最終話 ~千代のキャンバス~
次の日、お昼休みを迎えて私は明野先輩といつもの場所で落ち合った。
明野先輩に私の作った(詰めた)お弁当を渡すと、大喜びでお礼を言ってくれた。これ、私のお礼なんですけど、と苦笑すると、それでも嬉しいなんて告げるのだから……やっぱり私はそんな明野先輩が好きで。
お弁当を食べながらお喋りするが、味なんてわからないし、話の内容もあまり入って来ない。
「どうしたの? 何か心配ごと?」
明野先輩はそんな私の様子に気づいたのか、そう聞いてくる。
ああ、明野先輩には敵わない。私は心臓をばくばくさせながら明野先輩に向き合った。
「明野先輩」
「ん?」
私は、心の内を明かした。
「私、明野先輩が好きです。付き合ってください」
鼓動は駆け足をやめてくれない。
明野先輩は驚いたような顔をしてからいつもみたいに微笑んだ。
「じゃあ、御波さんを描かせてほしい」
「? 私を?」
明野先輩の言いたいことが理解できずに私は聞き返す。
「うん。それで僕が御波さんのことをどう思っているか判断してほしい」
「わかり……ました」
明野先輩がなんでそんなことをするのかわからなかったけど、返事をしてくれるのなら私はそれでよかった。
その日から、明野先輩は私を描き続けた。私は椅子に座って、明野先輩は私とキャンバスに向かって。
部活中、なんだなんだと寄ってくる人達がいたが先輩男子が、そっとしておけ、と言ってくれた。
そうして一週間が経ち、早朝の美術室で明野先輩が口を開いた。
「御波さん、お疲れ様。できたよ」
明野先輩の声に私は立ち上がって、そちらへ向かう。
「これが僕の気持ち」
私はキャンバスを見る。そこに描かれていたのは……。
もちろん私。でも、わかった。その絵には私に対する愛情がそこはかとなくつまっている。明野先輩が言いたかったのはこれだ。
私は明野先輩の気持ちが嬉しくて涙を流した。
「明野先輩……」
明野先輩は私の涙を人差し指でそっと拭って優しげに応える。
「僕、不器用だからさ。こんな方法でしか御波さんに好きって伝えられない」
「明野先輩……」
私は明野先輩の目を見る。
「千代って呼んで。栞ちゃん」
「千代……さん……」
私達は誰もいない教室でキスを交わした。
その後、周りの人達からは、やっと付き合ったのかなんて散々言われた。恥ずかしかったけど、私は私で浮かれていた。先輩男子からは、おめでとさん、と祝福された。なんだかんだ良い人だなんて最近になって思う。
そして週末。いつものように……いや、正式に恋人になってから初デート。
「今日は本屋さん行きたいって言ってたけど、何か買いたい本があるの?」
ちょっと照れくさいけど、私は千代さんに言う。
「あの……将来の夢が決まって……。それ関連の本を……」
「え! 何々?」
千代さんは興味津々だ。私は緊張しながら言う。
「画商になりたくて……。私、千代さんが描いた世界をいろんな人に見てもらいたいんです。め、迷惑ですかね……?」
そんな私に千代さんはいつものように微笑んだ。
「願ってもないよ。とっても嬉しい。末長くよろしくね」
末長くってことは……。
「結婚してくれるんですか!?」
「え? もちろん」
千代さんはなんでもないように言う。
「栞ちゃんは?」
そんなの決まってる。
「もちろん! 結婚!! します!!!」
千代さんは嬉しそうに笑った。
これからも千代さんのキャンバスにはいろんな世界が描かれるだろう。私は特等席でそれを見る。
とても、幸せだ。




