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プロローグ

「はじめまして、水城です」

「俺は松代友樹です。ねぇ、何部に入る予定?」


そうか、恋の女神が俺をこの世界に転生させた意図がようやく分かったぞ。前世と今世合わせて約30年の知恵を使って今はボサボサ気味の少年、水城くんをイケイケにプロデュースしてヒロインとの恋愛に備えさせろってことか。それなら早く親友としてのポジションを築かなければいけない。

何をしたら仲良くなれるかを一瞬で考えて出た結論。それは同じ部活に入ることだ!


「今のところ帰宅部の予定」

「そっ......かぁ......」


まさかの帰宅部。実は俺も帰宅部の予定なんだ、これから一緒に頑張ろうぜ、イェーイ! なんてできないじゃん。出鼻を挫かれてしまった。作戦変更、何か仲良くなれるようなきっかけを作らなければ。とにかくなんでも良いから探せ! 解決の糸口を見つけろ!

......あれ? よく見ると筆箱に羊のキャラクターのキーホルダーが付いている。これって前世の俺が小学生だったときに流行ってたキャラだ。水城くん、渋いな。


「......あ、筆箱にメーメェくんついてるじゃん! 好きなの?」

「......! 知ってるの? メーメェくん」


水城くんはさっきまでの無表情が嘘のようにぱぁっと目を輝かせた。パーフェクトコミュニケーション!

笑った顔はかなり親しみやすい、というか可愛い。きっとこの笑顔でこれから現れるヒロインたちを攻略していくんだろうな。


「知ってるよ! メーメェくんの好物は〜♪」

「すき焼きうーどーん♪」「すき焼きうどん......!」


なんて一緒にメーメェくんの歌も歌ってみたり。

前世がメーメェくん全盛期の時代でよかった。これで第一印象は完璧なはず。


「はい、一分経ったので前向いてください」

「あ......じゃあまたあとで話そうね」


なんか名残惜しそうだった! 親友になれるかどうかは分からないけど、ひとまず友達にはなれそうだ。

水城くんとはまだちょっとしか話していないはずなのに、俺が親友ポジションとして生まれてきたからか既に親近感を覚えている。というか水城くんを絶対に幸せにしなければならない、という使命感まで芽生え始めている。主人公の魔力、恐ろしや。

水城くん、それとこれからの展望について考えている内にあっという間にオリエンテーションが終わり、下校することになった。本当は水城くんと一緒に帰りたかったが、今日は保護者会後の親と一緒に帰るのでそれは流石に無理だった。


「あの、また明日」

「うん! 雑巾2枚忘れんなよー!」


気が抜けてうっかり前世みたいな砕けた口調で話してしまったが、水城くんは特に気にしてなさそうだ。

親と合流して、家に帰るとすぐに自室に引きこもってスマホでメーメェくんについて調べた。


「メーメェくんが、ゲームに出てくるマスコット......?」


おかしい、確かメーメェくんは朝の情報番組のマスコットキャラだったはずだ。それにここっていわゆる異世界だよな? どうしてメーメェくんがこの世界にも存在しているんだ?


「考えれば考えるほど分からねー......」


とにかく二つの世界に共通して存在するってことはメーメェくんが何かしらの重要な鍵を握っているに違いない。でも今は調べようがないから諦めて恋愛ゲームについて調べることにした。

恋愛ゲームなんて大学の友達の家でちょっとやらせてもらった経験があるくらいでほとんど知識がない。これから水城くんをサポートしていく上で恋愛ゲームの知識は必須なはず。


「絶対に水城くんの恋を成就させてみせる!」


それと女性の気持ちについても学んでおかなくちゃ。






絶対に水城くんの恋を成就させてみせると誓ってからはや3ヶ月、あれからヒロインと思われる女性は一人も現れていない。まぁ気長に待たなきゃ、そう思いながら放課後に図書委員のあいだで当番制で行っている図書室の掃除をしていると、陽向くんが図書室に入ってきた。あ、陽向くんっていうのは水城くんのこと。水城陽向、水と陽が入ってるって、なんか植物が育ちそうな良い名前。


「あっ......友樹くん」

「あれ、陽向くんじゃん! どうしたの?」


入学式後のオリエンテーションのときに出会ってから、俺と陽向くんはどんどん仲良くなってお互いを下の名前で呼び合うようになっていた。きっと親友になる日も近いはずだ。


「掃除もうすぐ終わる?」

「うん、あとは掃除用具しまうだけだよ」

「そっか、じゃあここで待とうかな......」

「水城さん図書委員じゃないよね?」


図書室で俺を待とうとした陽向くんに強めの語気で話しかけたのは、俺と同じ小学校出身で、図書委員のクラスの女子。なんとなくだけど、この人は陽向くんの攻略対象じゃない気がする。


「今は図書委員が掃除の時間だから出ていってくれる?」

「あっ、ごめんなさい......」

「ちょっと、陽向くん......!」


俺の静止を聞かずに陽向くんはそそくさと図書室から出ていってしまった。

そんな冷たい言い方をしなくてもいいじゃないか。それに図書委員が掃除してる間は委員じゃない人は立ち入り禁止なんてルールはないはず。


「よかった、これで追い払えた」

「よかったって......陽向くんは何も悪いことしてないじゃん」

「してるよ、悪いこと。ほら、最近水城さんに付き纏われてるでしょ?」


何言ってるんだ? どう見たってただ仲良くしてるだけだろ。


「付き纏われたりなんかしてないよ! 」

「えー、そうかな? 移動教室のときすぐ友樹のとこ行くじゃん。体育のときもペア組んでって言われたらすぐ友樹と組もうとするしさ」

「それは友達だからだよ」

「でもさー、側から見たら本当に付き纏われてるようにしか見えないよ。友樹くん優しいから遠慮しちゃってるんじゃない? 言い辛いなら私が先生に言うから」


もうだめだ、話が通じない。恋愛ゲームのモブキャラにしては性格がキツすぎないか!? もしかして実は攻略対象だったりする? 第一印象最悪から恋に落ちる的な......


「水城くんモサくて陰キャ全開だしさ。このままだと友樹も陰キャの仲間だと思われちゃうよ? 」


やっぱり攻略対象外だ!!!

3ヶ月間一緒に過ごしてきた大事な俺の世界の主人公、そして友達をこんな風に言われたら許せない。


「別に陰キャ仲間と思われてもいいよ、陽向くんは俺の友達だから」

「でも......いや、私が勘違いしてただけならいいけど......本当に陰キャだと思われてもいいの?」


この時期の子供はやけにスクールカーストというものにこだわる。スクールカーストはいじめにも繋がるから無くなってほしい文化なんだけどなあ。


「うん、友達に陰キャ陽キャなんて関係ないから」

「......」

「じゃあ陽向くん追いかけるから、また明日ね!」

「......うん、また明日」


ゲームの世界でも嫌な人はいるもんだな。怒りに任せて若干乱暴に図書室の扉を開けると、目の前に涙で顔がぐしょぐしょの陽向くんがいた。


「ひなっ......」


叫びかけてから、まだ図書室の中にあの女子がいるからまずいと思い直して陽向くんの顔を俺のカバンで隠しながら急いで同じ階の空き教室に駆け込む。


「うぐ、ぐすっ......」

「さっきの話、聞こえてた......? 嫌だよな、あんな風に言われたら」

「違っ......それもあるけど、嬉しかった......僕を庇ってくれたのが......っ!」

「陽向くん......」


背中をさすると陽向くんはとうとう自分の顔を鞄で覆って泣き始めてしまった。その様子を見ていて、心が肉体年齢に引っ張られて若干涙もろくなっているので自分も泣きそうになってきた。


「でも、悔しかった......! 僕のせい、僕のせいで友樹くん、が......悪く言われたのがっ......」

「そんなの気にすんなよ!」

「無理ぃ......! だってせっかくできた友達なのにっ!」


陽向くんは顔を上げて、心の底から悔しそうな顔で言った。


「僕っ......友樹くんと一緒にいてもおかしくないくらいっ......かっこよくなるからぁっ......!」

「え......?」

「教えてっ......! 陰キャじゃなくなる方法!」


単純に見た目を変えたいということか? それとも性格から変えたいということなのか?分からない、分からないけど友達が、いや、親友がそう言うなら叶えてあげたい。


「俺に任せておいて! 一緒にかっこよくなろうぜ!」

「うんっ......! 」


とは言ったもののどうすればいいのか分からないので今日はそのまま帰宅することにした。


「あんなこと言っちゃったけど、俺もよく分かってないからなぁ......」


自分の顔を鏡で見る。前世とは違うオレンジがかった髪色、つり眉タレ目の顔つき。前世の俺に比べると顔は良くなったと思う。入学式の日の夜に親友キャラと検索したら、イケメン、ただし3枚目なパターンが多いと書いてあったから多分俺もその法則に則っているのだろう。3枚目かどうかはちょっと分からないが。まぁこれから合わせていけばいいか。


「そもそも陽向くんの目ってどんな感じだろう」


そう、陽向くんの目はどんな風にも雨にも負けない鉄壁の前髪によって隠されている。ぱっちりしているのか細めなのかによって似合う髪型も変わってくるはずだ。というか恋愛ゲームの主人公ってどんな前髪だったらいいんだろう。検索してみると普通のパターンと陽向くんと同じ目が前髪によって隠されているパターンの2パターンあった。でも本人がかっこよくなることを希望しているのなら普通のパターン一択だ。メモしておこう。


「あとは......肌かなぁ」


肌質が分からないから合うケア用品が分からない。明日学校で聞き取り調査しておかなければ。これもメモ。学校にスマホは持っていけないからとにかくメモ、メモ、メモ、メモ!


「絶対に陽向をかっこよくしてみせる......!」





「おはよ、陽向くん!」

「おはよう......!? 友樹くん、クマすごいよ!?」

「美の研究してた......」

「美の研究って......! 睡眠が美容にいいんじゃないの!?」

「そうだけどさ、陽向くんの力になりたかったんだよ〜......」

「友樹くん......! ありがとう、実はちょっとだけ僕も調べてみたんだけどね......」


こうして今日は美容の話題で持ちきりになり、美の意識が高まって解散した。そしてその日の夜にとある事件が起こった。


「そろそろ寝るか......」


俺が布団に入った瞬間のことだった。


[水城の外見パラメータが5上がった]


「ッ!?!?! 外見ッ!?!?!」

「ちょっと友樹、寝たんじゃなかったの!?」

「ごめん、なんでもない!」


意味のわからない文章がいきなり脳内に浮かんで飛び起きた。そして思わず叫んで母に怒られてしまった。

外見パラメータが5上がったとは?

混乱していると、再び水城の外見パラメータが5上がったという文章が脳内に浮かんだ。


「もしかして......」


水城陽向のパラメータを表示しろ、と念じると本当に出てきた。誰にも教わっていないのにハイハイをする赤ちゃんみたいだな。この行動は俺の本能に刻まれていたんだ。そうだ、せっかくだしパラメータを確認してみるか。どれどれ......


知力:20 体力:10 気力:30 外見:20 センス:5


よく分からないが、めちゃくちゃ低いのは分かる。一番いいのが気力:30って......

まぁ、恋愛には精神力が重要なはずだし、伸びしろがあるってことだからいいことだよな。というかセンスってなんだよ。何に使うんだよ。


「うーん、明日起きてから考えるか」


子供のうちに寝ておかなければ背が伸びない。とりあえず難しいことは明日考えよう。





「友樹くんおはよう。ねぇ、髪の毛どう?」

「おはよー、俺よりサラサラじゃん!」

「ふふ、リンス使ってみたけどいいね」


今までリンス使ってなかったのかよ!!!

逆にリンスを使うだけで目に見えて髪の状態がこんなに良くなるものなんだな。感心していると、この前陽向くんを陰キャ呼ばわりした女子が俺たちの前に立ちはだかった。また何か言うつもりか?


「二人とも、おはよう。それと......この前はごめんなさい」


そう言って俺たちに向かって頭を下げた。何が起きているのかわからなくて、思わず硬直してしまった。陽向くんも困惑している。


「あのあと自分で色々考えてみてね、この前の私はほんとに最低だったってことに気付いたの」

「ああ......」


この年でここまで反省して行動できるなんて、将来は大物になるかもしれない。あれ、急に昨日の夜に似た感覚が......


「昨日美容のこと話してたよね? もし悩んでるのなら力になりたい。私、結構美容好きだから」


[新ヒロイン解禁 新塚葉月]


「い、いいの......? ありがとう」

「お、おぉ......ありがと......」


ようやくヒロインが現れた喜びと、嘘でしょ、あなたヒロインだったの? という衝撃でその日のことはほとんど覚えていない。

それでも早く寝て身長を伸ばすために陽向くんの外見パラメータが上がるのを感じながら、ベッドまでふらふらと歩いていって眠りについた。





「あなたは......あなたは何をしているのですか!?」

「ぇ......? えっ、恋の女神!?」


これは夢の中だ。俺の夢の中に恋の女神が侵入している。一体なんの用なんだとビビりつつ恋の女神と向かい合う。こうやって対面してみると思ったより背が高くて怖ぇ!


「別に何もしてないですよ! むしろ、今日ついにヒロインが現れたんですよ!」

「だから何をしているのですかと聞いたんです! ありえない、中学の段階で攻略対象が現れるなどおかしい......!」


勇気を振り絞って反論すると、恋の女神が大声で嘆きながら頭を抱えてせっかくの綺麗な金髪を指でぐしゃぐしゃに乱す。


「あのキャラクター......新塚葉月という名前が与えられましたが、あれはただのモブキャラクターです」

「えっ、モブじゃないでしょう」

「モブったらモブなんですよ! だからこうしてわたくしがあなたの夢に現れているんです!」


なんでここまでカンカンに怒っているんだ。初対面時の荘厳な雰囲気が今は見る影もない。


「やってくれましたね......あなたは主人公と仲良くなりすぎた。だから図書室での一件が起きて、ただのモブが攻略対象に格上げされた」

「そんなの知らないですよ! 今更どうしろと?」

「怒りに来ただけです! とにかくこれ以上恋愛ゲームの世界を引っ掻き回さないでください! あなたは宮井桜という攻略対象が現れたらその人と主人公がくっつくように尽力するだけでいいのですよ! この能無し!!!」


恋の女神が捨て台詞を吐いて、次第に意識が遠のいていく。嫌ならこの世界に干渉して新塚を再びモブに降格すればいいだろ。あ、もしかして干渉できないからこうやって俺に八つ当たりしに来たんだ。

それでいて、きっと宮井桜というこれから現れるヒロインと主人公が結ばれることが理想なんだろうな。それが新塚葉月というヒロインが早い段階で現れたことによってその可能性から一歩遠ざかったから俺にあそこまでキレていた。うん、完璧な推理だ。


「あんたの好きにはさせねーよ、バーカ!」


どうせ聞こえていたところでこっちの世界には干渉出来ないだろうから俺も捨て台詞を吐く。

とにかく恋の女神の好きにはさせない。最終的に、陽向が望む相手と結ばれることが最優先だ。


「陽向は絶対俺が幸せに導く!」


あれ、そういえば呼び捨てしたのはじめてかも。

なんとなくキャラ紹介

水城陽向(みずきひなた)

黒髪メカクレメガネの典型的なギャルゲーの主人公

本来なら自分の意思でパラメータを少しずつ上げていくはずだったが、友樹の積極的な介入によって破竹の勢いで全てのパラメータを上昇させていく(予定)

この見た目と気弱さのせいで小学校時代は友達ができなかった。

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