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俺は攻略対象外です!

「友樹って言ったら、どうする?」


心臓の位置が自分でも分かってしまうくらいにバクバクと激しく鳴っている。昼休みで教室は騒がしいはずなのに、誰の声も聞こえない。


「......俺、って言ったら......?」

「びっくりさせてごめんね。空き教室行く?」


図書室での一件以来、何か話しづらいことがあったら空き教室に行って話すという2人の暗黙の了解ができた。けれどまだ高校には入学したてだから空き教室の場所なんて......


「案内するから、着いてきて」


階段を降りて、降りて、渡り廊下を歩いていく。

大して遠くないはずなのに空き教室までの道のりをものすごく遠く感じる。早く着いてくれ、やっぱり着かないでくれ。なんてめちゃくちゃで矛盾した思いを抱きながら陽向に着いていく。


「ここだよ、ちょっと汚いけど......」

「おぉ......」


確かに全体的に古い感じだ。掃除は一応されているみたいだが、授業で使用された形跡はほとんどない。

適当な椅子を引いて、向かい合って座る。


「実は僕だけで空き教室探してたんだ」

「へ、へぇ……」


全然話が入ってこねぇ……

まだ春なのに身体中の汗が止まらなくなって目が泳ぎに泳ぐ。きっと今の俺は完全に挙動不審だ。


「松代友樹さん」

「は、はい」


フルネームで呼ばれるなんて初めてで、思わず姿勢を正してしまった。これから言われることは流石の俺でも分かる。


「やっぱり松代友樹さん、なんて堅苦しいしやめるね。友樹、好きです」

「......!」


陽向があんなに苦しんで、恋心を向けていたのは俺だったのか。気付けなくて申し訳なかった。でも、俺は中身は36歳の親友キャラで、陽向はこの恋愛ゲームの世界の主人公だから結ばれることは絶対にない。それに今まで陽向を恋愛対象として見たことがないから正直付き合えるかどうか......


「返事はまだ言わないで?」

「えっ、どうして......」

「だって振るでしょ。今の友樹は」


心の中を完全に見抜かれていた。でも、別に陽向が嫌いだから振るわけじゃないんだ。それをどうやって説明したら良いんだ。実は俺、転生してて実年齢は36歳なんだよね〜、それに俺は親友キャラだから付き合えないぜ? なんて説明できるわけない。そんなことを言ったら狂ってしまった人だと陽向に見做されてしまいそうだ。親友に狂ったと思われるのは流石に堪える。

俺が何も言えないうちにもどんどん話は進んでいく。


「これから全力で友樹にアプローチするね。だから......それで僕を恋愛的な意味で好きだと思えそうか、それとも思えなさそうか分かったら返事を教えてほしい。お願い、友樹」

「わ、分かった。そこまで言うなら......あのさ、こんなこと言うのも身勝手すぎるけど、どんな結果になっても俺と仲良くしてくれるか? 嫌ならいいけど」

「! 当たり前だよ。むしろ嬉しい。どんな形でも僕はずっと友樹と一緒にいたいから......」


ずっと俺と一緒にいたい、か。今とんでもなく破壊力の高いことを言われた気がする。

そういえばつい最近、陽向に恋をされた相手は大変だ。もし陽向に全力でアタックされたらほとんどのヒロインがすぐに陥落するのではないか? なんて考えたことがあったけど。

その相手、まさかの俺だった。

俺、一体どうなっちゃうんだろう。やっぱりすぐに陥落するのかな。それとも親友キャラだからゲームのシステム的に好きになることはないのだろうか。


「あ、そろそろお昼食べないと休み時間終わっちゃう。友樹、時間くれてありがと。教室戻ろう」

「おう......」


告白の時間をくれたことに対する感謝。この時点で結構ポイント高いぞ。でもやっぱりドキッとはしない。どうしても親友兼パラメータ上げをサポートしてきたやつって感じだからなぁ。

それにもし俺と付き合ったあとにもっと良い攻略対象が現れたとしたら......陽向は後悔するはずだ。

アプローチをされたとしても、俺がそれを受け流せばいい。陽向には俺という目先の幸せよりも長く続く幸せを手に入れて欲しい。

それに3年間という長い時間をかけて全力でパラメータを上げてきた陽向と俺が付き合うことになったら、俺はまるで幼い紫の上を見つけて自分好みの女性に育て上げた光源氏だ。それは流石に......キモいな。





「あなたはいつもいつも......!」


その日の晩のことだった。自分に都合の悪いことがあったらすぐに俺の夢に侵入する女神サマの登場だ。


「なぜ主人公があなたなんかに告白しているんですか!? あなたは攻略対象外のはずです!!!」

「俺だって知りてーわ! 俺のどこが良かったんだよマジで!!!」


いつも俺に八つ当たりしに来るから今度は俺だって女神に八つ当たりしてやる。そう思って、2人してギャーギャーと叫んでいるうちに先に音を上げたのは女神の方だった。いや、正確にいうと音を上げられなくなったんだけど。まぁそんなことはどうでもいい。

きっと女神サマはいつも俺たちの様子を観察してるだけだから体力がないんだ。


「ハァ、ハァ......うぅ、ありえない、こんなルート作っていないのに......!」

「ならなんとかしろよ! お前恋の女神だろ!?」

「なんとか出来ないからこうしてあなたのところまでわざわざ訪ねているんです......!」


恋の女神の力は想像以上に弱そうだ。できることはおそらく死んだ人間をこの世界に転生させることと、転生させた相手の夢に現れて話すことくらい。


「というかあなたはもっとわたくしに感謝した方がいいですよ!? あなたにとって捨てる神あれば拾う神ありの拾う神の方なんですよわたくしは!」

「あれぇ、今そんな話してないですよ〜。論点すり替えですか〜?」

「もういいです! もうあなたの顔も見たくありません!」


そう叫んで、女神は持っていた長い杖を思い切り振りかぶった。また前みたいに俺を杖で殴りつけて強制的に夢を終了させるつもりだ。

もう前のようには殴らせないぞ! と思って上から振り下ろされる杖を真剣白刃取りの要領でガッチリと掴むと女神は悲鳴をあげた。


「きゃあっ!?」

「何度も同じ手はくらわねーぞ女神サマがよぉ!」

「ぐっ......杖から手を離しなさい!」

「離してもらいたいなら殴らずに夢を終わらせることだな!」

「......チッ!」


おい、恋の女神とは思えない舌打ちが出たぞ。

その直後に意識が遠のいていく。それでうっかり杖から手を離してしまったが女神に逆襲しようとする様子はない。一応約束は守るタイプなんだな。


「とにかく......主人公に土野高校の周辺をうろつかせて宮井桜と出会わせるように!!」


最悪付き合わなくてもいいんだ。恋の女神、宮井桜推しすぎるだろ。

ここまで来ると宮井桜がどんなヒロインなのか気になってきたぞ。勝手に予想図でも作ろうかな。

そう思っていると目が覚めた。時計を見ると5時43分と表示されている。女神のやつめ、変な時間に起こしやがって......


「あなたは攻略対象外のはずです!!!」


夢の中での女神の言葉を思い出す。俺......松代友樹というキャラクターは女神お墨付きの攻略対象外で間違いなさそうだ。隠しルートもない親友キャラ。


「俺は攻略対象外なんだよ、陽向」


だからお前の初恋は叶わない。そんなことをぼそっと呟いてから、二度寝するために布団を深く被った。

なんとなく恋心解説

陽向は中1の段階で友樹のことが好きでしたが、恋愛ゲームのシステムの都合上自分の恋心を感知できていませんでした。それなのに高校に上がった途端、3年間ずっと募らせてきた恋心が一挙に雪崩れ込んできてパニックになってしまい、1週間ポケーッとしてしまいました。ポケー期間以降(気力150上昇後)はずっと友樹に自分の想いを打ち明ける機会を窺っていました。空き教室の掃除をしたのも陽向です。

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