65.我がまま
「もう少しで戦いが始まってしまう。そしたら憂は……どうすれば」
本栖神社地下第四陰陽寮基地廊下にて、柚子は一人悩んでいた。
鴉目から「ONEが陰陽寮に近づいて来ている」、その報告を聞いてから柚子は憂とどう向き合えば良いのか分からくなってしまったのだ。
憂と最後に会ったあの時、確かに自分は「憂を助けたい」と心から思っていた……だが、結果は最悪。正面衝突が今まさに始まろうとしていた。例え副隊長である自分が呼びかけても、今更討伐戦を回避する事は不可能だろう。
『まだ悩んでいるのか、柚子』
「アンドロマリウス……俺は、俺はどうすれば良いんだ」
悪魔に縋る人間、悩んだ時はいつもこうだ。生まれた時からずっと他者の命令通りに生きて来た柚子は「自分で考え行動する事」が大の苦手だった。
そんな柚子にアンドロマリウスが掛ける言葉は……
『正義を成せ』
「正義……今はそれどころじゃ」
『正義とは"我がまま"だ、柚子』
「我が……まま……?」
その言葉におもむろに顔を上げる柚子。"我がまま"とは無縁の人生を生きて来た自分にとって、やけに響く言葉だったからだ。
『そうだ。信念だ道徳だと唱えたところで"貫けなければ意味が無い"。故に、最後まで我を通す者が正義と呼ばれるのだ』
「……なぁ、アンドロマリウス。どうして、お前は"正義の悪魔"なんだ」
アンドロマリウスは"正義の悪魔"。しかしアンドロマリウスの"正義の定義"を柚子は知らなかった……でも、今なら分かる。
『そんなもの決まっているだろう____俺が我がままだからだ』
「……はは。何だ、簡単な事だったんだな」
傲慢であり不遜、それが悪魔の在り方。そんな在り方に、柚子は心惹かれてしまった。
『分かったのなら行動しろ。時間はもうない』
「そうだな、じゃあまずは」
アンドロマリウスに発破をかけられ、ようやく覚悟を決めた柚子。しかし、事態はそう単純なものでは無かった。
「あれ……副隊長、どうしてこんな所に」
行動しようとしたその時、一人の陰陽師に声を掛けられた。だが、その男は何故か不思議そうに柚子を見つめている。
「ん? いやちょっとな。何か用でも」
「用も何も……先程まで表に居たじゃないですか」
「……は? 何言ってるんだ。俺は最初からここに…………!?」
可笑しな事を言う男に目を細める柚子だが、すぐさま「この状況の可笑しさ」に気付く。いくら人気の無い所に居たとしても、"誰の声も聞こえて来ない"のは可笑しいのだ。
「おい!! 他の隊員はどうした!!」
「ど、どうしたって、表に隊員を全員配置しろって」
「誰がそんな事を……ッ」
「ふ、副隊長が言ってたじゃないですかぁ!!」
柚子の圧に押されながらも答える男。しかし自分は指示を出す所か、この場所から動いてすらいない。これが嘘じゃないとすれば、この矛盾は……
『嵌められたな、柚子』
「ッ!! クソッ!!!!」
戦いは既に始まっていた。誰かが自分を騙って部隊を動かしている。もしも集められた陰陽師達が偽物だと気付いてないとしたら……柚子は最悪を想定し、そして最悪を止めるべく急いで表へ駆け出した。
「…………」
あっという間に柚子の姿は消え、廊下に残るは男が一人。
「…………ぁまり活躍されてもぉ、困りますからねぇ?」
男は二チャリと、顔を歪ませた。
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「殺したのは貴方ですか、杉江先輩……ッ」
「ええ、そうよ」
「何で、何で殺したアンタが泣いているんだ!!」
「……何ででしょうね」
苦虫を嚙み潰したような顔で声を荒げる柚子。仲間を見るも無残な姿に変えた張本人が誰よりも苦しそうにしているのが理解出来なかったからだ。今すぐにでも引き金を引いて復讐を果たしたかった…………だが、それでも。
「投降、してください……!!」
「殺さないの?」
「本当は、ここで殺すべきだ…………でも!!」
柚子は目を見開き、声に出す。
「俺は殺したくない!! 俺が俺で在る為に、貴方には生きて罪を償って欲しいんだ!!」
柚子は己の正義を貫くと、そう宣言した。
実際、投降した所で杉江がどうなるかは分からない。
だが柚子は見てしまった。自分によく似た杉江の在り方を。
故に比べてしまった。"我がままに生きる在り方"と"自分で生きる事を放棄した在り方"を。
だからこそ柚子は変えたいのだ。絶望を希望にする、そんな傲慢不遜な在り方に。
「何それ、告白? とても酷くて……我がままね」
「あぁそうさ。俺の正義の為に生きてくれ…………それに」
柚子は不敵に笑う。
「女の子一人救えないで、友達が救えるもんか」
その姿はまさに____悪魔だった。
柚子君の圧倒的主人公感()
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