↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/24

第十八章 新たな研究拠点

挿絵(By みてみん)      封印の地


 セレナに案内され、アルベルトと研究員たちがたどり着いたのは、エリオスが身を置く研究施設だった。


 施設の入口で一行を出迎えたエリオスは、セレナの姿を見つけて表情を和らげた。しかし、彼女の後ろに続く大勢の人影に気づくと、驚いたように目を見開いた。


「セレナ、おかえり。……ところで、そちらの方々は?」


「紹介するわ。こちらはアルベルトさん。後ろにいるのは、王都で研究をしていた研究員の皆さんよ」


「エリオス久しぶり、突然大勢で押しかけてすまない」


 アルベルトが丁寧に頭を下げる。


 エリオスは彼の顔を見つめ、やがて思い当たったように声を上げた。


「アルベルト……! 君が来てくれたのか。手紙の返事を待っていたが、まさかこれほどの人数を連れてくるとは思わなかった」


「こちらこそ、急な事になってしまった。だが、今の王都では研究を続けるのが難しくなっているんだ、先日も教団に研究所を封鎖されてね」


 アルベルトの表情が曇った。


「聖剣教団が、始原剣や魔剣に関する資料を盛んに探している。特に魔剣に関する記録への関心が強まっていてな。研究施設にも圧力がかかり、これまでどおり研究を続けることができなくなった」


「そうだったのか……」


「研究を諦めるつもりはない。だからこそ、君の申し出に望みをかけたんだ」


 エリオスは一度うなずき、背後にある施設へ目を向けた。


「私の研究施設を使ってもらうことはできる。ただ……ここでは、これだけの人数を受け入れるのは難しいだろう。研究室も資料の保管場所も足りない」


 研究員たちの顔に、わずかな落胆が浮かぶ。


 その様子を見ていたセレナが、一歩前に出た。


「だったら、別の場所を使えばいいんじゃない?」


「別の場所?」


「ええ。ここには、まだ誰も使っていない施設があるでしょう? あそこを新しい研究拠点にできないかしら」


 エリオスは一瞬、驚いたようにセレナを見た。


 そして、彼女の言葉の意味を理解すると、ゆっくりとうなずいた。


「……そうか。君たちなら、あの場所を活用できるかもしれないな」


 エリオスは一行を振り返り、奥へと続く道を示した。


「ついてきてくれ。見てもらいたい場所がある」


 彼らが案内されたのは、古代の遺跡の奥深くに存在する巨大な施設だった。


 壁面には見慣れない紋様が刻まれ、通路の両側には用途の分からない装置が並んでいる。長い年月を経ているにもかかわらず、建物そのものは驚くほど堅牢な姿を保っていた。


 研究員たちは、目の前に広がる光景に息をのんだ。


「こ、これは……ロスト技術か?」


 エリオスは施設の奥を見渡しながら、静かに説明を始めた。


「ここは、かつてエクリシアが安置されていた場所だ」


「……待ってくれ。エクリシアは、今もここにあるのか?」


 アルベルトが驚いて尋ねた。


「いや。今はもう、ここにはない」


 エリオスはセレナに視線を向けた。


「セレナが試練を乗り越え、エクリシアを手に入れたんだ」


「……何だと? セレナきみがか」


 アルベルトは思わずセレナを見た。


 セレナは少し照れくさそうにしながらも、しっかりとうなずいた。


「ええ。私がエクリシアを受け継いだの」


「そうだったのか……。まさか、そんなことになっていたとは」


 驚きを隠せないアルベルトに、エリオスが説明を続けた。


「私も以前、エクリシアを得るために試練に挑んだことがある。だが、私は失敗した。試練を突破できなかった者は、この施設に入ることすらできなかったんだ」


「では、君も施設の内部を知らなかったのか?」


「ああ。セレナが試練を突破し、エクリシアを手にしたことで、ようやく中へ入れるようになった。それから初めて、ここが何のための場所なのかを知ったんだ、正直驚いたよ」


 エリオスは壁に刻まれた紋様を見上げた。


「ここは、古代の技術を研究するための施設だった。古代魔法や聖剣、魔剣に関する研究だけではない。今の時代には失われてしまった技術や知識も、ここで研究されていたらしいな」


「これほどの施設が……古代に存在して

いたというのか、まさにロスト技術だ」


 アルベルトの声には、驚きと興奮が混じっていた。


「ただし、問題もある」


 エリオスは近くにある装置へ目を向けた。


「この施設は、エクリシアの力を動力源として稼働していたようなんだ。エクリシアがなくなった今、多くの装置は動かなくなってしまった」


「つまり、設備のすべてを使えるわけではないんだな」


「ああ。建物や装置そのものは残っているが、動かないものも多い。記録を閲覧するための設備があるかどうかも、まだ詳しく調べられていない」


 エリオスは小さく息を吐いた。


「私一人では、この広大な施設を調査しきれなかった。だから、ほとんど手つかずのままになっていたんだ」


 その話を聞き終えるよりも早く、研究員たちの間から声が上がった。


「ま、待ってくれ! この壁面の紋様を見てくれ。古代文字に似ているが、これまで見つかっているものとは構造が違うぞ!」


「こっちの装置も気になる! 動いてはいないが、内部の構造がまるで分からない……いったい何に使われていたんだ?」


「記録を保管する設備はないのか? これほどの施設なら、古代の研究資料が残されている可能性もあるはずだ!」


 それまで整然と並んでいた研究員たちは、たちまち散り散りになり、目についた装置や壁面の文字を調べ始めた。


 古代魔法を専門とする研究員は壁の紋様を食い入るように見つめ、聖剣や魔剣を研究してきた者たちは、通路脇の装置に集まって構造を確かめようとしている。


 資料の保管場所を探す者もいれば、施設全体の規模を把握しようと奥をのぞき込む者もいた。


「おい、勝手に先へ行くな! まずは施設の状態を確認するのが先だ!」


 アルベルトの一喝が、広い通路に響き渡った。


「興奮するのは分かるが、何が残っていて、どこまで安全に使えるのかも分かっていないんだ。調査は順序立てて進める。まずは全員、こちらに戻ってくれ!」


「し、しかしアルベルト殿! このような施設を目の前にして、調べずにいられるものですか!」


「気持ちは分かる! だからこそ、焦らず確実に調べるんだ!」


 研究員たちは名残惜しそうに装置や壁面を振り返りながらも、アルベルトのもとへ戻ってきた。


 その様子を見ていたエリオスは、思わず笑みをこぼした。


「……なるほど。君たちなら、私が一人では手をつけられなかった部分も調べられそうだ」


 アルベルトが苦笑する。


「研究となると、皆こうなんだ。普段は真面目な連中なんだが、未知の技術を前にすると夢中になってしまう」


「いや、悪いことではないさ。これほど熱意のある研究員たちなら、ここに眠る知識を少しずつ明らかにしていけるだろう」


 アルベルトは真剣な表情でうなずいた。


「まずは施設全体の安全を確認する。それから使用できる部屋や設備を整理し、研究室と資料の保管場所を整えていこう。動かない装置については、構造を調べながら復旧できるかどうかを見極める」


「それがいいだろう。すぐにすべてを使えるようにはならないが、少しずつ整備していけばいい」


 セレナは二人のやり取りを聞きながら、施設の奥へと視線を向けた。


 エクリシアを手にしたことで、ここに残された力の一部は失われた。


 けれど、古代の技術も、装置も、そしてまだ誰にも知られていない知識も、すべてが消えたわけではない。


 ここを新たな研究拠点にできれば、失われた知識を取り戻す手がかりが見つかるかもしれない。


「ここが、みんなの新しい研究場所になるのね」


 セレナの言葉に、エリオスはうなずいた。


「ああ。これから時間はかかるだろうが、ここを再び人が集まる場所にしていこう」


 アルベルトも、研究員たちを見渡して告げた。


「よし。まずは施設の調査から始める。焦らず、一つずつ進めていこう」


 研究員たちの表情に、再び期待が広がった。


 施設の調査がひと段落した頃、アルベルトがセレナに声をかけた。


「セレナ、ひとつ頼みがあるんだが……後でエクリシアを少し見せてもらえないだろうか?」


 セレナは意外そうに目を瞬かせた。


「エクリシアを?」


「ああ。古代の研究施設と深い関わりがある剣だからな。研究者として、ぜひ一度この目で確かめてみたいんだ。もちろん、無理にとは言わない」


 アルベルトの言葉に、周囲にいた研究員たちも興味深そうに振り返った。


「私もぜひ拝見したいです!」

「いったい、どのような剣なのか……!」


 次々に声を上げる研究員たちを見て、セレナは少し困ったように笑った。


「分かったわ。でも、そんなに大勢に囲まれたら落ち着いて見せられないわよ?」


「そ、それは……確かにそうだな」


 アルベルトは咳払いをして、研究員たちを制した。


「見せてもらえるかどうかは、セレナの都合次第だ。今は施設の調査を優先しよう」


「ふふっ。あとでなら構わないわ」


 セレナがそう答えると、アルベルトの表情が明るくなった。


「ありがとう。楽しみにしているよ」


 研究員たちは名残惜しそうにしながらも、再び施設の調査へと戻っていった。


 セレナは彼らの姿を見つめ、微笑んだ。


 ここに残された知識が、いつか新たな発見につながるかもしれない。


 そしてエクリシアもまた、彼らの研究に新たな道を示すことになるのだろう。


 古代の技術が眠るこの場所は、今、新たな研究拠点として動き始めた。


 その奥底には、まだ誰も知らない知識と、解き明かされる日を待つ数多くの謎が眠っていた。


    第十八章 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。