アタック乱れ撃ち
「友樹おはよう、好き」
「おっ......おはよー......」
空き教室で告白されてから毎日この調子だ。
登校中に好きだとか今日もかっこいいだとか色々言われるし、電車に乗っていると不意に愛おしそうに見つめられる。俺もためしに見つめ返してみると頬を赤くして視線を逸らすけど。見つめ返されたくらいで照れるならあんまり意味もなく見ない方がいいぞ。そして、今日も今日とて俺を愛おしそうに見つめている。
「あのさ、陽向」
「何?」
「大体なんで俺を好......」
「急停止します」
なんで俺を好きになったんだ、と聞こうとしたらいきなり電車がブレーキをかけて車内が大きく揺れた。こればっかりはどうしようもないけどアナウンスが遅い! まずい、吊り革に捕まってなかったから倒れる......!
「友樹っ!」
「......わっ!」
陽向が咄嗟に片手を俺の方に伸ばす。そのまま右手で抱き寄せられて、間一髪のところで助けられた。陽向の方を見ると、急停車する前から吊り革を掴んでいたみたいだ。そのおかげで俺の肩を抱き寄せての救助ができたんだな。
「陽向ごめん、ありがとう」
「ううん、僕こそ乱暴に掴んじゃってごめん」
さっきの動き、陽向的には掴んだという認識だったのか。じゃあ抱き寄せるときはもっと優しいのか!?
思わず親友の変な想像をしてしまい、悶々としているとすぐに電車が動き出した。
なんだかんだで、結局なんで好きになったのかは聞けずじまいになってしまった。
「ほら友樹、卵焼きあげる」
「えっ、他のやつにあげてるって知ったらお前の母さん悲しむぞ」
「今日は僕が作ったから大丈夫。いいからどうぞ」
昼休み中、突如強引に渡された卵焼きを見ると、高校1年生が作ったとは思えないほど綺麗に出来ている。それどころか、もはや料亭で出ても違和感を覚えなさそうなほどのクオリティだ。
「い、いただきます......!」
「どう?」
「う、うますぎる!」
陽向って料理人目指してたのか? それなら早く教えてくれたらよかったのに。そう興奮気味に伝えると首を横に振られた。
「ほら、友樹って一人暮らししたら全然自炊しなさそうだなーと思って。最近将来のために料理やり始めたんだよね」
「えっ......」
全然自炊しなさそう、という陽向の言葉にぎくりと肩が跳ねた。めちゃくちゃ当たってる。前世では実家を出たあとほとんどコンビニ飯か、ブロック型の某栄養食か、まかないしか食ってなかった。
というか勝手に陽向の人生設計に俺が組み込まれてるんだけど。それとアタックの仕方昭和の女子かよ、手料理振る舞うって。でも、このクオリティの高さならじゅうぶんアタックたり得るか。
「あとこの唐揚げも」
「あ、ありがと......」
唐揚げも超絶美味かった。冷めてこの美味さなら揚げたてはどれだけ美味いのだろうか。
というか他のメニューはどんな味なんだろう。気になってきた。もはや弁当まるまる食べたい。そんな欲望に負けて、俺はある提案をすることにした。
「なぁ、今度は俺も陽向に弁当作ってくるからさ......弁当交換しねぇ?」
「えっ!?!?!?!!」
陽向が椅子からガタンと立ち上がってクラス中の注目を集める。お前、ただでさえイケメンって理由で目立ってるんだからこれ以上目立つ行動するなよ!
「あっ! ご、ごめん......弁当交換......?」
「俺ばっかり貰うのも悪いだろ」
「うそ、嬉しい......! 友樹の手作り食べられるならいくらでも作るよ! 今から友樹用の三段弁当注文するね!」
感極まったのか、涙目で本当に三段弁当を注文しようとしてスマホを取り出した。
こいつ、パラメータでは知力90のはずなのになんでときどきバカになるんだ!?
「落ち着けって、俺そんな食えないから!」
「あ、ごめん......でもアタック大成功」
「は、アタック?」
「そう、胃袋を掴む大作戦」
いつの間にそんな作戦を決行して、無事に成功を収めていたのか。さすが主人公。
でも、こんなに頑張ったとしても俺は攻略対象外だから付き合えることはないのに。少し不憫に思いながら、陽向と交換する弁当に入れるおかずを考え始めた。せっかくだし、前世の飲食バイトで培った調理能力を見せつけてやるか。
その日の晩、不思議な夢を見た。
「うぅ、おかしい、おかしいです......」
恋の女神が一人で暗闇のなかに佇んでいた。また俺にいちゃもんをつけに来たのかと思って喋ろうとしても声が出ない。そこでいつものパターンではないことに気付いた。こちら側から女神に話しかけられないし、女神も俺の存在に気付いていない。
仕方がないので女神の様子を注視すると、今日の俺たちの通学風景を持っている水晶で見ていることに気がついた。こんなところまで見られるのかよ。
電車が急停止して俺が陽向に抱き寄せられた場面になったときに、女神は怒りを露わにしながら水晶を床に投げ捨てた。水晶は粉々になって、その破片が砂塵のように舞い上がって消えていく。
「あのいけ好かないやつを主人公が恋慕しているなんてありえない......!」
おい、いけ好かないやつって俺のことだよな?
水晶だったものが完全に消滅したあとに、女神は突然杖を天高く掲げた。
「こんなことで力を使いたくないのですが......とにかく主人公の気持ちをあの愚人から離れさせる!」
とうとう愚人呼ばわりかよ。呆れていると、女神が気になる一言を発した。
「宮井桜への干渉は出来ませんが......二条蓮華なら......」
二条蓮華、聞いたことがない名前だ。まさか本来の世界線の攻略対象か? それに干渉するという言葉。まさか神の力を使って何かをするつもりなのだろうか。
「ふふふ......松代友樹、あなたの好きにはさせない」
あなたの好きにはさせないってなんだよ!? 陽向が俺のことを好きになるように仕向けたわけじゃねーし!
若干ムカついていると、女神の杖がいきなり目が潰れそうなほど眩い光を放った。そのせいで、俺はいつの間にか意識を失ってしまった。
目が覚めてから、まず二条蓮華、と声に出してみた。もし二条蓮華が俺の推察通り本来の世界線の攻略対象、つまりヒロインだったとしたら......
宮井"桜"と二条"蓮"華。この恋愛ゲームの命名の法則がなんとなく分かってきた。それでいて主人公である陽向のフルネームは水城陽向。水と太陽。そういえば出会ったばかりの頃に植物が育ちそうな良い名前なんて思ったことがあったな。そして、土野高校という本来の俺たちが通うはずだった高校の名前をふと思い出した。
俺たちが生きている恋愛ゲームの世界は土野高校......つまり土、の上で咲く花......ヒロインと、植物の栄養となる水と太陽......主人公の水城陽向が関わっていくというテーマなのかもしれない。
なんとなく葉月の学生生活紹介
三人で登校していないのは葉月が朝練がある厳しい部活に入部したからです。それとお昼はクラスの友達と食べています(二人の邪魔をしないように、という配慮でもあります)




