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第6話 ~恋人になってからね~

 そうして私と明野先輩が出会ってから、もうすぐ雨の降り注ぐ時期へと季節は移り変わっていった。

 明野先輩とはいろんなことを話した。明野先輩はやっぱり将来は画家になるんだって。凄く素敵だと思う。夢の決まっていない私に比べてなんて立派なんだろう。

 休みの日はいろんな所へ出掛けた。明野先輩の行きたい所もあれば、私の行きたい所の希望も聞いてくれた。私の希望する所は明野先輩にとって創作意欲を刺激する所らしく、目をきらきらさせながらスケッチしていいかと聞かれた。もちろん、私は了承した。タピオカドリンクやゲームセンターの絵は私にとっても新鮮だった。

 とにかく、明野先輩と一緒にいられるのは幸せだった。絵を見られることも。

 けど、友達のまま進展はしないのかななんてやっぱり思う。贅沢だろうか。


 そんなことを思いながら今日も部活に励んでいた。

 私はデッサンの対象がリンゴからボックティッシュや石膏像にステップアップした。明野先輩や先生のアドバイスを聞いて、実践して、自分でも上手くなっていると思う。

 絵を描くのは楽しい。難しいことも、時には苦しいこともあるけど、それでも。明野先輩の気持ちが少しわかったようで嬉しかった。

 描くことに対する集中力も上がった気がする。私はるんるん気分で画用紙に鉛筆を走らせていると……。

「おーい、お前ら。もうそろそろ帰れよー」

「え」

「え」

 先生の呼び掛けに私と明野先輩が同時に声を上げた。私は、ばっと黒板の上の時計を見る。いつも明野先輩と帰っている時間をゆうに二時間は越えていた。集中してたのと外が明るかったから気づかなかった……!

 私達は慌てて帰り支度を始めた。片付けが終わると、先生に挨拶をして早足で下駄箱へと二人で向かった。

「ごめんね、集中してて気づかなかったよ……。たまにあるんだ。最近は気をつけてたんだけど……」

 明野先輩が申し訳なさそうに言う。

「いえ、私も気づかなかったですし」

「危ないから家の前まで送っていくよ」

「え」

 今まで、お互いの最寄り駅で別れていた。明野先輩が私の家の前に……?

「気持ち悪いかな? でも危ないし……」

「そんな訳! むしろご褒美です!!」

 私が気持ち悪いかもしれない。明野先輩は、くすりと笑うと

「じゃあ、送ってくね」

 と言った。

「はい!」

 ドキドキわくわく、私の心は弾んでいた。


 明野先輩と帰路についていると、嬉しくて抜け落ちていたことがあり私は、はっとした。

「あの……電車代……」

 私を送るということはその分電車賃がかかる訳で……。

「ああ、気にしないで。僕が好きで送ってるんだから」

 『好き』という言葉に反応してしまうのは恋する乙女の性である。しかし、今は置いておかなければ。

「でも……」

「じゃあさ、明日お弁当、僕の分も作ってほしいな。それでチャラにならない?」

 むしろご褒美です。

「わかりました!」

 私があんまり嬉しそうに言うものだから、明野先輩は笑った。


「私、最初、明野先輩が頑固でひねくれ者だったらどうしようって思ってました」

 電車に揺られながら私は言う。明野先輩は、ふふと笑う。

「そういう人もいるね。でもさ、そうだったら世界の全ては描けないでしょ?」

 私は、んーと考えてから口を開いた。

「そういう人だから描ける世界もあると思います」

 すると明野先輩も、んーと考えて口を開いた。

「確かに……。僕もそうなった方がいいのかな……」

 明野先輩があんまりにも真剣な顔をするものだから今度は私が、くすりと笑った。

「私は今の明野先輩が好きだから、そのままでいてください」

 明野先輩は目を丸くしてから、ふにゃりと微笑んだ。

「そっか」

 そんな先輩だから……ドキドキするんです。


「ありがとうございます」

「いえいえ」

 家の前に着いたので私は明野先輩にお礼を言った。

「ここが御波さんの家か~……って、あんまりじろじろ見ちゃ失礼だよね」

「ふふ」

 明野先輩の真面目さに私は笑う。

「明野先輩の家にも行ってみたいです」

 私はなんとなくそう言った。すると明野先輩は微笑みながら話した。

「駄目。男は狼なの。そういうのは恋人になってからね。じゃあ、また明日」

「え」

 明野先輩は手をひらひらと振って去っていった。


「恋人……に……なってから……」

 お風呂に入って私は自室のベッドに転がって枕を抱いていた。

 恋人になってからって……明野先輩はどういう意味で言ったんだろう……。もう少し仲を深めてから? それとも……。

「恋人になってもいいってこと……?」

 私はごろりと横になる。考えても、考えてもわからない。なら……。

「もう一度、明野先輩に告白しよう」

 私は起き上がって明日のお弁当に詰める残り物を確認しに台所へと向かった。

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