68.生きてから死ね
話の順番を調整したのでご注意ください。
冬木がモクラスと契約した理由、それは「運が無かった」からだ。
中学二年の冬。いつもの帰り道を歩いていると突然、誰かの悲鳴が聞こえてきた。
「誰かが事故にあったのかもしれない」と冬木は自前の正義感で声のする方へ向かうと、そこに居たのは二人の男……腹を赤くした男とナイフを持った男。
ようやく冬木は察した、「自分の聞いた声は殺された人の声だ」と。
恨みか、はたまた激情か。この男が何故人殺しなんかしたのかは分からない。だが男がこちらを見ているのは分かる。大きく開いた"人殺しの目"は冬木を恐怖で縛るには充分だった。
"グサッグサッグサッ"
もしも人を殺した直後に人と出会ってしまったらどうなるのだろうか、少なくともこの男は正気を保つ事は出来なかった。男はナイフを振り下ろした。何回も、何回も、何回も。冬木が死ぬまで何回も振り下ろす。
(いや……しにたく……だれか……たすけ…………て)
誰も冬木の声は届かない…………しかし
『死にたくないのか?』
悪魔には聞こえていた。
その後、モクラスと契約した冬木は魔体を使い逆に男を殺した。初めての殺人に吐き気を覚えるがそれだけでは終わらない。契約の代償、【肉を消費する】魔眼は人肉を食す必要があったのだ。「人なんて食べる訳が無い」と冬木は襲い来る飢餓感を拒絶するが、悪魔の契約は絶対。震える手で今殺した男の腸を掴み口に運び、生臭くゴムのような肉を何度も噛み胃に流し込む。
それが初めての食事であった。
~~~
「決めた。貴方だけは絶対に殺さない」
「…………あ?」
散々殺し合っていたのに急に何を言っているんだ、冬木は須藤の言葉が全く理解出来なかった。
「何言ってンだ、お前。冗談ニしてモ笑えな」
「さっきから"殺して殺して"って、痛ったいメンヘラ女ね~悲劇のヒロイン"ぶってる"のがスゲェむかつく」
「ッ!!」
脊髄達を纏め殴りかかる冬木。しかし須藤は迫り来る異形の右腕を避けようとする所か、全身で受け止めた。零博士が開発した強化人肉を纏う今の須藤はキメラフォームの数十倍の力を出す事が出来る……当然"デメリット"も存在するが。
「ぐッ!!」
「アはハハは!! 調子に乗ッテた割には随分ト苦しソうジャないでスかァ!!」
「生憎様、直接戦うのは慣れてないのよ……!!」
魔人フォームの使う前提として須藤本人が戦う必要がある。いつもキメラフォームで戦っている須藤にとって"痛み"とは不慣れなものであったのだ。
しかしそんな事情を冬木が知るはずも無く、脊髄の棘が次々に腕や腹に突き刺さる。だが、それでも須藤は冬木の腕を離さなかった。
「……いい加減にしロ。お前ハいっタい、何がしたイんだ!!」
「"何"、ね……別に何もないわ。貴方が気に入らないから邪魔してるだけ」
「お前ニ……オ前にッ何がワかるンだァァアア!!!!」
「ごふッ!!」
「勝手ニ人を食べル恐怖を、ソれがお父サんトお母さンだッた時の絶望ヲ、死にタくてモ死ネなイ地獄を……オ前は分カるッて言うノ?」
「あがあああああ!!!!!!」
激情と共に脊髄が増幅し、須藤を壁に叩きつけ全身を貫く。しかし【肉体の維持】の肉体的制約により体は再生し、また貫かれ、再生し……冬木は意図せず無限の苦しみを須藤に与えていた。
実際、須藤は冬木の気持ちが分からない。人を食べる冬木を人を食べない自分が理解出来るはずが無いからだ…………だが、そんなどうしようもない絶望を味わった奴ならもう一人、ここに居た。
「知ィるかァアアアア!!!!」
「ぐふッ!?」
須藤は全身を貫かれながらも獅子の腕で冬木の首をきつく締め上げる。
「何しテ……ッ」
「私達は魔眼使い、それも異形型……もう人間には戻れない!!」
「だかラ、私ハ死ニた」
「それでも生きろ!! 悪魔でも化け物でも何でも良い、せめて"自分らしく"生きろ!! 私に殺されたいのなら生きてから死ね!!!!」
「ッ……ァアアアアア!!」
脊髄を強引に使い獅子の腕を切り落とす。須藤の腕はすぐさま再生するも、互いに体力が限界のはずなのに倒れる素振りも見せない。
「ゲホッゲホッ……」
「はぁ……はぁ……」
「……私には、お前の言ってる事がこれっぽちも分からない……ねえ、どうしてお前はそんな辛い事を言うの? 死にたい奴が死ぬ事の何がいけないの?」
「さっきから言ってるじゃない、"気に入らないから"って。自分を押し殺して死ぬなんて……馬鹿のする事よ」
「まさか……お前も」
「とにかく、私はお前を殺さない。生きようともしてみない絶望野郎なんか、私は絶対に殺してやんない」
「…………」
"生きてから死ね"、そんな矛盾した言葉が何故か心に突き刺さる。
(あぁ……そうかぁ。私、寂しかったんだ)
誰も理解してくれない自分の感情、常識、存在。たった一人取り残されたかのような疎外感が自分を苦しめていた事に、冬木はようやく気が付いたのだ。
「…………ハハ♡」
「それで、まだやる気?」
須藤がそう問いかけると冬木は満面の笑みを浮かべる。
それは何処までも純粋で残酷な____悪魔。
「もちろん!! 貴方が殺さないのなら殺されるまで生きてやりますよ♡」
冬木は元々「優しい少女」でした。ただ運がもの凄く悪いだけの「普通の少女」です。
あと前話の魔人フォームの解説を少し修正しました。
感想評価ブクマよろしくお願いします。
Twitter→@iu_331




