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第5話 ~いわゆるデート~

「(よし)」

 いよいよ念願の週末がやって来た。私は全身鏡の前で服装をチェックする。

 動きやすいようにオーバーオールにしたが、スカートの方がよかったかな……なんて悩んでいたらもう出発の時間になってしまった。私は慌ててリュックを掴み、キッチンに置いていたお弁当の巾着を二つ中に詰めこんで家を出た。


 待ち合わせ場所に行くと、明野先輩がいた。いつもこの人は私より先に来る。私は明野先輩に駆け寄った。

「明野先輩! お待たせしました?」

 明野先輩はこちらを見るといつもの柔らかい笑顔で言う。

「ううん」

 それは本当のことなのか、私を気遣ってのことなのか判断できないけど、一つ言えるのは明野先輩は優しいってこと。

「じゃあ、行こっか」

「はい」

 私の言葉を聞いた明野先輩は歩き出す。

 いつも思うのだけど、明野先輩は私の歩くスピードに合わせてくれる。そんなところも好きなのだ。


 そうして目標の自然公園に着いた。風が気持ちいい。朝早いからか、土曜日でも人は少ない。

「じゃあ、御波さん、お弁当お願い」

 明野先輩は適当なベンチの前に背負っていたリュックを置く。

「はい!」

 私もリュックを下ろして中からお弁当箱を二つ取り出す。ピンクのお弁当箱と青のお弁当箱を巾着から出して、蓋を開ける。

「あれ? こっちの子、ちょっと形が違う?」

 流石、明野先輩だ。気づいてもらえたのが嬉しくて、私は誇らしげになる。

「こっちは犬なんですよ。違った方が楽しいかなって」

 明野先輩は目をきらきらさせた。

「御波さんって素敵だね」

 そんな言葉をおくびもなく伝えられる明野先輩だって素敵だ。私は照れながら

「ありがとうございます」

 と告げた。


 ケチャップとマヨネーズでお弁当を完成させ、ベンチの上に置く。明野先輩はリュックからスケッチブックと画材を取り出して地面に座る。

「明野先輩、これって筆ペンですか?」

 私は見たことのない画材を前にして明野先輩に質問した。明野先輩は快く答えてくれた。

「水彩筆ペンだね。持ち運ぶのに便利だから、外でのスケッチによく使ってるんだ」

「へぇ~」

 一つ賢くなった。

「……」

「どうしました?」

 明野先輩が、何かに気づいたようだったので尋ねてみた。

「僕がスケッチしてる間、御波さんやること無いよね……。どうしよう……」

 ああ、そんなことか。

「大丈夫です。明野先輩がスケッチしてるところを見てますから」

「退屈じゃない?」

「むしろわくわくします」

 だって好きな人の描く好きな絵ができあがっていく様が特等席で見れるのだから。こんなに楽しいことはない。

 明野先輩はふわりと笑って

「そっか」

 とスケッチブックに向かった。


 明野先輩は鉛筆でお弁当を形どっていく。それはまるで魔法を目にしたようで私は釘付けになった。たまにちらりと明野先輩の顔を見ると、真剣な、だけど楽しそうな表情で。

「(やっぱりドキドキする……)」

 明野先輩とその絵が好きなことを再確認させられた。

 鉛筆の下書きが終わると明野先輩は、ふぅ、と一息ついてこちらを見て笑った。

「(反則だってば……)」

 顔は赤くなっていないだろうか。明野先輩に気づかれやしないだろうか。そう思ったが気づかれたところで今更な気はする。

 それはそうと、明野先輩は水彩筆ペンを取り出し着色していく。見ていてとても面白い。ずっと隣で見ていられればな。その願いが叶う日は来るのだろうか。

 そんなことを考えていると、明野先輩が私の方を振り返る。

「できたよ」

 完成品は優しいタッチと色合いで、明野先輩のお弁当に対する気持ちが伝わってくる。凄く、嬉しかった。

「どうかな?」

 明野先輩が聞いてくるので、私は思いの丈を……。


 ぐ~。


「……」

 伝える前に鳴った。私のお腹が。だって美味しそうだから。だって早起きして朝ごはんが早かったから。

 明野先輩は相変わらず優しい微笑みで言った。

「お弁当、食べようか。楽しみだな、御波さんのお弁当」

「はい……」

 私の顔は確実に赤くなっているだろう。


「うん、美味しい」

 明野先輩はケチャップライスを頬張りながら言った。

「お母さんが喜びます」

 私は詰めただけなので。

「御波さんの愛情も伝わるよ」

「えっあっ」

 明野先輩はやっぱりおくびもなくそんなことを言う。天然なのか確信犯なのか……。

 明野先輩はポテトサラダを食べながら話す。

「感情とか、伝えたいことっていろんなものに出ると思うんだよね」

「?」

 明野先輩は何を言いたいのだろう。

「絵にも、文章にも、彫刻にも……」

 明野先輩はこちらを見る。

「お弁当の詰め方にも」

「!」

 明野先輩は……私のことをどう思っているんだろう……。

 すると、明野先輩はお弁当を食べる手を止めて言った。

「御波さん、僕ね、御波さんと出会えて……一緒にいれて楽しい。だから……」

 明野先輩の言葉に私の心臓は早鐘を打つ。

「休みの日にはいろんな所に出かけませんか? スケッチしたり、遊んだり、僕は御波さんとたくさんのことをしたい」

 この言葉はどういう意味なのかわからない。でもきっと……。

「もちろんです」

 悪い意味ではないのだから。

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