第4話 ~お弁当~
「ねえ、今日からお昼ごはん一緒に食べない?」
「! ぜひ!」
そう明野先輩と約束して浮かれていたら授業中注意されたのは置いといて。昼休みを告げるチャイムが鳴ると私は明野先輩との待ち合わせ場所に向かった。
中庭の一角、生徒達がまばらにいる所のベンチに明野先輩は座っていた。
「あ、御波さん。こっちこっち」
明野先輩は私を見つけると手を振ってくれた。私は足早に明野先輩に駆け寄る。
「待たせちゃいました?」
「全然」
明野先輩はにっこり笑う。そして自分の隣をぽんぽんと叩いた。
「どうぞ座って」
「は、はい」
私は緊張しながら明野先輩の隣に座る。今朝だって電車で隣に座ったけど、こっちはこっちで緊張するというかなんというか……。
「じゃあ食べよっか」
「はい!」
明野先輩と私は膝に置いていたお弁当箱の入った巾着を開ける。明野先輩は二段弁当みたいだ。開けるところを見ると、黄色いふりかけのかかった雑穀米が一段、二段目はからあげや春巻き、ちっちゃいグラタンにプチトマトが入っていた。
「美味しそうですね」
私が話しかけると明野先輩は照れくさそうに喋る。
「ほとんど冷凍食品だよ。朝はそんなに時間が無いから。つい、ね」
そのの言い方からすると……。
「自分で作ったんですか?」
「ほら、僕って朝早いから、母さんから自分で作れって言い渡されて」
愉快なお母様だ。
「偉いですね」
「そうかな?」
「はい」
私は笑って答える。
「御波さんのお弁当も見てみたいな」
明野先輩は屈託のない笑顔で言った。そう面と向かって言われるとなんだか恥ずかしい。とりあえず私は大きめの一段弁当を開ける。
中身はチキンとグリーンピースが交ざったケチャップライスに猫の形に切った卵を乗せたのが半分、もう半分はブロッコリーとハート型のチーズ、そしてハムときゅうりの入ったポテトサラダが入っている。
「わ、かわいい」
明野先輩はきらきらと目を輝かせていた。照れるな……。
「ほとんど晩ごはんの残り物ですよ」
「自分で作ったの?」
「詰めたのは私ですけど、晩ごはん作ったのはお母さんなんで……」
「この猫は?」
明野先輩は卵を指差す。
「それは私が作りました」
何かテンションが上がる一工夫が欲しかったから。あと、明野先輩にも見られるし……。
「凄いね」
明野先輩にそう言われると……嬉しい。
「あ、でも、これで完成じゃないんです」
「?」
私は巾着の中から使いきりの小さなケチャップを取り出して封を開け、卵の猫に顔を描いた。余った分は周りに星マークを描いておいた。あと、同じくマヨネーズをブロッコリーにかける。
「どうですか?」
明野先輩に見せると、先輩はわなわなと震えだした。どうしたんだろう?
「明野先輩?」
「描きたい!!」
明野先輩がいきなり、見たことのない興奮した様子で声を発したのでびっくりした。
「こんなお弁当初めて見た!! 描きたいんだ!! ああでもお昼休みが終わっちゃう……。御波さんもごはんが食べられない……」
明野先輩は興奮しながらおろおろしていた。そんな明野先輩が、面白くて、愛おしくて、私はくすりと笑ってしまった。そして思いついた。
「明野先輩、じゃあ、学校が休みの日にどこかお出かけしませんか? それで、同じお弁当作ってくるので描いてください」
明野先輩は目を丸くした。
「! い、良いの……?」
「むしろ良いです」
「ありがとう!」
その言葉に私の胸はトクンと鼓動を鳴らした。
今までずっと私は明野先輩にお礼を言う側だった。でも、私も明野先輩の役に立てることがあるんだ……。嬉しい。私の中で何かが動いた気がした。
「今週の土日は空いてる?」
明野先輩は興奮冷めやらぬまま聞いてきた。
「どちらも空いてます」
「じゃあ、土曜日に……」
いろいろと予定を決めていると、ふとある考えが浮かんだ。
「明野先輩。どうせお弁当を作るなら明野先輩の分も作ってきましょうか?」
「え! 良いの!?」
「むしろ良いです」
本日二回目のやり取り。だって、なんだか……。
「じゃあ、お願い!」
「はい」
恋人みたいだから。
楽しい楽しいお昼休みが終わって私達は一旦お別れした。
週末のことを考えるとニヤニヤが止まらない。そしたら授業中注意された。
授業が終わって部活に行くと、明野先輩が私達のことをからかってきた先輩男子に興奮気味に話しかけていた。
「あのね! あのね! 週末、御波さんとお出かけするんだ! お弁当作ってもらってスケッチして……」
遊園地や遠足前の子供みたいで可愛いな、と思っていたら、先輩男子はキャンバスに向かいながら呆れた様子で喋った。
「これ、ツッコんだ方がいいか?」
「? 何を?」
明野先輩は首をかしげる。
「お前それデートじゃね?」
「デート……」
明野先輩はしばらく固まった後、顔を赤くした。
「えーと、えーと……」
「デート、楽しんでこいよ」
その言葉に私も顔が熱くなった。
週末まで気まずくなるかと思ったが、次の日には明野先輩はいつも通りの明野先輩に戻っていた。
明野先輩がどういう気持ちなのかわからない。でも、私は嬉しかった。デート……が楽しみだ。




