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64.死ね

 満月の夜、月明かりが照らすのは赤い海に溺れる首無し死体……そして、"生きた死体"が一つ。


「どこで間違えちゃったのかな、私」


 赤い飛沫に濡れ、生気がまるで感じないその少女は……そう静かに呟いた。




~~~




 それは、一瞬の出来事でだった。


「"とうに見えている"、随分と余裕そうですね」

「……」

「……そうですか。分かりました」


 杉江の無言に「これ以上の会話は無駄だ」と悟った柚子はそのまま後ろへ振り返り、部下の陰陽師達に鼓舞をし始めた。


「お前達!! 敵はONEでもKILLERでもない!! 連中の中で奴が"一番弱い"!! これは勝てる戦いだ!!」

「「「おぉ!!!!」」」

「だからお前達、絶対に目を逸らすな!! 目を逸らさなければ必ず勝てる!!」

「「「はッ!!!!」」」


 陰陽師達は皆気合を入れ、目に力を込める。


 確かに柚子の言う通り、同盟組の中では杉江が一番戦闘力に欠けている。全てを吹き飛ばす力も、殺し続ける精神も、人を喰らう狂気も彼女には無い。殴り合いをすれば、必ず杉江が敗れるだろう。


 だが、それはあくまで魔眼使い同士の場合。

 

「全体、突撃!!!!」

「「「うぉぉぉおお!!!!!!」」」


 魔眼使いと人間の戦いにおいて、もっとも恐ろしい相手は精神型だ。何故なら____


「死ね」


 その一言で、全てが終わるからだ。


「あ、あああ」


 誰かが頭を抱えて立ち止まった。


「ああ」


 次々に頭を抱え立ち止まった、その理由は脳に送られる"膨大な情報量"。


「ああああ」


 脳に収まらない膨大な情報量を処理する為に血が頭に送られ続けている。顏が赤く腫れ頭蓋骨を圧迫する程に。


「ぁ、ぁああ!!」


 対象は「目を合わせた相手」____ここに居る人間全てが【全てを知る】魔眼の対象だ。


「あああぁぁぁあああ!!!!!!」


 汚い叫び声と共に、赤い風船が無様に割れた。顏を真っ赤にして、頭が破裂して、誰も抗えず死んでいく。降り注ぐ血の雨は暖かく、やがて冷たくなっていく。


「……流石ね」


 杉江は血の海に立っているもう一人に話しかける。


「いえ。私はただ、誘導したに過ぎません」


 そう言った途端、柚子の顏が()()()()()()()、現れたのは前髪が七三分けの男。


 雨来 出雄の契約悪魔は《オセ》。目の前に居る相手にそっくりそのまま変身する事が出来る【姿を変える】魔眼使い。

 KILLER討伐戦以降、杉江は雨来と秘密裏に連絡を取り合っていたのだ。


「さて……杉江様から出された条件はこれにて達成ですが、"我が結社に入る"という事でよろしいでしょうか?」

「えぇ……居場所があれば何処でも良いわ」

「かしこまりました。ではさっそ__」


 杉江を移動させようした瞬間、白銀の弾丸が雨来の脳漿をぶちまけた。


「ぐぅぅぅああ!!!!」


 即死だけは免れた雨来は意識が消える直前、()()を取り出して身体を修復する。


「はぁ、はぁ。どっから撃ちやがった……ここは丘の上でしかも森の中だぞ!? どんな化け物狙撃手だボケがッ……んん。失礼、取り乱しました」


 雨来は無傷の自分に変身したものの、殺されそうになったせいか口調が少し荒い。


「杉江様、ここは危険です。ただちに」

「ここに居るわ」

「非難を……はい?」


 杉江は狙撃されたにも関わらず、逃げようとはしなかった。


「はぁ……」

「……杉江様?」

「今狙撃したのは"本物の彼"でしょうね。ここに居たらまた狙撃されるわ」

「でしたら」

「でも、私は彼らを殺した責任がある……だから私はここに残る」

(……()()())


 雨来は説得を諦めた。何故なら杉江は……生きる事を諦めていたからだ。そして雨来もまた、死人に付き合って死ぬ程愚かでは無かった。


「畏まりました、杉江様。ご武運を」


 そうして雨来は杉江に一礼すると隼に変身し、その場を去る。

 杉江はただ、それを静かに眺めるだけであった。




~~~




『藍、どうして逃げなかったんだい?』

「……分からないわ」


 フォラスは知っていた。杉江が残った理由が「殺した責任」では無い事に。しかし、他でもない杉江自身がそれを理解していなかった。


「多分、疲れたのよ。居場所を作る為に殺して、居場所が無くなって、新しい居場所を作る為にまた殺して、殺して、殺して……」


 杉江はあの居場所(倶鳥那高校)を作る為に人生を尽くして来た。それもこれも、全てはもう二度と居場所を消させない為。


「私は……みんなと一緒なら、それで良かった」


 お母さん、お兄ちゃん、そして()()()()()()()。あの頃はみんなが笑顔だった。それが壊れたのはきっと…………私のせいだ。


「どこで間違えちゃったのかな、私」


 無色の雫は血と混ざり合い、赤く染まる。死んだような白い顔に赤い涙は良く映えいた。


「貴方はどう思う…………廷出君?」


 その視線の先には、拳銃を構える柚子の姿があった。




杉江先輩の過去話はまたいずれ。


おまけ(設定説明)

陰陽師弱くない?とお思いかもしれませんが、基本的に

魔眼使い=祓い目

その他=鴉目&補助

となっています。今回のメンバーは補助で呼ばれたという訳です。


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