第三章 修行
第2章で大きく動き始めたリュウガたちの物語。
第3章では、いよいよ本格的な修行が始まります。
剣聖ゼインの指導のもと、
リュウガ、カイル、セレナは、それぞれの力と向き合うことに。
ただ強くなるだけではなく、
剣を振るう意味や、自分自身の力をどう扱うのか。
三人の成長が、これからの物語にどう繋がっていくのかにも注目していただければ嬉しいです。
そして――
修行の先で、彼らを待ち受けるものとは?
ぜひ第3章「修行」を読んでみてください!
村を出てから、数日が経っていた。
三人はそれぞれ、違う方法で力を身につけようとしていた。
リュウガは、朝日が昇る前から剣を振っていた。
「……はっ!」
――ガキィン!
ゼインの木剣を、ムーンブレイドで受け止める。
だが。
「遅い」
――ドン!
リュウガの身体が後ろへ弾き飛ばされた。
「ぐっ……!」
地面を転がり、何とか立ち上がる。
「もう一度」
ゼインが構える。
「はい!」
リュウガは再び走った。
だが、ゼインの剣は速い。
真正面から受ければ、力で押し切られる。
横へ逃げれば、追撃される。
「くっ……!」
また弾き飛ばされる。
「お前は、相手を倒そうとしすぎている」
ゼインが言った。
「でも、剣士なら……」
「違う」
ゼインは首を振る。
「お前の強さは、相手より強いことじゃない」
リュウガが顔を上げる。
「守ることだ」
「守る……?」
「お前は、誰かを守るためなら、自分が傷つくことを恐れない」
ゼインは木剣を構える。
「ならば、その性質を剣にしろ」
「攻撃を受ける」
「耐える」
「守る」
「そして――」
ゼインが踏み込む。
「最後の一撃だけを、必ず通す」
――ガキィン!
リュウガは剣を構え、ゼインの攻撃を受け止めた。
一撃。
二撃。
三撃。
何度も弾かれる。
それでも、倒れない。
「……まだだ!」
リュウガは踏みとどまった。
ゼインの剣が迫る。
リュウガは真正面から受ける。
そして、一瞬だけ生まれた隙に踏み込んだ。
「これが……!」
ムーンブレイドが白銀に輝く。
「聖剣技――」
一閃。
「《ムーン・スラッシュ》!」
ゼインが木剣で受け止める。
――ズガァン!
地面が震えた。
ゼインが僅かに後退する。
「……今のだ」
リュウガは荒い息を吐いた。
「これが、俺の剣……」
「そうだ」
ゼインは頷いた。
「お前は、守ってから斬る剣士だ」
◆
その頃。
別の場所では、カイルが一人で剣を振っていた。
ヴァルグレイヴは、地面に置いてある。
『…遅い』
頭の中に声が響く。
「分かってるよ」
『足が止まっている』
「分かってるよ」
『ならば、なぜ止まる』
カイルは舌打ちした。
「……真正面から戦ったら、お前の力に頼っちまうだろ」
『それでいい』
「よくない」
カイルはヴァルグレイヴを拾った。
「俺は、お前に全部任せるつもりはない」
『ならば、自分で斬れ』
カイルが構える。
「どうやって?」
『相手の剣を見るな』
「……え?」
『見るべきは、相手の足だ』
カイルが眉をひそめる。
『剣は、足が動いた後に動く』
カイルはしばらく黙った。
そして。
「……なるほど」
再び構える。
敵を想定する。
足を見る。
踏み込む。
相手の攻撃を避ける。
その瞬間、横へ回り込む。
「ここだ!」
一閃。
『遅い』
「まだかよ!」
『お前は速い』
『だが、速さに頼っている』
「じゃあ、どうする?」
『読むのだ』
『相手が動く前に、次の動きを読む』
カイルは目を閉じる。
そして、ゆっくり息を吐いた。
「……分かった」
「俺は、先に動くんじゃない」
「相手より先に、相手の動きを読む」
カイルが走る。
一歩。
二歩。
三歩。
相手の死角へ入り込む。
「――ここだ!」
ヴァルグレイヴが黒い炎を纏う。
「魔剣技――」
一閃。
「《ヴァルグレイヴ・ファング》!」
黒い斬撃が走った。
『……悪くない』
カイルが笑う。
「お前、今褒めた?」
『気のせいだ』
「絶対褒めただろ」
『黙れ』
「ははっ!」
◆
そして、セレナ。
彼女は一人、山の開けた場所で剣を振っていた。
普通の剣。
ムーンブレイドでもない。
ヴァルグレイヴでもない。
「はっ!」
黒炎を剣に纏わせる。
「《ダーク・エッジ》!」
黒炎の刃が岩を斬る。
――ズバッ!
岩の表面が赤く焼ける。
「……よし!」
セレナは息を整える。
続けて、右手に魔力を集める。
「《光弾》!」
――バリィッ!
光弾が地面を走った。
だが。
次の瞬間。
セレナの足元が崩れた。
「えっ――」
バランスを崩す。
「きゃっ!」
地面に倒れ込む。
「……痛っ」
セレナは額を押さえた。
少し離れた場所で、ゼインが腕を組んでいる。
「魔法を使った直後に、周囲を見る余裕がない」
「……分かってる」
「なら、もう一度だ」
「はい」
セレナは立ち上がる。
今度は岩を一つではなく、複数並べる。
正面。
左右。
背後。
「これなら……」
セレナが剣を構える。
右の岩へ走る。
「《ダーク・エッジ》!」
黒炎の刃で切り裂く。
そのまま身体を回転させる。
「《光弾》!」
光弾が左の岩を撃ち抜く。
さらに一歩。
「――《ウィンド・カッター》!」
風の刃が背後の岩を斬り裂く。
三つの攻撃。
三つの方向。
セレナは息を吐いた。
「……できた」
ゼインが口を開く。
「今のは悪くない」
「本当?」
「だが、まだ魔法を順番に使っているだけだ」
「……え?」
「黒炎を使う」
「次に光弾を使う」
「その次に風を使う」
ゼインはセレナを見る。
「それでは、ただの魔法使いと変わらん」
セレナは黙った。
「お前は剣士でもある」
「なら、魔法は剣の代わりではない」
「剣も魔法の代わりではない」
「二つを同時に戦術として使え」
「……同時に?」
「そうだ」
ゼインが木剣を拾う。
「敵が右から来たとする」
ゼインが踏み込む。
セレナは反射的に剣を構える。
――ガキン!
「受けた」
ゼインが剣を押し込む。
「この状態で魔法を使え」
「そんなの……!」
「やれ」
セレナは歯を食いしばる。
剣を押さえられている。
右手は塞がっている。
なら。
「……左手!」
魔力を集める。
「《光弾》!」
――バリッ!
光弾が地面を走る。
ゼインが後ろへ跳ぶ。
「今だ!」
セレナが踏み込む。
「《ダーク・エッジ》!」
黒炎を纏った剣が走る。
ゼインが受け止める。
――ガキィン!
「……なるほど」
セレナは荒い息を吐く。
「剣で相手を止めて、魔法で動きを制限する」
「あるいは」
ゼインが言う。
「魔法で相手を動かし、その先に剣を置く」
セレナの目が変わった。
「……相手を倒すんじゃなくて」
「相手が動きたい場所を、私が決める」
「そうだ」
セレナは周囲を見る。
岩。
木々。
斜面。
足場。
今までただの景色だったものが、戦うための場所に見えてきた。
「……戦場そのものを使う」
「それがお前の剣だ」
セレナは剣を握り直した。
◆
その日の午後。
セレナは、ゼインと向かい合っていた。
「もう一度、聖と魔を同時に使ってみろ」
「……同時に?」
「今度は、制限しない」
セレナは頷いた。
右手に聖の魔力。
左手に魔の魔力。
二つの力を身体へ流し込む。
――ズン。
胸の奥が重くなった。
「……っ」
「続けろ」
セレナは歯を食いしばる。
聖の力が身体を駆け巡る。
魔の力が、その反対側から流れ込む。
「《ダーク・エッジ》!」
黒炎を纏った剣を振る。
続けて。
「《光弾》!」
光弾が地面を走る。
――ドォン!
二つの力が同時に放たれた。
だが。
「――っ!」
セレナの身体が大きく揺れた。
「きゃあっ!」
剣を落とす。
膝をついた。
「セレナ!」
ゼインが駆け寄る。
「大丈夫です……!」
立とうとする。
だが、身体に力が入らない。
指先が震えている。
呼吸も乱れていた。
「……なんで……」
ゼインはセレナの手を見る。
「これが、聖魔の力の代償だ」
「代償……?」
ゼインは静かに言った。
「聖の力は、身体を使う」
「強く流せば流すほど、生命力そのものを消耗する」
「魔の力は違う」
セレナが顔を上げる。
「精神を削る」
「使い続ければ、感情や記憶、意識に負担がかかる」
セレナの表情が固まった。
「じゃあ……両方を使ったら」
「身体と精神、その両方に負担がかかる」
ゼインはセレナを見る。
「だから、聖と魔を同時に扱う者は少ない」
「力が二倍になるわけではない」
「代償も二つになる」
セレナは震える手を握った。
「……怖いね」
「怖いからこそ、覚えておけ」
ゼインは厳しく言った。
「力を使うことと、力に自分を食わせることは違う」
「限界を知らずに使えば――」
ゼインはセレナの目を見る。
「いつか、自分自身を失う」
セレナは黙った。
しばらくして。
「……それでも」
ゆっくりと立ち上がる。
「使えるようになりたい」
「二人に追いつくために?」
「それもある」
セレナは剣を拾う。
「でも、それだけじゃない」
「私は……この力を怖いままにしたくない」
ゼインは何も言わなかった。
ただ、小さく頷いた。
◆
翌日。
セレナは一人で森へ入った。
「今日は、全部使ってみよう」
目の前には、魔物が三体。
普通なら、一体ずつ相手にする。
だが。
セレナは動かなかった。
魔物が一斉に走ってくる。
「……まだ」
一体目が飛びかかる。
「今!」
セレナは横へ跳ぶ。
魔物の爪が木に突き刺さった。
「《フレイム・エッジ》!」
炎の剣で木の枝を切り落とす。
――ドサッ!
枝が魔物の背後へ落ちる。
「そこ!」
魔物が驚いて振り返る。
その瞬間。
「《サンダーレイ》!」
雷が地面を走る。
一体目の足元を封じる。
残り二体が左右から迫る。
セレナは逃げない。
右の魔物へ剣を向ける。
「来て!」
魔物が飛び込む。
セレナは寸前で身体を捻った。
魔物の爪が空を切る。
その背後へ回る。
「《ウィンド・カッター》!」
風の刃が魔物を吹き飛ばす。
左から、もう一体。
「遅い!」
セレナが地面へ剣を突き立てる。
「《アース・バインド》!」
地面から土の鎖が伸び、魔物の足を絡め取る。
「これで――!」
最後の一体へ向かって走る。
剣。
魔法。
足場。
距離。
すべてを使う。
そして。
「《フレイム・エッジ》!」
炎の斬撃が魔物を吹き飛ばした。
三体の魔物が動けなくなる。
セレナはその場に座り込んだ。
「はぁ……はぁ……」
疲れている。
けれど。
「……できた」
今までとは違う。
剣を振るだけでもない。
魔法を撃つだけでもない。
相手の動きそのものを変える。
それが自分の戦い方なのだと、少しだけ分かった。
だが。
セレナは立ち上がろうとして――
「……っ」
膝をついた。
視界が一瞬だけ揺れる。
「……また?」
さっきの戦いでは、聖と魔を同時に使っていない。
それでも魔力を使い続けた身体には疲労が残っている。
「これが……代償」
セレナは自分の手を見る。
「もっと効率よく使わないと……」
力を増やすだけではない。
力を制御すること。
自分の限界を知ること。
そして、限界を超えないこと。
それもまた、修行だった。
◆
その夜。
セレナは一人、焚き火の前に座っていた。
月蝕の羅針盤を手に取る。
針は動かない。
「……まだ」
セレナは呟く。
「私の中には、聖の力も魔の力もある」
「でも……」
羅針盤は沈黙している。
「戦えるようになっただけじゃ、駄目なんだ」
セレナは目を閉じる。
村で見た光景が蘇る。
ムーンブレイドを握るリュウガ。
ヴァルグレイヴを握るカイル。
二人は、もう自分の力と向き合っている。
「私は……何なんだろう」
聖剣ではない。
魔剣でもない。
今はただの普通の剣。
「私は、どっちにもなれないのかな……」
そのとき。
背後からゼインの声がした。
「なれない、のではない」
セレナが振り返る。
「まだ決めていないだけだ」
「……どういうこと?」
ゼインは月を見上げた。
「聖か、魔か」
「どちらかを選ぶ必要があると思っているから、力がぶつかる」
セレナは羅針盤を見る。
「じゃあ……両方を使えばいい?」
「違う」
ゼインは首を振る。
「混ぜるのでもない」
「受け入れるのだ」
「聖の力は聖のまま」
「魔の力は魔のまま」
「それでも、どちらも自分の力だと認める」
セレナはしばらく黙っていた。
「……私の中にあるものを、私自身が否定しない」
「そういうことだ」
ゼインは続けた。
「そして、もう一つ覚えておけ」
「聖魔の力を使う者にとって、一番危険なのは――」
セレナが顔を上げる。
「力を使うことではない」
「代償を無視することだ」
「……」
「強くなりたいという気持ちは、限界を忘れさせる」
ゼインは静かに言った。
「お前が二人に追いつきたいと思うほど、その危険は大きくなる」
セレナは胸元を握る。
「……分かった」
「絶対に、自分を失わない」
◆
翌朝。
セレナは山の頂上に立っていた。
目の前には、巨大な岩。
右手に剣。
左手に魔力。
「聖だから正しい」
セレナは呟く。
「魔だから間違っている」
少しだけ笑う。
「そんな簡単な話じゃないよね」
まず、聖の力を身体へ流す。
身体が重くなる。
心臓が強く鼓動する。
続いて、魔の力。
頭の奥に、鋭い痛みが走る。
「……っ」
それでも、止めない。
聖の力は身体を削る。
魔の力は精神を削る。
なら。
「どっちも……私の力」
セレナは両方を受け入れる。
だが、混ぜない。
押しつぶさない。
互いを侵食させない。
ただ、それぞれの力を自分の意思で動かす。
「……これなら!」
剣を振る。
魔の力
「《ダーク・エッジ》!」
――ズバッ!
黒炎で岩に亀裂が入る。
次に聖の力
「《光弾》!」
――バリィッ!
光弾亀裂が広がる。
さらに
火
風
土
水
次々と魔法を繋げる。
だが。
身体が悲鳴を上げる。
「……まだ!」
膝が震える。
頭が痛む。
それでも、セレナは立っていた。
「まだ……!」
最後に剣を振る。
――ガキィン!
岩が崩れた。
セレナは膝に手をつく。
「はぁ……はぁ……」
視界が揺れる。
一瞬、何も聞こえなくなる。
「……っ」
倒れそうになった身体を、剣で支える。
それでも。
「……できた」
その瞬間だった。
腰に下げていた月蝕の羅針盤が――
――カチッ。
音を立てた。
「……え?」
セレナが振り返る。
羅針盤の針が回り始める。
だが、今回は暴れていない。
ゆっくり。
静かに。
一つの方向へ向かっていく。
セレナは息を呑んだ。
「……動いた」
針の先。
そこには、深い山々が連なっていた。
「封印の地……」
セレナは羅針盤を強く握った。
「ここに……私の答えがあるの?」
答えは返ってこない。
ただ、針だけが静かに道を示していた。
セレナは立ち上がろうとする。
しかし。
「……っ」
足元がふらつく。
セレナは岩に手をついた。
「……まだ、完全じゃない」
力を使えば強くなれる。
だが、その力には代償がある。
だからこそ。
封印の地で手に入れるものが必要だった。
自分の力を、壊さずに扱う方法。
そして――
自分だけの剣。
◆
その日の夕方。
セレナは荷物をまとめていた。
最低限の食料。
水。
薬。
そして月蝕の羅針盤。
そのとき。
「セレナ?」
後ろから声がした。
振り返ると、リュウガが立っていた。
「リュウガ……」
「どこか行くのか?」
セレナは少し迷った。
「うん」
「封印の地へ行く」
リュウガの表情が変わる。
「一人で?」
「うん」
「危ないぞ」
「分かってる」
セレナは小さく笑った。
「でも、行かなきゃいけないの」
リュウガは黙った。
セレナは月蝕の羅針盤を見る。
「このままじゃ……二人に追いつけない」
「二人?」
「リュウガとカイル」
セレナは少し俯いた。
「リュウガはムーンブレイドを手に入れた」
「カイルはヴァルグレイヴで戦ってる」
「二人とも、自分だけの力を見つけようとしてる」
そして、セレナは自分の剣を見る。
「私には、まだそれがない」
「……セレナ」
「二人についていきたい」
「二人の隣で戦いたい」
「でも、今のままじゃ……守られるだけになっちゃう」
リュウガは何も言わなかった。
セレナは顔を上げる。
「私も強くなりたい」
「二人に追いつきたい」
「だから、封印の地へ行く」
リュウガはしばらくセレナを見つめていた。
やがて、少しだけ笑う。
「……セレナらしいな」
「え?」
「昔からそうだっただろ」
「俺たちが先に走ったら、いつも追いかけてきた」
「……それ、子供の頃の話じゃん」
「今も同じだよ」
リュウガは笑った。
「俺たちは、三人で約束しただろ」
セレナが目を細める。
「……うん」
「だから、追いついてこい」
リュウガは拳を差し出した。
「今度は俺が先に行ってる」
セレナは、その拳を見つめる。
そして。
自分の拳を重ねた。
「絶対に追いつく」
「約束な」
「うん」
セレナは笑った。
だが、その目には強い決意が宿っていた。
◆
翌朝。
セレナは一人、山道に立っていた。
背中には荷物。
腰には普通の剣。
手には月蝕の羅針盤。
針は、山の奥を指している。
「封印の地……」
セレナは振り返った。
遠くに、ゼインの小屋が見える。
そのさらに先には、リュウガがいる。
そして――
どこか遠くにいるカイル。
「待ってて」
セレナは小さく呟いた。
「今度は、私から追いつくから」
そして、山道を歩き始めた。
◆
同じ頃。
リュウガは一人で剣を振っていた。
「……もっと強く」
守るために。
受け止めるために。
最後に斬るために。
ムーンブレイドが月の光を反射する。
その姿は、以前とは明らかに違っていた。
◆
遠く離れた場所。
カイルもまた、ヴァルグレイヴを握っていた。
「これでどうだ」
『……まだまだ遅い』
「はいはい」
『だが――』
一瞬。
ヴァルグレイヴの声が止まる。
『……あの女も、動き始めたか』
カイルが眉をひそめる。
「セレナ?」
『……分からぬ』
「何だよ、それ」
カイルは笑った。
「まあ、いいか」
ヴァルグレイヴを構える。
「俺も行くぞ」
『どこへだ』
「俺自身が強くなれる場所へだよ」
三人は、それぞれ違う場所で。
それぞれ違う方法で。
それぞれの強さを探し始めていた。
リュウガは――
守り、受け止め、最後に斬る。
カイルは――
読み、踏み込み、相手より先に斬る。
セレナは――
剣と魔法を組み合わせ、戦場そのものを変える。
そしてセレナには、もう一つ覚えなければならないことがあった。
力には、必ず代償がある。
聖の力は、身体を削る。
魔の力は、精神を削る。
その両方を扱うなら――
その両方を背負わなければならない。
まだ三人は知らない。
この別々の道が。
やがて再び交わることを。
そして――
その先で待っているのが、三人の力だけでは届かないほど巨大な戦いになることを。




