔の力も……私」


黒い炎が揺れる。


「どっちも……私の力」


その瞬間。


二つの力が、初めてぶつからなくなった。


混ざったわけではない。


白は白のまま。


黒は黒のまま。


ただ。


セレナの意思に従って、それぞれが動いている。


白い光が身体を守る。


黒い魔力が、その外側を走る。


守る力と。


攻める力。


二つの力を、それぞれの役割で使う。


セレナが踏み込む。


光の壁を作る。


その隙間から黒い魔力を放つ。


次の瞬間。


石門が大きく震えた。


ゴゴゴゴゴ……。


巨大な扉が、ゆっくりと開いていく。


そこに古い文字が浮かび上がった。


――第一の試練、完了。


セレナは息を整えながら、その文字を見つめた。


「……終わった」


だが。


その奥から、人の気配がした。


◆


「見事だ人に会うのは数十年ぶりだ」


低い声。


セレナが振り返る。


そこに、一人の老人が立っていた。


白髪。


細身の身体。


長い年月を生きてきたことを感じさせる顔。


それでも、その瞳には強い光が宿っていた。


「あなたは…もしかして」


老人は静かに頭を下げる。


「エリオス・ヴァーン」


「古代剣の研究者だ」


「貴方がゼオンの言ってたどうして、ここに?」


「待っていた」


「誰を?」


エリオスはセレナを見る。


「君のような者を」


「……私のような?」


エリオスの視線が、セレナの両手へ向く。


「聖の力と魔の力」


「その両方を持つ者だ」


セレナの目が大きくなる。


「……知ってるんですか?」


「知っている」


エリオスは右手を上げた。


淡い白い光が浮かぶ。


「聖の力」


そして左手。


かすかな黒い魔力が揺れる。


「魔の力」


セレナは息を呑んだ。


「……私と同じ……」


「そうだ」


セレナの胸の奥が熱くなる。


「……よかった」


エリオスが見る。


「何がだ?」


「私だけじゃなかったんだ」


セレナは小さく笑った。


「両方の力を持っている人が、ちゃんといたんですね」


エリオスは少しだけ目を伏せた。


「……そうだな」


◆


二人は研究室へ向かった。


そこには、古代の書物や石板が並んでいる。


聖剣。


魔剣。


古代の戦争。


そして、その両方の力についての記録。


「私は何十年も研究してきた」


エリオスが言う。


「聖剣とは何なのか」


「魔剣とは何なのか」


「そして、なぜ二つの力が存在するのか」


セレナは本棚を見る。


「エクリシアについても?」


エリオスは頷いた。


「もちろんだ」


「だが、私はまだ答えを見つけていない」


「……」


「古い記録の中には、聖と魔がかつて一つだったのではないかという記述もある」


「ただの伝承なのか」


「それとも、本当に何かがあったのか」


「私にもまだ分からない」


セレナは黙って聞いた。


エリオスは続ける。


「それでも、研究を続けてきた」


「いつか、エクリシアに辿り着けると思っていたからだ」


◆


その時。


セレナはエリオスの魔力に気づいた。


「……エリオスさん」


「何だ?」


「魔力が……」


「少ないだろう?」


セレナは頷く。


「どうしてですか?」


エリオスは少し笑った。


「私は、力を隠して生きてきたからだ」


「聖の力も」


「魔の力も」


「両方……?」


「両方だ」


エリオスは窓の外を見る。


「若い頃の私は、自分の力を知られることを恐れた」


「聖の力を持つと知られれば、教団に目をつけられるかもしれない」


「魔の力を持つと知られれば、危険な人間だと思われるかもしれない」


「だから、どちらも隠した」


「必要な時にしか使わなかった」


「鍛えることもしなかった」


セレナは黙っている。


「研究だけは続けた」


「知識だけは増えた」


エリオスは自分の手を見る。


「だが、知識をどれだけ増やしても、魔力そのものは増えなかった」


「力は使わなければ育たない」


「少しずつでも使い続け、鍛えることで、自分の器を広げていく」


「私は、それをしなかった」


セレナは自分の手を見る。


自分は逆だった。


村では魔の力を隠していた。


けれど村の外では。


魔物と戦った。


野盗と戦った。


危険な森を歩いた。


リュウガやカイルと一緒に戦った。


そのたびに、魔の力を使ってきた。


だから。


知らないうちに、自分の魔力は鍛えられていた。


「……私のほうが魔力が多いんですね」


「そういうことだ」


エリオスは素直に答えた。


「私は君より長く生きている」


「だが、君より魔力が少ない」


「それは、私が自分で選んだ結果でもある」


◆


エリオスは静かに椅子へ腰を下ろした。


「私は、後悔している」


セレナが顔を上げる。


「後悔……?」


「している」


エリオスははっきりと言った。


「もっと早く、力と向き合えばよかった」


「もっと早く使い方を学べばよかった」


「もっと早く鍛えていればよかった」


拳を握る。


「私は、知識さえあれば十分だと思っていた」


「研究すれば、いつか答えに辿り着けると思っていた」


「だが――」


エリオスは首を横に振る。


「知識だけでは、届かない場所があった」


「もし、もっと早く力を鍛えていたら」


「もっと多くの人を助けられたかもしれない」


「研究も、もっと先へ進められたかもしれない」


「この場所へ辿り着くのも、もっと早かったかもしれない」


「そして……」


エリオスは封印された奥の扉を見る。


「エクリシアに挑むのも、もっと早かったかもしれない」


セレナは黙って聞く。


「私は、自分の力から逃げた時間を……今でも後悔している」


「……」


「隠したことで、失ったものも多かった」


エリオスは自分の手を見る。


「力を鍛える時間」


「人を助ける機会」


「自分の可能性」


「そして――」


少し間を置く。


「選ばれる可能性」


◆


エリオスは、セレナを見る。


「正直に言えば」


「私は君が羨ましい」


セレナが驚く。


「……私が?」


「ああ」


エリオスは苦笑した。


「何十年も研究した私が届かなかった場所へ」


「君は、今ここに立っている」


「まだ若い君がだ」


「……」


「悔しいよ」


その言葉には、嘘がなかった。


「自分が選ばれたかったと思うこともある」


「君から魔力を奪いたいとも思っている」


セレナが息を呑む。


だがエリオスは首を横に振った。


「それでも、君に罪はない」


「エクリシアが誰を選ぶかは、私が決めることではない」


「私はただ……」


エリオスは少し笑った。


「自分が選ばれなかったことを悔しがっているだけだ」


セレナはしばらく黙っていた。


そして、静かに口を開く。


「……私も、怖かったことがあります」


エリオスが見る。


「村の人たちに、魔の力を知られること」


「教団に、生きていることを知られること」


「だから、隠しました」


「でも――」


セレナは微笑む。


「リュウガとカイルだけは、私を怖がらなかった」


「二人は、私が聖と魔の両方を使えると知った時……」


「すごいって言ったんです」


エリオスは静かに聞いている。


「それだけでした」


「魔の力だからって、嫌ったりしなかった」


「だから私は、村の外では魔の力も使えた」


「二人と一緒なら、何も怖くなかった」


エリオスは目を伏せる。


「……君には、私にはなかったものがあったんだな」


「何ですか?」


「力を知った時に、それを恐れず受け入れてくれる人間だ」


セレナは頷いた。


「はい」


「それは、大切にしなさい」


エリオスは静かに言った。


「力よりも、大切なものかもしれない」


◆


エリオスは研究室の奥へ歩いていく。


そこには巨大な石の扉があった。


中央には一本の剣の形をした紋章。


その左右に、白と黒の紋様。


「これが……」


「エクリシアへ続く封印だ」


エリオスは答える。


「私は、何度もここへ挑んだ」


「第一の試練までは進めた」


「だが、その先で止められた」


セレナは扉を見る。


「じゃあ……エクリシアは、この先に?」


「そうだ」


「でも、まだ君には渡せない」


「……?」


「第一の試練を越えただけだからだ」


エリオスは首を横に振る。


「ここから先が、本当の試練になる」


セレナは拳を握る。


「分かりました」


「怖くないのか?」


「怖いです」


セレナは正直に答えた。


「でも……」


右手に白い光。


左手に黒い魔力。


「自分の力から逃げたくありません」


エリオスは静かに頷いた。


「……そうか」


「ならば進め」


「私が辿り着けなかった場所へ」


「君自身の足で」


◆


セレナは封印された扉の前に立つ。


聖の力。


魔の力。


どちらも自分のもの。


村の人たちには見せられなかった力。


それでも、リュウガとカイルの前では何度も使ってきた力。


自分を守ってきた力。


誰かを守るために使ってきた力。


そして――


これから、自分自身と向き合うための力。


「私は……もう逃げない」


扉の紋章が、ほんの僅かに輝いた。


白。


そして黒。


二つの光が、静かに重なる。


その光を見つめながら、エリオスは呟いた。


「……私のように、後悔するな」


セレナは振り返る。


「はい」


エリオスは研究室に残された古い書物を見る。


まだ渡していない研究記録。


まだ明かしていない知識。


まだ封印された剣。


「私が辿り着けなかった先を――」


「君が見つければいい」


セレナは前を向く。


そして。


封印の地のさらに奥へ歩き出した。


まだ彼女は知らない。


その先に眠る一振りの剣が。


聖でもなく。


魔でもない。


二つの力を受け入れるために存在する剣――


聖魔剣《エクリシア》。


そして。


その剣との出会いが、セレナ自身の運命を大きく変えることを。 第四章完

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


今回の章はいかがでしたでしょうか?


物語も少しずつ大きく動き始め、新たな出会いや戦い、そして聖剣と魔剣を巡る謎が、これからどのように物語へ繋がっていくのか――。


楽しみにしていただけたら嬉しいです。


感想や応援コメントなども、お気軽にお寄せください!


それでは、次の章でまたお会いしましょう。


三國ユウ

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