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フラグ破壊の桜颪

あっという間に時間が経って、俺たちは中学3年生になった。

陽向は中2の夏あたりから成長期が始まり、ぐんぐんと背が伸び始めて170cmの大台に最近乗った。そこからだったな、モテ始めたのは。

元々美容に注力して容姿を磨いていたことにプラスして背も高くなってきたら、それはもうモテる。というか1年の夏休み期間で似合う髪型を俺と新塚葉月の2人で編み出して、2学期にそれを披露した時点で若干クラスがざわついてたけど。まさかあの分厚い前髪の中にあんなに綺麗な平行の二重と、キリッとしたかっこいい目を隠し持っていただなんて誰も気付いていなかっただろう。

それは良いことなのだが、1つだけ困ったことがある。それは、モテまくったせいで攻略対象が増えすぎて誰が誰だか分からなくなってきたことだ。あれ、恋愛ゲームって20人以上も攻略対象がいるもんだっけ? と恋の女神に聞いてみたいが、あれ以降呆れたのか諦めたのか女神は俺の夢の中に出てこなくなった。でも、そろそろ聞ける日が来るはずだ。高校に上がれば恋の女神お気に入りのヒロイン、宮井桜が現れるはずだから。そこで思い通りにいかなければもう一度カンカンに怒って俺の夢に出てくるはず。きっとあなたは最低最悪の転生者です! と喚きながら。

そんなことより、今は陽向のパラメータの上昇具合が楽しみだ。

最近はナイトルーティーンに陽向のパラメータを確認するという作業が組み込まれた。今日も今日とて寝る前にベッドに入って確認する。


知力:90 体力:75 気力:100 外見:95 センス:70


「へへ......へへへ......」


ちょっと自分でもキモいと思うくらいの笑い声が思わず出てしまった。転生チートに加えて元教員志望で塾バイトをしていた俺から勉強を教わって知力は爆上がりしたし、体力も俺が入部している男子バドミントン部に陽向も途中で入部したから爆上がり。気力はなんか知らんけど爆上がりした。外見は言わずもがな爆上がり。センスは最近になるまでよく分からなかったが、服や使っているアイテムのセンスの良さであることが判明した。これもかなり良い感じ。

あれ? もしかして俺、とんでもない主人公を作り出してしまったのでは......?

このハイスペック男に釣り合うハイスペックヒロインなんて現れるのか? なんて疑問に思うことが何度もあったが、そんな疑問も今日で解消される。なぜなら今日で中学校を卒業するからだ!


「ついに卒業かぁ……早いもんだな。陽向、寂しい?」

「うーん、別に。高校入っても友樹と葉月ちゃんいるから……」


そう、俺たちは栄宮高等学校という高校に揃って入学することになった。そこに宮井桜ってヒロインも入学するんだろうな。どんなやつか知らないけど恋の女神のお気に入りだし、名前の雰囲気的にもメインヒロイン格なんだろう。ゲームのパッケージの真ん中を陣取ってるやつ。


「そうだ、打ち上げ行く? 葉月は行くみたいだけど」

「僕はいいや、また女子に絡まれたら嫌だし……」

「あー、さっき学ランのボタンくださいって言われて制服リサイクルに出すからって断ってたよな」

「うん、あんまり話したことない人だから怖かったよ。それよりも友樹と遊びに行きたいな」


春休みが終わると、ついにゲームの本編に入る。

しっかり陽向をサポートできるか不安だけど、出来ることはやってきた。特にパラメータ関連は。

四捨五入すると精神年齢はアラフォーだから恋愛関連のアドバイスだってちょっとは出来るはず。覚悟を決めて陽向の方を見ると、なぜか陽向も真剣な顔つきで俺のことを見ていた。


「新しい環境に変わるときっていつも不安だったんだよね、幼稚園に入園するときも嫌だ嫌だって泣きついてお母さんを困らせたんだって」

「それは......筋金入りだな」

「中学に入学するときも怖かった。それなのにいきなり1分間前後ペアになって話せって言われてさ、覚えてる?」


もちろん覚えている。陽向がメーメェくんのキーホルダーを筆箱につけていることに気付いて、それで仲良くなったんだよな。


「メーメェくんのこと知ってる人なんて同年代に1人もいなかったからすごく嬉しかった。だからその、なんというか......俺の名字、水城で良かったってはじめて思えたんだよね」


松代と水城。名前順にすると必ず前後で並ぶ名字。

たしかに、俺も松代って名字じゃなかったら陽向と友達になれてなかったかも。


「中学から高校に上がるけど......今回は全然不安じゃないや。葉月ちゃんがいるからっていうのもあるけど、一番は友樹がいてくれるから......なんて、ちょっと恥ずかしいこと言っちゃった」

「いや......全然恥ずかしいことじゃないって。むしろ嬉しい」


まじで泣きそう、そんな風に思ってくれてたのか。そして言葉の破壊力がすごい。なんというか、恋愛ゲームの主人公らしい。友達相手にこれだろ。恋した相手には一体どうなるんだ!?


「高校のクラスが違ってもいっしょにお昼食べてくれる?」

「もちろん! 高校からは寄り道できるしどっか寄って帰ろうぜ! 栄宮の最寄りって確かファミレスもあったよな!」

「ふふ、いいね......高校入るの楽しみだなぁ」









「あなたは最低最悪の転生者です!!!!!!」

「女神さんどうもっす〜」


あー、やっぱり予想通り。というか予想の五倍くらいキレ散らかしている。なんで入学式前日のこのタイミングでまた俺の夢の中に現れたんだ? まだ高校に入学してすらないだろ。


「余計なことをしてくれましたね……!」

「えー、宮井桜の件?」

「当たり前です!」


あれ、俺またなんかしちゃいました? ってやつか。え、俺まじで何しちゃったの?

まだ宮井桜に会ってすらないのに。もしかしてどこかですれ違ったりしたのかな。そのときに建てなきゃいけないフラグがあったりして。


「俺なんもしてないけど」

「……が違う……」

「え、何? 聞こえないんですけど」

「入学する高校がッ、違うと言っているんです!!!」

「……はぁ?」


本当に何を言っているのか分からない。

俺たちが入る高校がゲームの舞台だろ? 入学する高校が違うってどういうことだ。


「あなたたちは土野高校に入学するはずだったんです。シナリオ通りなら」

「土野高校って......あの近所にあるとこ?」


土野高校は俺らが通っていた土野東中から歩いて10分くらいのところにある、やや高めくらいの偏差値を持つ高校だ。場所的にめちゃくちゃ通いやすいから土野東に通っているやつなら一度は検討する。もちろん俺たちも土野高校を検討したが、偏差値が合わない......つまり安全圏すぎたから俺らがこれから通う予定の高校、栄宮高等学校を第一志望にしたのだ。


「あなたは主人公の知力を中学の時点で上げすぎたんですよ! 本編が始まる段階では主人公の知力は50程度のはずだったのに......!」

「あー、もしかして土高に宮井桜が入学するんだ」

「そうです。宮井桜はすでに土野高校に入学を決めている……これでは主人公との接点がなくなってしまう!」


それを言うためだけにわざわざ俺の夢に侵入してきたのかよ。そんなこと言われても今更どうしようもないし頭良いのは良いことだろ。


「それならもう仕方ないじゃん。言いたいことはそれだけ?」

「うぐぐ......とにかくこれ以上変なことはしないように! 良いですね!?」

「はいはい」


適当な返事に怒った女神が持っていた長い杖で俺を張り倒して、次第に意識が遠ざかっていく。

そうか、メインヒロイン格とのフラグをわざとではないがへし折ってしまったのか。でも、俺的には宮井桜とかいうヒロインじゃなくても、他のヒロインと結ばれたらそれでも良いだろと思う。とにかく陽向が幸せになってくれたらそれだけでいいんだ。

なんとなくキャラ紹介

新塚葉月(にいづかはづき)

本来は本編に登場すらしないモブキャラだったが、陽向と友樹が本編よりも仲良くなりすぎたことによって発生した図書室イベントの影響で攻略対象に昇格した。一応攻略対象だが、陽向に恋愛感情は抱いていない。むしろ、高校入学以降陽向の恋を応援する立場になる。

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