66.獣の覚醒
「だからお願いします。どうか、投降して」
「……良いわよ、投降しても」
「ッ!!」
杉江の出した答えは"YES"……正確には"どちらでもない"。逆らう理由も気力も無い今の杉江にとって柚子の質問など、もはやどうでも良かったのだ。
そんな無気力な姿に柚子の表情が一瞬だけ歪むがすぐに切り替え、杉江に向かって右手を伸ばす。
「大丈夫。俺が必ず何とかするから、だから手を……!!」
「…………ありがとう」
差し伸べられた右手に杉江は目を虚ろにしながらも笑みを浮かべた。
「ッ、それじゃあ!!」
「でも」
"パチン"
「少し、遅かったみたい」
その時、何処か遠くから指を鳴らしたかのような音が辺りに響き渡った。
「…………セ」
「何だ今の音、いやそれよりもこの声は……まさか!!」
それは柚子でも杉江でもない"獣の声"。
「殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺殺殺殺殺殺セ殺セ殺セ殺セセセ殺殺殺セ殺cscoidja;l殺セlc,a@殺セkmvcpe殺セlka殺セ殺セ殺kfampmcセ殺lpfekp!!!!!!!!」
殺意の怪物が目を覚ました声であった。
「殺Sぇeェ!!!!」
「KILLER!? 死んだはずじゃ!!」
突然のKILLER登場に驚愕する柚子。それもそのはず、鴉目からは「KILLER死亡」の報告を受けていたからだ。しかし、そこに居るのは紛れもないるる本人。もはや理性は感じず、無残に引き裂かれた包帯が傷の痛々しさを引き出していた。
無論、報告の改ざんは傀儡卿の仕業だが、傀儡卿はるるとは無関係。では何故、死人同然の状態、戦うはおろか動く事さえ困難であったるるがここ居るのか。
その理由はとても単純明快、"目が覚めたから"。
先程の音、音の衝撃波は御井を攻撃する為ではない、るるの脳みそを刺激する為に鳴らしたのだ。
その後、意識を取り戻したるるは肉体的制約により強制的に内臓を魔体に変換し、そのままKILLERとして近くに居た柚子に襲い掛かったのである。
「アaaアaあaa!!!!」
「くッ!!」
本人の意識関係なく本能のまま襲いかかるKILLER。それに対し、柚子は銃口の向きを変え銀の弾丸を放つ……が、怪物は全く怯まない。例え脳みそをぶちまけたとしても、痛みを感じない殺意の怪物相手では止める事は出来ないのだ。
「…………」
「杉江先輩……どうしてッ」
柚子が声を掛けても杉江は静かに見つめるだけ。先の発言と襲われていないことからKILLERと仲間だと推測出来るが、杉江の言葉を信じていた柚子にとって"裏切り"に等しい行為であった。しかし、今はそんな感傷に浸る余裕も無い。
『口説いている余裕は無いぞ……構えろ!!』
「ajcijejakocpciv!!」
「ッ!!」
アンドロマリウスが警告した瞬間、KILLERは一瞬で柚子に近づき【獣の牙】を思い切り叩きつける。文字通り命を削った攻撃は地面をも崩壊させ大きく揺らした。
だが、そこに潰された柚子の姿は無かった。
「はぁ……はぁ……ッ」
息を切らす柚子。アンドロマリウスは蛇の悪魔。柚子は左手を魔体に変え、枝に絡めて攻撃を回避したのだ。
とは言え、今回が上手くいっただけで次も出来るとは限らないだろう。あの攻撃スピードに加え、たった一撃で2,3mの大穴を開ける破壊力……柚子は冷静に状況を分析し、冷や汗を流す。
(これが指定災害種の力……!!)
このままでは杉江の説得するどころかKILLERに殺されてしまう。柚子が次の一手を考えていた正にその時、雷鳴のような凄まじい音が辺りに響き渡った。
「ッ、今のは……!!」
すぐさま音のした方向へ振り向くと、その目に映ったモノは__天まで続く黒い嵐だった。




