第二章 白銀の騎士
これから物語が大きく動いていきますので、引き続き楽しんでいただければ嬉しいです。
焼け落ちた家々からは、まだ細い煙が立ち上っている。
村人たちは瓦礫を運び、傷ついた者を助け、壊れた家を少しずつ直し始めていた。
その中には、かつてガルドと共に村を襲った者たちの姿もあった。
ガルド自身もまた、無言で瓦礫を運んでいる。
右手には包帯。
顔には深い疲労が残っていた。
それでも、誰かに命じられたわけではない。
自分の足でここに残ることを選んだのだ。
「……兄ちゃん」
ガルドの妹が、少し離れた場所から兄を見つめていた。
ガルドは振り返る。
「……すまない」
それだけだった。
妹は何も言わなかった。
私の薬の為にあんな事になるなんて
それでも、兄が生きていることだけは確かだった。
そんな村の入口に――
白銀の鎧をまとった騎士たちが立っていた。
その中央に、一人の男がいる。
銀色の髪。
冷静な眼差し。
背には一本の聖剣。
その名は――
聖剣。
そして男の名は、
レオン・ヴァイス。
白銀の騎士と呼ばれる男だった。
レオンは村を見渡し、静かに口を開く。
「……間に合わなかったか」
隣の騎士が答える。
「はい。ガルド一味を追ってきましたが……すでに戦闘は終わっているようです」
レオンの視線が動く。
そして――
リュウガの手にある月光のような剣。
ムーンブレイド。
さらにその少し離れた場所。
カイルの手にある漆黒の剣。
ヴァルグレイ。
レオンの目が細くなる。
「……なるほど」
ガルドから失われた魔剣。
そして、新たに現れた聖剣。
「剣の持ち主が……変わったか」
リュウガが警戒して一歩前へ出る。
「お前たちは何者だ?」
レオンは答えた。
「聖剣教団、白銀騎士団」
そして、ムーンブレイドを見る。
「その聖剣をこちらへ渡してもらいたい」
「……断る」
即答だった。
レオンの視線がリュウガへ戻る。
「理由を聞こう」
「これは俺が選ばれた剣だ」
「選ばれた?」
レオンは静かにアウローラの柄へ手を置く。
「ならばなおさらだ。強大な聖剣を個人が所有することを、教団は認めていない」
カイルが鼻で笑った。
「……随分と勝手な話だな」
レオンの視線がカイルへ移る。
その瞬間だった。
空気が変わった。
レオンの目が、ヴァルグレイを捉える。
「……その魔剣」
ヴァルグレイが低く唸った。
『……白き剣』
カイルが眉をひそめる。
「知ってるのか?」
『知らぬ』
一瞬の沈黙。
『だが……あの剣を見ていると、何かが疼く』
ヴァルグレイ自身にも、その理由は分からなかった。
ただ、ムーンブレイドを見た時と同じように。
失われた何かを求めるような感覚だけが残っていた。
「その魔剣は危険だ」
レオンが言った。
「所有者を選ぶ剣であろうと、魔剣である以上、教団は放置できない」
カイルはヴァルグレイを握り直す。
「……こいつを渡すつもりはない」
「そうか」
レオンがアウローラを抜いた。
白い光が村を照らす。
次の瞬間――
カイルの姿が消えた。
「はあっ!」
ヴァルグレイが振り下ろされる。
しかし。
キィンッ!
レオンは片手でアウローラを構え、その一撃を受け止めていた。
「……っ!」
カイルの顔が歪む。
力が違う。
明らかに。
「ヴァルグレイ俺にもっと力を渡しやがれ」
『言うではないか身体に負担がかかるぞ』
「分かってる!」
漆黒の力がカイルの腕を駆け上がる。
黒い紋様が広がる。
一気に踏み込む。
だが――
「遅い」
レオンの剣が閃いた。
ドンッ!
カイルの身体が吹き飛んだ。
「カイル!」
リュウガが駆け出す。
ムーンブレイドを構え、斬り込む。
「うおおおっ!」
レオンはアウローラを横に構えた。
ガキィィン!
聖剣同士がぶつかる。
だが――
「……!」
リュウガの腕が震えた。
押されている。
ムーンブレイドを両手で支えているのに。
「これが……聖剣使い……!」
レオンが力を込める。
リュウガの身体が後ろへ滑った。
「リュウガ!」
セレナが魔法を放つ。
「――《光弾》!」
複数の光弾がレオンへ飛ぶ。
レオンは振り返りもせず、アウローラを一閃。
すべての光弾が消し飛んだ。
「そんな……」
セレナが息を呑む。
レオンは三人を見た。
「悪くない」
淡々とした声だった。
「だが、まだ力が足りない」
カイルが立ち上がる。
「……ふざけるな!」
ヴァルグレイが囁く。
『我の力をもっと使え』
「黙れ……!」
『使わねば勝てぬ』
カイルは歯を食いしばった。
そして叫ぶ。
「俺は……俺のやり方で強くなる!」
ヴァルグレイが沈黙する。
その瞬間だけ。
剣と持ち主の間に、奇妙な調和が生まれた。
カイルは踏み込む。
今度は速かった。
レオンもわずかに目を見開く。
「……ほう魔剣に操られぬか」
しかし――
アウローラが閃いた。
ガァンッ!
ヴァルグレイが弾き飛ばされる。
カイルの身体も地面を転がった。
そこへリュウガが斬り込む。
セレナが魔法を重ねる。
三人の連携。
幼い頃から何度も繰り返してきた動きだった。
それでも。
レオンは崩れない。
剣一本で、三人を相手にしている。
「これが……今の俺たちとの差……」
リュウガは悔しさを噛みしめた。
勝てない。
まだ、届かない。
それを三人とも理解していた。
その時だった。
レオンがセレナを見た。
「…………」
一瞬。
レオンの表情が止まった。
「……まさか生きていた」
セレナもレオンを見つめる。
「…………レオン……?」
二人の間に、奇妙な沈黙が流れた。
別の騎士が尋ねる。
「レオン様?」
レオンは一瞬だけ目を伏せた。
そして、
「……いや」
静かに首を振った。
「人違いだ」
セレナは拳を握った。
――私は知っている。
この男を。
幼い頃。
聖剣教団に保護されていた頃に、何度も見た。
そして、自分が「危険な存在」として扱われ始めた時。
自分を逃がすために動いてくれた者たちの中に――
レオンがいた。
教団には、こう記録されている。
――少女セレナ。
――逃走中に死亡。
それが、教団にとってのセレナだった。
死んだはずの少女が。
今、目の前にいる。
「……どうして貴方がいるの?」
セレナの声が震える。
レオンは答えなかった。
ただ、ほんの一瞬だけ。
アウローラを握る手に力が入った。
その時、背後から騎士の声が響く。
「レオン様! 魔剣使いが逃げます!」
カイルだった。
「……!」
カイルは村の外へ走っていた。
リュウガが叫ぶ。
「カイル!」
「来るな!」
カイルが振り返る。
「俺がここにいたら、また村が狙われる!」
「何言ってんだよ!」
「俺は……この剣を持ってる!」
ヴァルグレイが低く笑う。
『奴らはお前を逃がすつもりはない』
カイルはそれを聞き、歯を食いしばった。
「……分かってるよそれがいいんだよ」
そしてリュウガを見る。
「だから行くんだ」
「俺たち、ずっと一緒だっただろ!」
「……だからだ」
カイルは笑った。
「お前らを巻き込みたくない」
「カイル!」
その瞬間。
レオンが動いた。
「魔剣使いを追う」
白銀の騎士たちが動く。
レオン自身もカイルを追っていく。
リュウガとセレナが追おうとする。
だが、教団の騎士たちが立ちはだかった。
「行かせるか!」
「どけ!」
ムーンブレイドが閃く。
セレナの魔法が炸裂する。
二人は必死に突破しようとした。
一方。
カイルは森を駆けていた。
「はぁ……はぁ……!」
背後から白銀の光。
「止まれ!」
レオンだった。
「……しつこいな!そんなんじゃ女性に嫌わられるぜ」
カイルが振り返り、ヴァルグレイを構える。
「その剣を置け」
「嫌だ!」
「その魔剣を持つ限り、お前は追われ続ける」
「だったら……逃げ続ける!」
カイルが走る。
森を抜ける。
視界が開けた。
その先にあったのは――
巨大な滝だった。
「……しまった」
背後からレオンが現れる。
「終わりだ」
カイルは滝を見下ろす。
そして――笑った。
「……そうでもないぜ」
「何?」
カイルはヴァルグレイを握り締める。
「俺はまだ……終われねえんだよ!あばよ」
「待て!」
カイルは飛んだ。
巨大な滝の中へ。
「カイル!貴様」
レオンが崖の端へ駆け寄る。
しかし、白い水煙の向こうに姿はない。
「…………」
レオンはしばらく滝を見つめていた。
やがて剣を収める。
「……生きているか」
その声には、ほんのわずかな心配が混じっていた。
一方、村では。
リュウガとセレナもまた、騎士たちを振り切っていた。
「カイル……!」
リュウガが拳を握る。
「……まったくはがたたなかった俺たちも強くならないと」
セレナは静かに頷いた。
「うん」
その時。
セレナの胸の奥に、幼い頃の記憶が蘇った。
逃げていた自分。
追ってくる教団。
そして、自分を助けてくれた一人の剣士。
――ゼイン・アルヴァード。
「……ゼインさん」
セレナが呟く。
「誰だそれ知ってるのか?」
「うん。昔、私を助けてくれた人」
二人はその足で村を離れた。
向かった先は――
かつてセレナが世話になった人物のもとだった。
剣聖。
ゼイン・アルヴァード。
⸻
数日後。
山奥の小屋。
剣聖ゼインは、二人を静かに迎え入れた。
「……大きくなったな、セレナ」
「ゼインさん……」
セレナは少しだけ笑った。
だが、その笑顔の奥には、まだ教団への複雑な感情が残っている。
ゼインはリュウガを見る。
「そして、お前がムーンブレイドの持ち主かとうとう封印が解けてしまったようだな」
「はい」
「ならば覚えておくがいい」
ゼインは木剣を一本、リュウガへ投げた。
「聖剣を持つことと、聖剣に選ばれた者として戦えることは別だ」
「……!」
「鍛えるぞ」
こうして、二人の修行が始まった。
リュウガはムーンブレイドの力を引き出すため。
セレナは剣と魔法を組み合わせるため。
何度も倒れ。
何度も立ち上がる。
そんなある日。
セレナが魔力を剣へ流した。
「――《魔力付与》!」
剣が淡く輝く。
ゼインはそれを見つめた。
「……やはりな」
「何が?」
「お前は、純粋な聖剣にも、純粋な魔剣にも向いていない」
セレナの表情が曇る。
「……それって、悪いこと?」
「違う」
ゼインは首を振った。
「お前は最初から、二つの力を自分の意思で組み合わせようとしている」
そして古びた書物を取り出した。
「昔、エリオスという研究者から聞いた話がある」
「エリオス?」
「エリオス・ヴァーン。古代剣を研究していた男だ」
ゼインはページを開く。
そこには古い文字が記されていた。
――聖と魔、二つの力をその身に宿す者が現れし時。
――眠れる剣は目を覚ます。
セレナは息を呑む。
「……二つの力」
「この話が本当なのか、俺にも分からない」
ゼインは続けた。
「ただ、エリオスは古文書を何年も調べ、ある場所に辿り着いた」
「どこ?」
「封じられし地」
そして、その名を口にした。
「聖魔剣――《エクリシア》」
「……エクリシア」
セレナが呟いた瞬間。
彼女が使っていた剣が――
ほんのわずかに震えた。
「……今、剣が……」
ゼインは目を細めた。
「まだ早い」
そう言って、懐から小さな古びた羅針盤を取り出した。
それは普通の羅針盤ではなかった。
「これは?」
「《月蝕の羅針盤》」
ゼインはそれを見つめる。
「エリオスから昔、預かったものだ」
「何に使うの?」
「……俺にも、まだ分からん」
その言葉とは裏腹に。
羅針盤の針が――
ほんの一瞬。
セレナへ向かって動いた。
ゼインは目を見開いた。
「…………」
セレナは気づいていない。
ゼインだけが、その意味を考えていた。
――まさか。
――あの記録にあった「二つの力を宿す者」が……。
その答えを確かめるには。
まだ時間が必要だった。
そして。
遠く離れた場所。
激しい滝の下。
一人の少年が水面から這い上がった。
「……っ、はぁ……!」
カイルだった。
生きている。
その手には――
ヴァルグレイ。
『……生き残ったか』
「当たり前だ死んでたまるかよ」
カイルは空を見上げた。
「……リュウガ、セレナあいつら無事かな」
その胸には、二人への想いがあった。
そしてヴァルグレイは。
月を見つめていた。
『……ムーンブレイド』
「またそれか」
『我は……何かを失った』
「何を?」
ヴァルグレイは答えない。
ただ。
月を見つめる。
『……分からぬ』
それは、ヴァルグレイ自身も知らない記憶だった。
失われた何か。
かつて自分が持っていた何か。
そして――
その答えへ繋がるものが。
ムーンブレイドだった。
三人の幼馴染は。
それぞれ別々の道へ進み始めた。
リュウガは、聖剣を極める道へ。
セレナは、聖にも魔にも属さない力を求める道へ。
そしてカイルは――
魔剣と共に、自分自身の力を求める道へ。
まだ誰も知らない。
この別離が。
やがて世界そのものを変えることになるとは。 第2章完
この作品は昔から考えいた話で初めは漫画で書いていましたが画力がクソすぎて小説化しました、ここまで読んでいただきありがとうございますまた興味があればお願いします




